どうも、プリクラッシュブレーキ(衝突被害低減ブレーキ)のセンサーについて、一般的に「
レーダー信仰」のようなイメージがあるのではないか?と感じることがあります。
カメラより、レーダーで対象を「見る」方が優れている。
と、思っているユーザーが多いような気がします。
たぶん、数十キロ(イメージとしては数百キロ?)離れた敵を探知することが出来る航空機のレーダーのイメージをそのまま自動車に持ち込んでいるのだろうと思うのですが、そもそも背景に何も無い、ただ広いだけの大空を飛ぶ少数の飛行機を探知する技術と、ありとあらゆる形状と反射率をもつ無数の物体を背景にした複数の自動車や歩行者を探知する技術は、全く違うものです。
最新の軍用レーダーでさえ、例えば自機より低い高度を走査する場合、地表や海面のごちゃごちゃした背景からの反射波と、その手前の航空機を識別するのは困難です。ドップラーレーダーを使って、地表に対して(=自機に対して)速度差がある「固まり」を抽出して、初めて「何かがいる」と分かる程度。
自動車のレーダーによるプリクラッシュブレーキが「時速5km以上で動いているいる場合に作動する」という注釈は、ドップラーレーダーが機能するためにどうしても必要な条件なのだろうと思います。
上の写真は古いミリタリーフライトシミュレーター(F-15Eストライク・イーグル)のマニュアルで、いくつかの対地レーダーモードを解説しているページです。走査する対象にあったモードを使用しないとうまく相手を捕らえられない、という事が書かれています。
その中には、合成開口レーダーマッピングという機能があります。数十キロ離れた数キロ四方のエリアを解像度数フィートの精度で走査しマップのような画像を生成するという機能ですが、そのマップを得るためには、対象エリアに対して30度くらいの角度を保って数分間飛行し、その間、レーダーを掃射し続ける必要があります。それだけ時間をかけて、しかも目的地とは違う方向に飛んで、やっと荒い(しかも建物の影になる部分は真っ黒な)マップが出来上がります。
自動車につけられたレーダーはもっと近距離しか走査しませんが、走査すべき範囲(走査角度)は桁違いに広いはずです。もちろんF-15より波長の短い(=解像度の高い)レーダー波を使っているし、処理速度も桁違いに早くなっているはずですが、そこに何があるか?が分かる精度の情報を得るのは大変難しいことのように思えます。(何か?が分からないとその後、こちらがどう反応すべきかの最適なプログラムが選べません)。
ワンセット数千万円の軍用レーダーも、まず、広い範囲を走査し、何かあると分かった時点でそこを集中的に走査して、場合によっては、広範囲の走査は中断して、そのモノだけを追跡する、といったように、いくつものモードを切り替えて運用します。そのため走査すべき相手が多くなると破綻します(思いがけない方向から敵機に接近されて不意打ちをされるとか)
レーダーは遠く離れた、背景がすっきりしたところにあるモノを探知するのに適した技術ですから、自動車の正面から掃射して、複雑な背景の中から比較的短距離の複数のモノを同時に探知し、並行して識別するには無理があるのではないかと思います。
ちなみに、タイトルの「Mark 1 Eyeball」というのは、最も信頼できる探知装置、「M何がしレーダー」より信頼できる探知装置のことを指しています・・・曰く、「自分の目で確かめろ!」という意味で使われる言葉です。やっぱり見える範囲なら、人間の二つの目であれ、ステレオカメラであれ、見たほうが早いのかも知れませんね。
Posted at 2015/06/29 00:45:51 | |
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★徒然に車のことなど | 日記