購入に際して、BMW、Mercedez、ジャガー、Audi、節操なく片っ端から試乗して回った。各社の乗り味、思想の違いが明確に見え、とても面白かった。最後に冷やかしのつもりで入ったポルシェ。これが運命の別れ道だった。
試乗車はCaymanS。右ハンドル。昨年までJZA80に乗っていたので、それなりにスポーツカーを理解していたつもりだった。シートに座り、ディーラーを走り出した瞬間に、驚きが全身を貫いた。
4輪からの路面の状況、車体の挙動、まるで4輪の先に神経が行き渡っているかのように、情報が一気に脳に伝わってくる。そしてハンドルの動きに見事に追従する車体。そしてそのコンパクトさ、挙動の素直さ。思った通りに動く快感。エンジンの回転の吹き上がりの気持ちよさ。
すべてが初めて体験する世界だった。これにくらべればJZA80はパワーで重量を振り回しているだけだ。その素直さとそれに伴う高揚感。まるでMDMAだと思った。
その後Caymanには2回試乗した。今でも一番楽しかったのはCaymanだと断言できる。2シーターでさえなければよかったのだが。
次に911に試乗した。これが現在購入したモデル。07'997CarreraS。こちらも乗ってみて驚いた。
Caymanに比べて、情報が混乱している感じ。非常に神経質な印象が伝わってくる。まるでボーダーラインの女性に接しているような。いうことを聞かず、わがままで、こちらが相手の機嫌を伺って、合わせなくてはならないタイプの女。Caymanの対極に感じられた。
Caymanが何も考えずに、最良の楽しさ、興奮を約束させてくれるMDMA(エクスタシー)だとしたら、911 CarreraSは、神経質で気難しく、時にシリアスで、乗りこなすのに面倒を伴いそうな、しかしその先に大きな謎解きが待っていそうな、ドラッグに例えるとLSDのような車。
そんなの空冷に比べれば…という声も聞こえてくるかもしれぬ。しかし、俺は現行の水冷しか知らないのだ。しかし何の先入観もなくこのようなインプレッションを持った。そしてそれはこのポルシェという車の持つ文化であることも理解した。
Cayman,Boxterはその文化を払拭するために生まれた、新世代の価値観なのであることも。
結局俺は自分の快楽を素直に肯定することよりも、気難しい、求道者的な911を選んだ。そこにはロマンティックなマゾヒズムへの誘惑と、ステイタス感への誘惑、謎めいた女性を探求するような底しれぬ誘惑があったのだ。
今はもう慣れてしまって、そこまでシリアスに感じることはない。峠をハイスピードで駆け抜ける時、そのレスポンスの素直さには感嘆の一言しかない。わくわくさせてくれる。素晴らしい車。まさにこれぞ車と呼ぶにふさわしい。ドイツという国の、車文化への成熟が実感できる。
ポルシェという車はあらゆる点で他のメーカーの車と違っていた。それは哲学させる車ということだ。
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997 | クルマ
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2012/04/08 00:25:09