先月8/29、奈良県~大阪府で起きたこの出来事について・・・。
事の詳細は、こちらの
新聞記事でどうぞ。
この件について思うことなんですが・・・。
奈良県の周産期医療体制不備の指摘、病院側の受け入れ拒否批難は山ほどあれど、この妊婦の“落ち度”に対してスポットを当てるマスコミの少ないこと・・・。
(関西ローカルのTV番組「ムーヴ」では、この件に関して取り上げていました。)
まず、この妊婦は妊娠7ヶ月で一度も産科を受診していなかったということ。
おそらく母子手帳の交付も受けていないでしょうし、胎児の状況や各種の検査も受けておらず、母体・胎児の健康管理もできていない状態だったと考えられます。
もちろん、産科を受診していないのですから、「かかりつけ医」もいないわけで・・・。
妊娠・出産には、この「かかりつけ医」の存在が、いざという時にとても重要になります。
仮に「かかりつけ医」がいれば、妊婦の搬送はもっとスムーズに行なわれたと思います。
(今回の事例では、「かかりつけ医」がいないため、周産期の搬送先探しのネットワークが活用されなかったそうです。)
母子の健康状態がそれまでの診察・検査で把握できていれば、「かかりつけ医」が素早く適切に対応できますし、「かかりつけ医」の病院施設で治療不可能な場合、病院のネットワークを通じて、より高度な医療が施せる病院を探すことも容易でしょう。
(妊婦がこれまで受けてきた検査結果や症状の伝達は医師間でスムーズに行なえます。)
この妊婦のように、過去に流産の経験があり、今回も流産の危険性が受診によってあらかじめ分かっていれば、流産の際、緊急の別病院の確保もできていたのかもしれません。
ココが大事なポイントだと思います。
今回の場合、この女性の“産科未受診”が最も問題だと考えます。
「かかりつけ医」がいないことで、救急隊も一般のケガ人・病人搬送の手段を取らざるを得なかったということでしょう。
ゼロからの病院探しです。
その結果、予想外にも手間取ることに・・・。
妊娠してから一度も産科を受診せず、陣痛が来て初めて救急車を呼ぶ、いわゆる「飛び込み出産」が増えているそうです。
飛び込み出産の妊婦は、診察を受けていないため、母子の状態が把握(例えば、母親の病歴・持病。逆子であるか否か。感染症の有無、帝王切開が必要かどうか?・・・など。)できないために出産時のリスクに責任が負えないということで産科医は敬遠する風潮があり、病院としても、飛び込み出産の場合、出産費用の未払いが多いので、これまた敬遠するという現状のようです。
このような状況も、受け入れ病院探しが手間取る要因になったのではないでしょうか?
さらに追い討ちをかけたのが、奈良県の周産期の緊急救命体制の未整備です。
奈良県には高度な周産期医療が行なえる「周産期母子医療センター」が設置されていません。
今回の場合、大阪府の総合周産期母子医療センター(大阪府内では4病院設置)のひとつである高槻病院へ搬送されました。
奈良県内で妊婦が重篤な状態である場合、大阪府の各総合周産期母子医療センターに搬送されるケースが多いそうです。
奈良県内の高度医療が必要とされる妊婦が県外医療施設へ搬送される県外搬送率は、平成16年で37.2%ということです。
ソフト・ハードの両面で妊婦さんが厳しい状況に置かれている奈良県ですが、これは大なり小なり各都道府県が抱えている問題ですね。
産科医の不足は、誠に深刻な問題で、このような事象はこれからも起こる可能性が高いと思います。
産科医の充足、周産期医療体制の整備については、行政・政府をあげて国策として行なう必要があると思います。
このような状況では、お母さんが安心して子供を産めません。
(妊娠・出産は、経験された方はお分かりだと思いますが、多くのリスクが伴ないます。お母さんは、妊娠中毒症・流産・子宮頸管無力症。また、出産時には胎盤がはがれる際の大量出血など多くの危険にさらされます。)
同じく深刻な小児科医の不足と合わせて、これこそ大幅に予算を割いて行なう必要があると思います。
少子化、少子化とよく言われる昨今ですが、安心して妊娠・出産できる環境の整備がまず必要でしょう。
そして、つくづく感じることなのですが、マスコミの受け入れを拒否した病院・医師へのバッシング・・・。
少し度が過ぎるような印象を持ちます。
マスコミは過酷で末期症状とも言える産科医療を取り巻く現状を理解した上で、批判しているのでしょうか?
奈良県では昨年にも産科医の医療ミスで妊婦が死亡しています。
(このときの記事は
こちらから。)
確かに医療ミスを起こしたことは、大変問題ではあるのですが、マスコミの病院側へ対する過度の批判やバッシングによって、今年、この医療ミスを起こした病院は産科を休診にしてしまいました。
この休診により、奈良県中南部の産科がゼロになるという事態に・・・。
マスコミの過度のバッシングにより、結果的に地域住民が不自由を強いられる結果となっています。
マスコミは自らの報道により、地域医療の一部を崩壊させていることを自覚しているのでしょうか?
一時のセンセーショナリズムで医療ミス・病院の責任を大々的に報じ、その結果、どのような影響が地域医療に及ぼされるのか?・・・ということの視点・自覚がマスコミにはないように思います。
報道とその影響に対するバランス感覚が取れていないようです。
今回のこの出来事。
報道を鵜呑みにすることなく、事実関係を冷静に見てみたいと思います。
とにかく妊娠したと思ったら、産科を受診しましょう。