自動車質gage automobileの債権者の権利に関するルジェLegeaisの概説は以下の通りである。自動車に関するのでここでもみんカラ版として多少の加筆をして投稿する。
「
406.特権の競合 - 質権者は動産質と抵当権の利点を併せ持つ。
他の占有移転型動産質の名義人のように、債権者は、県によって与えられる受領証reçuの保有が財産の物理的占有に等しいという理由で、「留置権」を有効に行使できる。ゆえに判例は留置権のある種の「非物質化」を認めている(Cass. com. 15 janv. 1957, JCP 1957, Ⅱ, 1006, note E. BECQUÉ; D. 1957, 267, note HÉMARD. 第三者の発意による自動車売買の場合、この権利は動産質におかれた物に代位された代価に移転する。; Cass. civ. 27 juin 1958, JCP 1958, 2, 10819, note E. BEQUÉ.)。したがって残債務があるという条件付で、債権者は効力のある地位にある。現実に自動車を占有する債権者だけが、例えば自動車修理工場経営者garagisteだけが、債権者の権利主張を抑止できる。
債権者は弁済として当該財産を裁判上の分配に付する、あるいは価値における「優先権」を行使するために売却する権利をもつ。債権者の権利は質入自動車の喪失perteまたは盗難volの場合に、保険金indemnité d'assurances上に移転する。質入財産を懸念するからには、債権者は、動産実行手続を改正する1991年7月9日の法律la loi du 9 juillet 1991の適用に関する1992年7月31日のデクレle décret du 31 juillet 1992によって整備された新たな差押手続や売却手続を利用しなければならない。したがって債権者は強制的なあらゆる売却以前に協議による売却を試みなければならない(Cass., avis, no 4,5 mai 1995; D. 1995, IR p. 147; JCP 1995, éd. G, Ⅱ, 22488, note H. Croze et T. MOUSSA; JCP 1995, éd. E, Ⅰ, 515, no 22, obs. Ph. DELEBEQUE, R.T.D. Civ.1996, 203, obs. P.CROQUE.)。
抵当権者のように、債権者は「追及権」を行使できる。実行済公示があることを考慮して、自動車の第三取得者は善意とみなされないし、それゆえに
民法典第2279条の主張をすることもできない。」[1]。
自動車質制度は
1934年12月29日の法律Loi du 29 décembre 1934 facilitant l'acquisition de véhicules ou tracteurs automobilesによって始まった。自動車質では設定者が自動車の占有を留保している。質権者は受領証の引渡を受け、これを動産質における占有移転とする。これを擬制的占有移転ということは
フランス旧法下における動産質と抵当権の区別-ルジェの項で前述した。また擬制的占有移転の例を
フランス旧法下における動産質の客体-ルジェの項で前述した。しかしながら、この擬制的占有は現実の占有よりも弱い。したがって修理代金として自動車本体を留置する修理工の留置権が優先する。
自動車質権者が設定者の受ける保険金に対してもつ権利とは要するに自動車質権者の保険金請求権に対する物上代位である。自動車質権者にはこの権利が認められる。なおパーレン内で述べることは、要するに質権者は債務の弁済まで自動車の引渡を拒むこともできるが、仮に設定者が質権者の同意なく第三者に自動車を売却し、登録を経由した場合でも、第三取得者はこれをもって自動車質権の効力から逃れることはできず、代価に動産質権の効力が及び、質権者の被担保債権が優先的に弁済を受けるということである[2]。
自動車質権は公示をされているので、第三取得者の動産即時取得に関する旧第2279条の主張が遮断される。
なお我が国自動車抵当法(昭和26年6月1日法律第187号)の対抗要件については第5条第1項が「自動車の抵当権の得喪及び変更は、道路運送車両法 に規定する自動車登録ファイルに登録を受けなければ、第三者に対抗することができない。」、と定めている。「抵当権」であるから質権と異なり、契約の成立要件のための占有移転は問題とならない。したがって、何らかの証明書の質権者への交付が必要とされることもない。また公示されているので、第192条の動産即時取得もされない。
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[1]Dominique Legeais, Sûretés et Garanties du Crédit, Paris, L.G.D.J, 1996, no 406. なお引用文中のパーレンは原注42および46だが、便宜上、本文中に挿入した。なお挿入した原注は原典の全てではない。
[2]佐藤英樹「フランスの自動車質(1)-占有移転なき動産担保制度-」愛知学院大学法学論叢法学研究23巻3=4号27頁、同「フランスの自動車質(2)-占有移転なき動産担保制度-」愛知学院大学法学論叢法学研究24巻1=2号13-14頁、同「フランスの自動車質(3)-占有移転なき動産担保制度-」愛知学院大学法学論叢法学研究24巻3=4号12頁。Com.4 juillet 1962,D.JCP1962,Ⅱ,12885は質権者の同意のない処分を第三者がした場合には、質権者の留置権は目的物換価代金に及ぶとする。またCom.15 janv. 1957, D.1957,267は、新車購入者破産Aに際し、国税当局BがAの破産財団Cに未納課税徴収の通知をし、それと前後してAの自動車質権者Dが被担保債権の弁済を受けるためにCに配当加入し、Cがこれにともない目的自動車を転売し、代金をDの残代金債権に充当する旨をBに通知した事件である。原審はDの留置権を根拠に権利行使を有効としたが、破毀院はCの転売がDの承諾のもとになされたものであるから、最早留置権を行使できないとして原判決を破毀した。
Posted at 2012/03/06 21:36:56 | |
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