ゲームの名前は「バンザイラン」。
1980年9月。
東名高速道路の上り線。海老名サービスエリアにいた。
土曜日の深夜午前1時を回っている。
普段なら時間調整のために駐車している長距離深夜便の大型トラックやドライブ帰りのマイカーがちらほらいるだけにすぎないパーキングエリアは、仲間たちの10数台のスポーツカーにその一角を占領されて、異様な雰囲気を漂わせていた。
毎週土曜の夜の東名高速道レース。
遊び半分に生死を掛け、アクセル全開で突っ走ってゆく、公道上の無法のグランプリ。
Ferrari 365GT4/BB
Porshe 911turbo3.3 77年型
Ford Mustung Much 1
DE TOMASO PANTERA
Nissan FAIRLADY Z
Mazda Savanna RX7
海老名サービスエリア〜東名料金所間22.5kmを300kmオーバーで駆け抜ける、狂気の公道バトルの世界。
(同じネタを何度も使ってもうしわけないです(´Д⊂ヽ)
どうです?
1980年に実際にこんなレースが行なわれていたなんて信じられないだろうが、自動車評論家の福野礼一郎氏の処女小説であるこの書籍には、当時の空気をリアルタイムに嗅いだ人間にしか書き得ないリアリティがある。当時わずか数台しか輸入されていなかったスーパーカーを手に入れ、極限までチューニングし毎週末にバトルに繰り出す、熱に浮かれた男たちのドラマ。
更に抜粋する。
東名で狂気の街道レースを繰り広げるうちに色々なことを知った。
スロットル前回走行はせいぜい3〜4分が限界であること。
この時、全開走行中のクルマの後ろに張り付いてスリップストリームの効果を利用すれば、アベレージを落とさずにアクセル開度を70%に落とせること。
ただしこれをやり過ぎると今度は水温がどんどん上昇すること。
ヘッドライトが明るくないと視野が極端に狭く。前方を走るトラックに対しても接近していることをアピールできないこと。
タイヤの性能と空気圧チェックは欠かせないこと。
そして最高速度はエンジンパワーとボディの空力、ボディの小ささ(前方投影面積)によって決まり、車重はあまり関係が無いこと。
こういう当たり前のことを経験して、クルマというものがひとつひとつわかっていった。
車といっても東名でトップを走るためには、短時間で最高速度に達するための瞬発力、つまり150~200km/hレベルの追い越し加速のよさせあること。
とにかくポルシェターボは速かった。
槍のように鋭いBBのノーズが夜気を切り裂く。
冷たい空気の層を突き破って走る。
エキゾースト・ノートは闇に冴え渡り、フェラーリ・レッドもボディが水銀灯の明かりに煌めいた。
ハロゲンヘッドライトの強烈な白い光の中を、サインポストが後方に飛び去ってゆく。
5速。全開。
中央車線を80km/でノロノロ走るブタのような白い国産セダンにパッシングの雨を浴びせかけ、嘲るように左からブチ抜く。
さらに全開。
タコメーターの針は7000rpmを超えて上昇を続けていた。
加速はなおも衰えない。
富里インターチェンジ出口2kmのサインボードが空中を飛ぶ。
サラッと見たメーターは、295を超えたあたりで震えていた。初めて経験する世界。
極度に緊張が高まっている。
その動揺がステアリングに微妙に伝わり、BBはかすかに蛇行した。
「ビビるな、全開だ全開」
横川が怒鳴る。
ステアリングを両手で握り締める。前方を注視する。
タコメーター7200rpm。なおも上昇。
スピードメーターの針は298km/h。あと300までわずか。
一台の車も走っていない暗黒の東関東自動車道の下り車線。ハロゲンライトで照らし出される追い越し車線と中央車線をしきる白線をボディの下にまたぎ、それだけをガイドに直進を保って疾走している。
バブルの予感の漂う80年代初旬。ポンコツのマッハ1を駆る主人公のオレと相棒のウォーリー。モデルのウォーリーが手に入れた中古の365GT4/BBを地元の先輩ながら天才的なチューニングの腕を持つ横川とともに、全てをつぎ込んで打倒ポルシェターボのためにチューニングする毎日。文章の隅々まオイルの匂いやクロームメッキの触感が行き渡り、当時の瑞々しい特別な瞬間の記憶が封印されている。こんな時間を過ごした連中がいる。
読んでいたら気づくだろう。登場人物の横川が北見に、そしてマフラー職人やRE雨宮氏そっくりの登場人物たち。これは湾岸ミッドナイトの設定と瓜二つであることに。この小説が元になり湾岸ミッドナイトが生まれた。あの創設はZとポルシェターボのバトルであったが、これはフェラーリとポルシェのバトルだ。そうこの小説こそがオリジナルであり、漫画は実はデチューンされているのだ。
様々な自動車評論で、辛口で時に斜に構えた文章を書く福野礼一郎という人間が、俄然面白く思い始めた。この背景があって、彼の文章を読むとそのシニカルさに、とても味わい深いものを感じるのだ。こんな人間なら信用できる。
福野 礼一郎
双葉社
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Posted at 2012/09/08 23:02:51 | |
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スタイル | 日記