A3はいい車でした(Dに返したので過去形.死んでません).
ちなみに,タイトルの意味するところは,一義的には
こないだ借りた代車のことではありません.
というわけで,燃費の話ばっかりしててもアレなんで,
僕が初めてA3SBというクルマを認識したときの話を書きます.
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免許を取り立ての自分はその時,借りモノのプリウスで
東名高速の浜名湖あたりを走っていました.
緩やかなワインディングを抜けた先に湖が見える道.
東名の中ではわりと好きな場所です.
「夕日がきれいだなあ,気持ちいいなあ」と思いながら
走っていると……一台のクルマにシュパーっと追い抜かれました.
追い抜いていくクルマの後姿を見て思わずハッとした自分.
「うわ,カッコいいなあ」
「走りが美しいな!」
きらめくみずいろのハッチバックボディが西日を受けて
いっそう輝きながら,あっと言う間に,曲線の先に消えて
いきました.
程よいコンパクトなサイズながら,地面に張り付くように
右車線をすっ飛んでいったそのクルマ.不思議なオーラを発してました.
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「クルマ買うなら,ああいうのが欲しい……」
アウディのエンブレムにA3と1.4の文字が見えたので
さっそく家に帰ってから調べてみました.
アウディA3スポーツバック.色々つけると乗り出し400万近く.
「1.4LのFFなのに……」
「ドイツ車たけぇ……」
「でもやっぱカッコいい!」
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そんなこんなでアウディが気になりだした自分は,
「とりあえず買うならアウディにしよう」と決めて,色々
調べてみました.
分かったのは,新車はかなり高いこと,一方で中古は
かなり安いこと,A3かA4あたりがよさそうなこと,それと
アウディはどれもデザインが極めて優れていること.
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とりあえず,A3のFFで十分だろうと思い,200万くらいの
認定中古車を買うつもりでほぼ心は決まっていました.
そうやってネットで出物を探していたある日.
「ん?オープンカーもあるのか……A5カブリオレての?」
「……却下!!高すぎる!」
「買えるわけねぇだろこんなもん!」
「え?昔はA4にもカブリオレ設定あったんだ……」
「あれれ?今なら300万もしないんだ……これ,買える
んじゃない……?」
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町にあふれるプリウス.そんなありふれたクルマでも,
新車で買って色々つけると300万じゃ効かない事を知っていた自分.
逆に心が揺れました.
「みんな乗ってるプリウスより安いのか……」
(しかも)
「なんと一番好きな色の一番新しい年式のが,一番近い
ディーラーにあるじゃん!ちょっと見に行こう」
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とりあえず見に来ましたよ,と.
とりあえず試乗しましたよ,と.
とりあえずシートは四つあるように見えますよ,と.
とりあえず子供も大丈夫,と.
妻が一言「これ,いいんじゃない?」
ハイそうですか.
じゃあとりあえずハンコ押しました,と.
ってあれ?もう買っちゃった?
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試乗したときのことは今でも思い出します.衝撃でした.
「世の中にこんな車あったのか……
ずるい!」
(しかもほんとにこの値段でいいんですか?みたいな)
ごみごみした都会を流しているだけなのに,気分は
地中海クルージング.
だいぶずるいです.
クローズボタンを押せば30秒でフツウのクーペなみに静かな車内.
とてもずるいです.
そしてあまりにエレガントな見た目と走り.
ずるい,ずるい,ずるすぎる!!
すべてが,あまりに,ずるい.
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オーディオもぶっ飛びました.
「純正でこんな音,ありなんだ……
ずるい!」
「これちょっとルール違反でしょ・・・」
「こまるんだよこういうのはホント,自分,音楽好きだから……」
「っていうか,BOSEって嫌いだったけど,正直,これはイイ!」
「ていうかBOSEすばらしい,BOSEありがとう,好きだ!」
(手のひらくるーっと返してます)
「あれ?トランクも広くない?ロードスターの三倍くらいあるよね,
ずるい!」
「ん?後ろに大人も座れるじゃん!?
ずるい!!」
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オープンカーといえば,実家にあるNA8ロードスターの
イメージしかなかった私にとっては衝撃でした.
「
オープン=狭いうるさい乗りガタピシグニャ寒い暑い実用性ゼロ,
でも楽しいからいいのだ!」
以外の回答があるなんて考えたことも無かったので…….
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アウディのハッチバックかっこいい!とか言ってた自分は
どこに消えてしまったのか,自分でも分かりません.が,
とにかくそういった経緯でシュパーっと一台,買ってしまいました.
今思えば,夫婦二人とも毎日毎日が朝から晩まで
慣れない子育てと仕事で見えないあしたの光.
プライベートやレジャーなんて一切無し.疲れていたんですね.
実は「これが欲しい!」と思った気持ちはあまり覚えていません.
むしろいま思い出してみると,「このクルマを買ったらようやく僕たちは
救われるんじゃないか」「この孤独な戦いから開放されるんじゃないか」
といったような,祈りにも似た気分だったような気もします.
(一人目の子供はいろいろと大変ですねホント.いまは
二人居るのになんとも思いませんが笑)
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それで,すこし話を戻します.
たまに街をゆくA3を見かけると,いまだに思い出すんですよね.
やっぱアレ,カッコよかったよなあって.あのとき浜名湖で見た
水色のA3がきっかけなんだよなって.
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ボンネット交換でキレイになって帰ってきたA4カブリオレ.
電車で行けばいいのに意味もなく今日もこいつに乗って通勤で化石燃料を浪費.
疲れて岐路についても,こいつに乗るとなんだかしらないけれど「救われ」ます.
稀有なクルマです.殊勝な機械です.愛いヤツよ.
大人になればなるほど,世界がどんどん戦場になってゆきます.
仕事はもちろん家庭だって.でもこいつにはそんなこと関係ない.
このクルマは自分にとって事実上,唯一の「アジール」なのです.