2019年6月15日(土)。
灰色の空から強い雨が落ちる土曜日。
気温も上がらず少し肌寒い休日の朝。
早くも6月も中旬に差し掛かっている。
※掲載の写真は、雨の吹き込むバルコニーでこの日撮影したもの。普段はやらない加工を施しています。
ブログ内の文章や内容とは一切関係がありません。ご了承ください。
雨には匂いがある。
降り始めは特に強く、なぜか子供の頃を思い出す。
半世紀も前、雨の香る土曜日の午後、住まいのあった集合住宅を出て、
川を越え、急な坂道を登って隣駅にある病院に通った時期がある。
坂を登りきると、一気に緑が濃くなり、
振り返れば、眼下に団地の棟が整然と並んでいた。
前方はまた急速に丘を下って、やがて静かなキャンパスの一角を掠め、
再び丘を登っていくと、坂の途中にあるモダンな丸窓の医院にたどり着く。
生い茂る立木が雨に濡れ、濃厚な木肌の香りを立ち上らせていた。
名前の分からぬ鳥が高い鳴き声をあげて頭上を行き過ぎ、
見上げた顔に細かい雨粒が降りかかった。
診療を終えると丘を下って左に折れ、整備された道をT学園駅に向かう。
駅前の店を漫然と眺めた後、雨の音がわずかに聞こえるホームに佇み、
下りの各駅停車で最寄り駅までの1駅分だけ、私鉄の1両目に乗るのだ。
5分にも満たない時間、いつも飽きずに眼前に伸びる雨の線路を見ていた。
電車が動き出すとすぐに緑の多い丘を抜け、間もなく大きく開けた街に出る。
国鉄と私鉄駅が分離され、駅名さえも統一されていなかった頃の街の玄関口。
ここの駅ビルで火災が起きたことを今でも鮮明に覚えている。
駅を出て、住み慣れた街に降り、大きな踏切を越えてバスを待つ。
バス停のすぐ脇には箱根湯本の饅頭屋が出店を構えており、
月に1度ほどここで買い食いをすることが病院通いのモチベーションだった。
歩いても帰れる医院なのに、わざわざ電車→バスで遠回りをする理由はここにあった。
小さな今川焼きのような皮の中に白餡が詰まった熱々の饅頭を頬張って、
黄色い神奈中バスに乗車して帰宅する。
大通りを右折して道なりに行って、大きな神社のある交差点をさらに右折する。
すると間もなく小さな川を越え、再び右折し、団地に沿う取り付け道路に入っていく。
車窓には雨に濡れた自分の育った街が広がっていた。
もう何年もあの街に戻っていないが、
雨の匂いに誘われて、久しぶりに何十年も前の記憶が鮮やかに蘇った。
梅雨が明けたら、ふらりと懐かしいあの場所に行ってみようか・・・。
6月の雨が呼び起こした、遠い遠いセピア色の記憶。。。
FUJIFILM X-T3 FUJINON XF80㎜ F2.8 R LM OIS WR Macro
(了)
Posted at 2019/06/21 19:46:47 |
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