2014年06月24日
自転車旅行で泊まった宿の奇妙。
21歳の頃。僕は富山から名古屋まで、自転車で一人旅をした事があった。
実家からスタートして、ひとまず高山市まで辿り着く。
国道とは言え、坂道でS字が続く奥飛騨路を、時折チェーンは外れたりしたものの、一生懸命走ってきたので、正直早く宿に入ってゆっくりしたかった。
ところが、夏休みだった事もあり、どの宿も満室。
何時にどの辺まで着けるのか、皆目見当がつかなかったので、宿の予約は取っていなかった。
これは友人が貸してくれた寝袋が活躍しそうかな?と思っていたが、
宿案内所で訊ねたら、何処でもいいの?と聞かれ、ええお願いしますと言ったら、ひとつ紹介された。
町のやや外れの方だったか、もう場所は覚えてないけど、教えられた場所へ向かうと、無愛想なトタン張りの2階建ての宿があった。
玄関に入ると、女将らしきオバさんが部屋まで案内してくれた。
食事は出ないと言われたので、ビジネス用か素泊まりに近い宿だったのかも知れない。料金は前払いで確か5千円。高いと思ったが、他に宿が無いから仕方なかった。
2階の部屋に案内されたのだが、整った和風部屋でソファも心地よい。
部屋の雪見障子の向こうに、ちょっとした庭がつくってあり、なかなか落ち着く。案外いいじゃんと、荷物を置いてから、ひとり寛いでいた。
ところが、10分も経たない内に、さっきのおばさんが来て、
「すみません、悪いけど部屋、移ってもらえませんか」
と言う。えー何だよ、せっかく落ち着いてきたところなのに。
ところが、おばさんが言うには、
「実は、この部屋、他のお客さんが来る事になりまして。申し訳ないけど、他の部屋に移ってもらえませんか」
と申し訳無さそうに言う。
何だか鼻をつままれた様な気分になったが、予約が入ってるなら仕方ない。ってか、そんな大事な事を失念するなと内心怒ってしまった。
まぁそんな事は顔に出さず、黙っておばさんの後ろをついて歩いて行くと、此処の部屋ですと通された。
その部屋は三角形だった。二等辺三角形と言えば、より近いか。
普通は6畳にしろ8畳にしろ大広間にせよ、宿泊部屋は概ね四角形である。
でも、そこは三角形の部屋。広さとしては8畳に近いくらいだろうか。
ざっと見渡すと、今入って来た襖から、左手側へ向かって部屋が狭くなっており、右手側にはもうひとつ襖があった。
しかし、入った瞬間、何か違和感を感じたが、何なのか判らない。
突っ立っていると、おばさんは「ごめんなさいね」と、一言述べてあっさり立ち去って行った。
おばさんが去った後、部屋をじっくり見たが、どう見ても宿の部屋じゃない。
さっき通された和風部屋は如何にも宿って感じだったのに、此処は普段の生活で使われそうな部屋だ。
とりあえず部屋のカーペットの上に寝転がる。布団は隅に畳んで置いてある。
部屋にはテレビも無いので、水を打った様にシーンと静まり返っている。
一旦外に出て、銭湯に出掛け、帰りに夕飯の弁当を購入して帰ってきたのだが、他に宿泊客がいる気配が全然無い。
いくら寝るだけの宿とは言え、何処かから話し声や歩く音が聞こえてきてもいい筈なのに。
それより、僕が最初に通された和室に、全然誰もこないのが一番気になった。
廊下を覗くと、和室の襖は開きっ放しで、中は真っ暗なままなのだ。
鞄の中に入れておいた文庫本を手に取り、時間を潰す。
和室には、まだ誰も来ない。と言うより、廊下すら誰かが通る様な雰囲気が全然伝わって来ない。この2階には僕以外の宿泊客はいないのだろうか。
いや、それだと・・・何か、変じゃないか?
他に部屋がある様な感じだから、もし他にお客がいないなら、こんな三角部屋にわざわざ僕を通す必要は無いわけだし。
そんな事を思いつつも、いつの間にか寝てしまったみたいで、慌てて電気を消して、改めて寝直す。
夜中の2時くらいに、窓の外からだろう(スナックでもあるのだろうか)下手なカラオケが聞こえて来て、目が覚める。うるさかったが、疲れていた所為もあり、またすぐ眠った。
次に目が覚めたのは、朝5時頃。雨が降っていて、外は薄暗い。
何だか変に目が冴える。
ふと目に入ったのは、部屋の奥。
三角の一番狭まった部分。
何か妙に気になるので、布団から出て、そこまで行ってみた。
柱が一本立っていたのだが、御札が一枚ぽつんと貼られている。
それまでも今までも見た事の無い、変な絵柄と漢字だらけの御札。
それも柱の裏側に貼られているので、注意して覗かない限り、絶対見えない位置に貼ってある。それも上の方にだ。
理由は無かったけど、ソレを見た瞬間(早く此処を出なければ)と無性にかき立てられ、大急ぎで荷物を纏めて、部屋を出て、何故か見つからない様に足音を立てずに玄関まで行き、自分の自転車にまたがって雨の中、出発した。
後日、帰宅してから、霊感の強い先輩にその事を話すと調べてくれたみたいで、どうやら、その御札が貼られる部屋というのは、自殺か何かあった部屋らしい。それを静める為の御札と言う事だという。
まぁ害は無かったと言ったら失礼かもしれないが、案外どの宿も実は見えない所に貼ってあるのかも知れませんね。
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Posted at
2014/06/24 21:39:59
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