
今回は全日本ツーリングカー選手権の思い出 『HR31スカイライン』③をアップします。
サブタイトルは
【実走行データー計測の重要性とドライビングの違い】
1.HR31スカイライン・グループAレース車データー計測 その2
①.インストメーター表示用排気温度計の作製
ターボ車のブースト圧設定の際には排気温度管理が重要です。
(ブーストを上げるとパワーは出るが、排気温が上昇しターボチャージャーが破損する。)
データー測定用CA熱電対用温度アンプの作製経験を生かし、インストメーター表示用の排気温度計も手作り。アンプ部にはデーターレコーダー接続用のBNCコネクタ出力付きとした。
他チームから『うちの車に欲しい』と言う声が多く、私は10台手作りし販売しました。
②.ブレーキローター測温1
ローターのベンチレーションだけでは冷却が不足するのでクーリングダクトを設置します。
しかしローターの外側、内側の冷却温度差が大きいとローターの反り(おちょこ型に変形)が発生するので難しいところです。
測定方法はブレーキパッドに穴を開け、熱電対埋め込み。熱電対はクロメル、アルメルを溶接手作り品。CA熱電対用温度アンプを介しデーターレコーダーへ、これで走行中の温度測定が出来ます。
クーリングダクト3種選定するも外側冷却が不足、最終的にはマウンティングベル形状変更で対処。 (マウンティングベル取付けボルト穴座面を除く取付け面えぐりで、冷却風が流れる様にした。)
③.ブレーキローター測温2
気温によりクーリングダクトの一部マスキングが必要な時があります。
普段の温度管理はピットイン後のローターを接触温度計による測定でしたが、途中から精度向上目的に非接触放射温度計を使用。
この非接触放射温度計は計測情報誌で紹介された新製品軽量小型の温度計。
センサー先端はφ5~6、ケーブルを介し本体へ、本体には温度表示、放射率調整、データー計測用出力付き。物体により放射率が異なるので事前に較正要。
先ずはモニターで使用、その後購入に至る。
軽量小型の非接触放射温度計を使用したブレーキローター測温は、日本初、いや世界初か?
この温度計は後にニスモグループCでも採用、その後日本レース業界で沢山使用された。
④.操舵力角(ハンドル切れ角、保舵&保持力)測定
各ドライバーの運転方法とHICAS(4輪操舵)テストの為に測定した。
この測定でドライバーのハンドルの切り方が良く分かる。
サンプル1.
亜久里選手がセッティングしたHR31グループAのステア特性は、亜久里選手は弱アンダー、
オロフソン選手は弱オーバーと評価した。
その違いをデーターで見てみると、
・亜久里選手はコーナー進入時のハンドル切込みスピードがやや早い、スパッと切る。
・オロフソン選手はスーと切る。
・T選手はドバッと切る、アクセルもドバッと踏むので強アンダー、プッシュアンダー。
タイヤ特性上ハンドル切れが早いとグリップ抜けがあるので、同じ車でもステア特性評価に違いが。
T選手はグリップ抜けでソーイング操舵をするので、タイヤ温度が高くなる。
タイヤ温度が最も低いのはオロフソン選手でした。
サンプル2.
別の場所で高速コーナーのギア位置を確認した。
・日本人ドライバー;ストレートから5→4→3速にシフトダウン後、3速でコーナリング、脱出後4速へ、
その後4→3速で次のコーナーへ。
・オロフソン選手;ストレートから5→4速にシフトダウン後、4速でコーナリング、4速で次のコーナーへ。
この区間タイムで速かったのはオロフソン選手、ギアシフト時間を除いた部分のタイムは全員同じ。
差が出たのはギアシフト時間、シフト回数が多い分遅くなった。
オロフソン選手はスェーデン人で温厚で優しい人でした。
過去のインターテックでVOLVO車に乗り、ブッチギリ優勝。
アンデルス・オロフソン、彼は最高のパートナーだった――長谷見昌弘
アンデルス・オロフソン氏死去
亜久里選手の右側がオロフソン選手。
サンプル1と2を各ドライバーに伝えたが、ワークスカーに乗るほどのドライバーは運転スタイルが固まっており、オロフソン選手走法をトライするには至らず。
レーシングドライバーを目指す方、他人より速く走りたい方はトライしてみては?
それと速いドライバーのデーターを測定、自分の運転と比較すると悪いところがよく分かります。
日産ワークスの過去のデーターも確認、比較してみたところ、
ハンドル操舵のベストドライバーは、オロフソン選手、黒沢元治選手でした。
黒沢元治は1969年日本グランプリを日産・R382で優勝
黒沢元治ドライビング講和
また左右Gとハンドル切れ角の相関グラフ作成で一目瞭然となります。
(1ラップ走行分データを積算、横X軸に左右G、縦Y軸に操舵角)
ハンドル右切り(+Y)で右G(+X)が上昇していく、カウンターステアをあてると右G領域(+X)で操舵角は反対の負の方向へ(-Y)。ハンドル左切り(-Y)で左G(-X)となる。
オロフソン選手、黒沢元治選手は+Xと+Y、-Xと-Y領域の波形が多い。
カウンターステアが多い選手は+Xと-Y、-Xと+Y領域の波形が多く追加される。
走行中データー計測でセッティング時間大幅短縮と車両状態が管理が出来るように、またドライバー評価だけでは不明な部分が見える様になった。
以上の内容をニスモ業務発表会で報告たところ好評、高評価でした。
翌年のレーシングスククール・ザウルス車には、計測器を使用したドライバー運転診断が追加された。それと実走行データー計測の重要性が認識され、その後の計測器購入が容易になった。
数年後に軽量小型のデーターロガーが販売され、走行中のデーター計測は常態化、パソコンを使用しリアルタイムで車両走行状態を管理する時代へ進化しました。
HR31グループAレース車のパワーステアリングとデーター計測についてのインタビュー記事です。 auto technic 1989年9月号抜粋
最下段に私と後輩の名前が載っています。(クリックして拡大すると読めます)
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