2012年12月27日
エンジンに水を噴射したら?
皆さま、つたないブログをいつも読んでいただいてありがとうございます。
予告どおり、今日は水噴射エンジンについて書き留めておこうと思います。
何故、急に水噴射かというと、今月、第二次世界大戦で使われたゼロ戦で実動する奴が日本に
里帰りしてきたニュースを見て、思い出したからです。(所沢で展示されているようです)
正式には、零式艦上戦闘機と呼ばれたものです。最初は三菱重工が製造していたようですが
その後は、東京立川の中島飛行機や今年、新日鐵と合併する事になった住友金属も製造に参加
したようですね。 そのため、初代1000馬力ぐらいから2000馬力超までの何台かのゼロ戦が作られ
たようです。住金は、確か超々ジュラルミンと言ったかな、軽量合金を提供したのだと思いましたね。
私は、元々、航空関係の業界にいましたので、職務だけでなく航空機の技術にも少し関心を
持って学んでおりましたので、どうしても飛行機の方に寄って行ってしまいます。
さて、ゼロ戦は、最初は約28リッター星型エンジンで1000馬力ほど出していたのですが、最終的には
改良されて約36リッターの排気量で2000馬力を越えるぐらいにまでなりました。(空冷エンジンです)
因みに、2.4リッターの私が乗っているデリカD:5(4WD)は、165馬力です。
終わりの方のゼロ戦でもリッターあたりの馬力は56馬力ほどで、デリカは69馬力になりますので
さすがに何十年か経て、内燃機関の技術もアップしているのだなと思いました。
さて、このまま行くとゼロ戦の歴史や技術を書いてしまいそうなので、話を元に戻しましょう。
先ずは、水噴射とは何か?
当時の戦闘機はとにかく軽く、早く、航続距離を長くなどの目標がありました。そのため、ゼロ戦の
途中の開発から、今で言うスーパーチャージャー、すなわち排気ガスの圧力を利用して回すターボ
チャージャーと異なり、エンジンのクランクシャフトで直接過給機を回す仕掛けが作られました。
なぜそんなものが必要だったかって?
自動車の場合と違って、3-5000m上空を飛ぶ飛行機にとっては、空気が思い切り薄いのです。
つまり前のブログで書いた酸素供給エンジンではないのですが、酸素が不足する状態で最高出力
を求められたから、なんとか酸素量を増やそうということで吸気する空気を圧縮して供給するような
事が考えられたわけです。
このように考えると燃料がエネルギー源か、酸素がエネルギー源か、一体どちらがエネルギーの
源なのか私も悩んでしまいます。
そのようなスーパーチャージャーでしたが、とんでもなく大きな欠点が有りました。
それは、空気をレスポンスよく、即ち素早く気体を圧縮すると、気体の温度が急激に上ります。
中学で習った気体の性質に気体に関する「体積と温度と圧力」の関係ですよね。
ゼロ戦の場合は、これが問題でただでさえ温度を下げたい空冷エンジンが高温になってしまい、
エネルギーの取出しが旨く行かなくなってしまいました。
それなら外国の戦闘機のように水冷にするか、スーパーチャージャーで圧縮された空気を何かで
冷却してからエンジンに送り込むかしか方法はありません。 日本の場合は、後者を選択しました。
即ち、スーパーチャージャーのために温度が上ってしまった吸入エアーの温度を下げるために
クーラーとして、圧縮された空気に水を噴射しようというものが開発されました。
これが初期の水噴射です。
もちろん水は、庭にホースでまくような状態ではなく、大粒とは言え、昔の霧吹きで得られるような
水です。ですから、湯気とか水蒸気と言うほど細かくはありません。この水による吸熱と気化熱の
利用です。
これで開発が終わって上空まで飛んで行ったゼロ戦ですが、上空では、また問題が発生しました。
上空は元々温度がとても低いのです。富士山やモンブランの頂上温度を考えてみてください。
何か矛盾しているように思えませんか?
過給機による温度上昇を防ぐために水噴射で水の気化熱によって吸気温度を下げようというのに、
上空の気温はとても低い??? なのです。???
しかし、これが矛盾でもないのです。温度の低い空気でも一気に圧縮すると一瞬で100℃を越える
ような空気に変わります。この一瞬がポイントなんです。瞬間であればあるほど温度は高くまでアップ
します。 このことを断熱圧縮といいます。断熱圧縮は(反対の断熱膨張もそうですが)、外部からの
熱の伝達がない(出るも入るも)ぐらい素早く、圧縮したり、膨張させたりすることをいいます。
このとき、気体の圧力に見合った体積に変わるとともに、圧縮か膨張かで熱が出たり、吸熱したり
します。 って習いましたよね。 忘れた方は、中学の教科書をもう一度見てみてくださいね。
掛け算、割り算しかないただの比例式ですから。
ゼロ戦では、低温である上空でもスーパーチャージャーの出力を冷やさないといけないのです。
いかに急激な圧力変化をゼロ戦のスーパーチャージャーが与えていたかわかりますよね。
さて、上空で起こった問題はなんでしょう。
笑わないで読んでくださいね。
実は、送り込んだ噴射水が凍結し、氷の粒がエンジンに吸い込まれる事になってしまったのです。
夏の暑いときにカキ氷やフローズン何とかは人にとってとても喜ばしいのですが、上空を飛んで
いる飛行機のエンジンにとっては一大事です。
当時事故が有ったかどうかは知りませんが、エンジンがフローズン状態のものをがりがり摂取して
と考えると、かなりヤバかったでしょうね。
これを解決するのに、
不凍液がすぐ考えられました。車の場合もそうでしたが、当時の不凍液は、単純にアルコールで
薄めた水でした。
もし、あなたの車で冷却問題が生じて困ったら、夏なら水で、寒い冬なら安酒の一升瓶をどぼどぼと
入れましょうね。 無理に不凍液を売っている店を探す必要はありません。安い焼酎で充分です。
発想があまりにも安易で単純でびっくりしますよね。
「水だと凍るから不凍液にしよう」だなんて。
そうです。こうして水噴射エンジンを持つゼロ戦が完成しました。 水といいながら、実は当時の
不凍液(水メタノール)でした。
エンジンの排気量も1.3倍ほどに増加されましたが、その結果、当初機の2倍以上の出力を得る事
になりました。もちろん噴射した水の蒸発膨張や吸気温が下がったことによる出力増加も含めてです。
このようなエンジンの吸気を冷やす仕組みはクーラーといいます。
では、インタークーラーって?
車でもスーパーチャージャーの出力を冷却する仕掛けを、今ではインタークーラーと呼びますね。
クーラーの前にインターとついている理由は、「スーパーチャージャーとエンジンの中間に入って働く」
という意味です。ゼロ戦や戦闘機では、1段のスーパーチャージャーではなく多段のものが使用され
それぞれの間にインタークーラーが入っていましたね。
こうしたエンジンに対する水噴射技術は、ジェットエンジンにも摘要され、車ではレーシングマシン
でも当たり前に使われていましたが、F1レーシング規約の改定で水噴射は利用出来なくなりました。
何故、禁止されたのでしょうか? 良く解かりませんが、よっぽど出力が上ったのでしょうかね。
如何でしょう、自分も水噴射をやってみたいと思った方はいらっしゃいませんか?
正直、私も今やったらECUがどんなレスポンスをするのか知りたいという欲望に・・・・・。
やったぞという方は、結果を知らせてくださいね。
さて、自動車の話に戻ししましょう。 40数年前でしたか、水噴射装置なるものが自動車エンジン
用に販売されていました。販売会社の名前も忘れてしまいましたが、取締まり法以前のねずみ講
式の販売方法でかなり広域に販売されたようです。今では、マルチ商法が禁止されて、もう見つ
からないでしょうが。
その当時の車といえば100%キャブレターをもっており、その負圧を利用すれば適当なサイズの
水噴射ジェット一つでポンプも何もなくても自然に霧状の水が噴射されるという代物でした。
ねずみ講の説明会場以外では、装備したらこんなに効果があったという話は、残念ながら聞いた
ことがありません。 きっと、買っただけで自分では面倒で装着せず、人への販売だけが先行した
ものと思われますが、私個人的には残念でなりません。 本当の効果を自動車メーカーに持ち込ん
ででも調べて欲しかったですね。
それはともかく、
皆さまが想像されるように、エンジンにはラジエータがついており(つまり水冷です)、エンジン温度
が適切になるようにサーモスタットなどで制御されているわけです。
この温度をもっと下げた方が良いのか、もうちょっと高めた方がよいのか、私にもわかりません。
現状は少なくとも適温に近い温度であろうと推定するだけです。
少しぐらい温度が下がってもかまわないとして、水噴射ができたら水蒸気爆発の威力も借りて、
「自分の車のエンジンももっと高出力になるのでは」と質問を下さる方もいらっしゃるでしょう。
答えておきますね、NOです。
えっ、一言の答えだけ?
ハイ。
ちゃんと説明しろって。 はい、解かりました。
噴射された水がエンジン内で蒸発し膨張してエネルギーとして使えるほど取り出せるようにする
にはエンジンの燃焼温度も噴射した水の量もまったく合っていないのです。
エンジン内は、もっと高温である必要が有りますし(100℃程度ではなく900℃前後)、
喰わせる水の量ももっとはるかに多い必要が有るからです。
勘違いしている方がいるようですね。
蒸気機関車も水蒸気爆発で走っているわけではないのですよ。
単に液体の水が沸騰して水蒸気に変わる時に急激に膨張して発生する圧力で走っているだけ
です。
申し訳ないのですが、今世の中にある全ての内燃機関のエンジンは、少なくとも蒸気爆発の
エネルギーには耐えられません。 人類は何世紀も前の相当古い時代に蒸気爆発エネルギーの
事を知っていましたが、それを継続的に安全に取り出す方法を見つける事ができなかったのです。
まるで、雷や台風のエネルギーと同じですよね。地球誕生からずっとあるのに取り出して継続的に
利用できるように誰にもできなかったなんて。
うまい方法を考えついたらノーベル賞ものですよ、エンジンも雷も台風も。
瞬間でもよければ、爆薬を使わない爆発物として軍事用にも水蒸気爆発は利用されましたが。
水蒸気爆発は、それほどのエネルギーを生み出します。
ですから、水蒸気爆発を利用したエンジンを望むのはやめた方がいいでしょうね。
実験しただけでも、あなたが死ぬだけでは済みませんから。
新聞には写真入りで載せてもらえるでしょうが。
と、今日は、ゼロ戦の里帰りから思い出した水噴射エンジンのお話でした。
それにしても、別会社とは言え、またまた三菱の名前が出てきましたね。うっふっふ。
もっとも、私は三菱の回し者ではありませんが。
次回は、来年になりますが、何を記録しておきましょうか。考え中、考え中、考え中です。
いよいよ年末になり、私は昨日から掃除で大忙しですが、皆さまは今年はどのような年でしたか?
どうぞ、ノロウイルスや風邪などに罹らないよう、新年を元気でお迎え下さいね。
どうか来年が、日本にとって良い年でありますように。
新たしき、年の初めの、初春の、今日降る雪の、いや積け吉事 (万葉集下巻 最終歌 家持)
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Posted at
2012/12/27 23:21:20
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