夏休みに入った。
このために一週間は仕事を前倒しにして、いつもの1.5倍のハードワークをこなしていた。
だからと言って、今年は特に予定があるわけでもなかった。
昨年はイギリスの音楽フェスとイビサ島へのバカンスに行っていたのだが、今年は何かと入り用になりそうだし、昨年のバカンスで負った傷がまだ癒えていないので、多少自粛しようという気持ちになっていたのだった。
昨晩は仕事の疲れからか、珍しく早く寝てしまった。
そのため休養も充分にとれている。
いつもの休日より目覚めは遅いが、今からでも少しは楽しめるかもしれない。
早速身支度を整えて、997に向かう。
イグニッションを回し、6秒待つ。オイルは充分にある。
時間は7時半。既に高速道路は帰省ラッシュの車が溢れ始めているだろう。
高速道路に向かうバイパスを滑るように流しながら、どこヘ向かうか思案する。
しばらく走っていなかった高原都市方向に向かうことにしよう。
片側1車線だが、100km前後で駆け抜けれるコーナーが続くなかなか面白い道だ。
ちょっと遊ぶには丁度いい。
バイパスを下り、高原都市に向かう広域農道に右折する。
ここを右折すると、途中に高速のインターがあり、インターを入らずに通り抜けると山坂道に入る。ドライブに出るときはこの道を経由することが多い。
信号待ちのためにブレーキを踏むと前に黒のライダースーツのパンツと、イエローのTシャツを纏ったこれまた同じイエローのバイクが同じ方向に曲がろうとしている。
マフラーが台形の変わった形状だ。
荷物も何も積んでいないようだ。
ナンバーは県内ナンバー。
ちょっとは遊べるかもしれない。
交差点を回って山道に入る。バイクの後ろから距離を詰める。
早速反応してくる。
ノロノロと走るビッツを、バイクはウインカーを右に出しながら躱して追い越してゆく。
すかさず後を追う。
途中ビッグスクーターが2台の威勢のいい走りに触発されたのか入り込んでくるが、バイクは意に介す様子もなく一気に加速する。俺もアウトから一気に抜き去る。
気勢を削がれたバイクが失速していゆくのがミラー越しに見える。
通り慣れた道を黄色いバイクがリードしてゆく。
突然今まで見たことの無い側道に入ってゆく。
そう、この時を待っていたのだ。
ハンドルを握る俺の胸が高まる。
ブレーキングをし、見知らぬ山道を誘われるままに後に続いて側道に入る。
入り口の小ささに比して、意外な程に立派な山道が伸びている。
全く初めて通る道だ。
他の車の気配も全くない。
黄色いバイクはこちらの戸惑いなど全く意に介する事無く、フルスロットルで突き進んでゆく。
こちらもペダルを床まで踏み込む。
視界が一気に狭まってゆく。
コーナーの出口がブラインドの山深いコーナーの連続だ。
初めての道で、どのくらいRが続くのかも分からない。
そのコーナーに一気に飛び込む。
多少余裕は残しておく。
安全のマージンを取らずに走るのは危険すぎる。何しろこっちは初めての道なのだ。
コーナーの直前でブレーキングし、フロントに荷重を載せつつ、リアでドラクションをかけながらコーナを抜けてゆく。
しかし黄色いバイクの姿は既に次のコーナーの影に消えようとしている。
中途半端では離されてしまうだろう。
ポルシェ対リッターバイク。
ロマンを掻き立てる代理戦争だ。
田舎の農道を凄まじい速さで駆け抜けてゆく。
コーナー間の距離は決して長くない。
わずか数百メートルと思われる距離をベタ踏みで追いかける。
メーターを読む余裕もないが、
国産車ならリミッターがかかっている速度だとおもわれる速度で、バイクは駆け抜けてゆく。
狂気の沙汰だ。
この勝負の恐ろしさを感じ始める。
どこまで相手がマージンを持っているのかわからない。
全身神経をハンドルとアクセルに集中しながら、コーナーをかわす。
時にABSが作動する感触を感じる。握りしめたハンドルを固定しながら
アクセル踏み込みコントロールする。
しかしコーナーの後の直線で一気に距離が広がってゆく。
農道の抜けると集落が現れた。
その間を猛スピードで2台が駆け抜ける。
やっと交差点に辿り着く。
信号待ちの間に確認する。
側面にはCBRの文字。
ホンダのバイクだ。
国道を流しながら、次の勝負ポイントを先行するCBRは探っている。
この山間部のコースを奴は知り尽くしているようだ。
その経験を期待して後に続く。
数多くの見知らぬ他の車の殆ど入り込まない山道があるようだ。
夏の日差しと濃厚な緑のコントラストの中を
気狂いじみたスピードで爆音を轟かせてバイクとポルシェが突き抜けてゆく。
結局バトルは経路を変えて4回ほどに渡った。
トラクションやアクセルワークの繊細さなど考える余裕もない程に
がむしゃらで後についてゆくのが精一杯だった。
高低差のあるコーナーでボディをしたたかに打ちつけた。
オーバーステアで侵入し4輪がズリズリと滑り始める気配を感じた。
目に焼き付いているのは、
コーナーを抜けた後に拝む黄色いCBRのバンクした後ろ姿だ。
1時間も追いかけただろうか。
高速のインターが近づいたのをきっかけにバトルの終了を一方的に告げる。
上げた手に、向こうも頷いて返す。
前に出るどころか、ついて行くのが精一杯だった。
帰りの高速道路の車列が全て止まって見える。
相当な動体視力を使っていたらしい。
明日もう一度このコースを確認しに来よう。
このままでは終われない。
Posted at 2012/08/14 22:24:00 | |
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