真実が明らかになる事。
世の中で起こる出来事のうち、それはむしろ稀有と云える。
歴史の表舞台から葬られ、記録は抹消される。
そして、何事も無かったかの様に、時間は流れ続ける。
【注】 長文 ・ ほぼノンフィクション
日差しの眩しい、とある 春の一日。
朝から庭仕事に精を出す。
甘夏みかん、今季最後の収穫だ。
4年前の枝打ちから徐々に回復、今年は約200個の実り。
カタチは悪いが、味はイイ。
皮はマーマレードに最適だ。 チビッコたち、頼んだぞ。
昨年の台風ラッシュにもメゲず、お疲れ様。
あと3~4ケ月、子供達に逢えるとイイね。
昼下がり。
あー、お茶がウマい…
黒糖ピーナツの素朴な甘みが身体を癒す。
どれ、一区切りついたので、駆けてくるか。
レブリミット間際、インジケーターがせわしなくシフトアップを要求する。
息つく間も無くコーナーが迫る。
9割程度でブレーキング ・ シフトダウン ・ ブリッピング、今日もカカトが冴える。
舵角が残った状態から右足に力を込める。
ムニャリとトルクステアを感じさせながらも、弾ける様に加速。 最高だ。
今日はノレている。
先日導入したアイテムも、正確に機能。
皮剥きを終えたニュータイヤもバツグンだ。
お気に入りの峠を駆けるには最高の気温、ブーストの掛かりも調子イイ。
こんな至福の時を提供してくれる ABARTHよ、ありがとう。 キミ、最高!
ピーーッ !!
警告灯点灯… よくアル事だ。
ほどなく路肩に停車、確認。
「ESP警告灯」
これで TTC ・ ABS ・ HHS 等、ESP絡みの機能を失った。
以前にも経験してるから、慌てないもんね。
実際に壊れた訳ではなく、何かの拍子にエラーが出て、電気的に遮断しているだけ。
むしろ無粋な足枷が外れ、より純粋な 「走り」 を楽しめる ひと時、歓迎。
ひとしきり駆けた後、Dに寄ってエラー消して貰えば済むコトだ。
では再び…
レブリミット間際、インジケーターがせわしなくシフトアップを要求する。
息つく間も無くコーナーが … 【 以下同文: 数十回繰り返す 】
東の空から夕闇が迫る頃、私の眼前は突如 ”闇” に包まれた。
唯一 ライト点灯マークを残し、メーターパネル ご臨終。
各所、チェック開始。
「走る」機能に全く問題はナシ。
ヘッドライト・ウィンカー・エアコンはじめ各機能ほぼOK。
死んだのは メーターパネル ・ ブーストメーター ・ ESP関連のみ。
「単にヒューズかな。」
予備持ってないし薄暗いし、閉店間際のDでサクッと交換すれば済むコトだ。
メーターは針も微動だにしない、だが普通に走るぶんには影響なし。
いや、むしろエンジン回転数を自らの経験・五感を駆使し、見極め、操る機会。
快感チャンス!
レブリミット間際、インジケーターがせわしなくシフトアップを要求 …
たぶんレブリミット付近、インジケーターが沈黙するなかシフトアップ。
息つく間も無くコーナーが … 【 以下同文: 10回ほど繰り返す 】
陽は沈み、ディーラーに到着。 「 ヒューズかな~!? チェックよろしくー 」
いつどこで始まったのだろうか…
確かに云えるコトは、このとき既に 「葬られし真実」 に足を踏み入れていた。
「テスター」 「保証」 「本国」 「新車」 「メーカー」 「前例」 …
素敵な単語たちが、かすかに聴こえてくる。
コーヒータイムのBGMにしては、やや枯れたトーンではあったが…
閉店時間を過ぎてなお、闇の街に浮かび上がるショウルームの中。
店内は私一人、静寂の時が過ぎていく。
ディスカッションを何度か交わしたが、あまり記憶に無い。
いや正確には、”記憶の引出し” を開けずにいる。
何故なら、「葬られし時間」だから。
薄めのコーヒーにやや飽きてきた頃、営業さんが歩を進め 私に告げる。
「 ヒューズが切れてました。」
ここまで約2時間。
最初に伝えた筈だが、もうどうでもイイ事だ。
「 あと5分ほどで作業終了します。」
… なるほど、よかろう。 あ、コーヒーもう一杯。
カウンターの奥でスタッフ達が真剣な面持ち。
ヒソヒソ話すその空気、店内BGMは既に切られている。
ジュリエッタ脇の小洒落たテーブル、くつろぐ私。
私の聴覚は 「ノーマル」 ・ 「デビル」 ・ 「初老」 の三つに切換えられる。
この場は迷わず ”デビルモード” 選択。
彼らとの距離、推定約8メートル。
重要な単語を捕捉するには、充分な距離だ。
もちろん、視線は手元の Car Graphic誌から外す必要もない。
スタッフの皆様、大事な話は 「密室」 でどうぞ。
なるほど。
でも、心配無用。
ご安心下さい。
「葬られし …」 判っているさ、男の子だもん。
全機能復旧。
先ほどまで沈黙していたタコメーターも、青少年の如く 激しく猛り、反応。
夜遅くまで、ご苦労様でした。 ありがとう。
見送り体制万全のスタッフたち、最後に私は彼らに言った。
「 予備のヒューズを5~6個くれまいか。 この症状は 必ず再発する からね。」
風が生温かい数日後の朝、コーヒーカップ片手に 電話を手に取る。
「 廻送車を手配してくれ。」
勿論、ヒューズは使い切った。
その間隔は日に日に短くなっている。
潮時。
ABARTH専用(でもない)修復工場に向け旅立つ 我が愛車。
大方の予想はついている。
ささやかな事実の奥に潜む、大きな「真実」がある。
永い別れの始まりだ。
急な案件の為、今回 Dは代車を用意出来なかった。
このコトも ”永い別れ” に拍車を掛けるであろうことは想像に難くない。
現に既に音沙汰なし…
堅く閉ざされた修復工場の扉の向う。
「時間」 と 「真実」 が ひっそりと葬られていく …
今回の一件で気付いたこと。
「あのヒューズ」 が切れている間の ”走行距離” がカウントされていない。
調べるうちに聴いたハナシ。
「メーカー内・ディーラー等で新車・入庫車を走らせる時、このヒューズ抜いてるよ」
勿論、全てではないだろう。 事の善悪をここで提起する気も無い。
確かなのは、クルマとして「走る」ことに関して影響は殆ど無いという事実を、
私が体験したコトだ。
計算すると、約120km 。
私の ABARTHは 「葬られし事実」 を持っている。
だが、他人がソレを知る術は何一つ無い。
ECUを解析しても不可という。
確定事項。
次回給油時の燃費計算、表面上 猛烈に悪いコト。
また一つ、お勉強してしまった…
そっかー
オドメーター、動かないんだ。
ふーん
あの ヒューズ かぁ。
良い子のみんなは、マネしちゃダメだぞ~ !!