
横浜はジャズの街。その横浜のジャズの歴史に、というより、日本のジャズの歴史に重要な役割を果たした場所があります。野毛のちぐさというジャズ喫茶です。昭和8年に開業し、日本にジャズの種をまき続けました。ここに縁のミュージシャンはビッグネームばかり。穐好敏子、渡辺貞夫、日野皓正・・・多くのミュージシャンが、そして、ジャズを愛する一癖あるリスナーたちがこのお店に通いました。私も学生時代、90年代にはここに足しげく通いました。私のこのお店のイメージはまさしく”道場”。お店でおしゃべりはできません。ひたすら音に集中するのみ。リクエストするのも恐る恐る。だって、他のお客さんにとって私のリクエストが野暮だったらお店にいづらくなる。そんなちょっと怖いところでした。それでも、貧乏学生がなけなしのバイト代でレコードを買うための予習は、このちぐさやDown beatでしたものです。マスターの吉田さん(通称おやじ)が亡くなった後、しばらくは奥さんがお店を切り盛りしていたと思いますが、2007年に惜しまれながら廃業しました。

このお店はやはりジャズメンには特別な場所。だから、有志がお店の調度品や扉などの内装のほとんどを保存していたんです。それらのオリジナル調度品を用いて、本日、ちぐさが完全復活を遂げました。場所は同じ野毛。Down beatと同じ通りです。横浜市の「震災復興支援 空き店舗活用事業」を利用したとのことですが、被災地の従業員を雇い、当地の食材を使うなどをすることを条件に立ち上げ資金を得たようです。

復活したお店を切り盛りするのはちぐさ会という有志の方々です。「昔と違うから、お店でおしゃべりしても大丈夫だよ」と声をかけてくださります。長年使われたスピーカーはお世辞にもいい音がするとは言えませんが、その音色が20数年前の音楽武者修行時代に引き戻してくれます。リー・コニッツの「Very Cool」やミルト・ジャクソンの「Bags meets Wes」なんていかにもという選曲が何だかくすぐったいような気がしました。

結局、この場所で2時46分を迎えることになりました。そのときが来ると港中の船が一斉に汽笛を鳴らし、その音はお店にもかすかに聞こえました。お店は人生の先輩たちで超満員でしたが、その音を合図に各々が黙祷しました。震災から一年、そしてちぐさの復活と、今日はとても感慨深い一日となりました。
Posted at 2012/03/12 00:41:53 | |
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横浜 | 日記