日曜日。
AM5:30。目が覚める。
そわそわと気持ちが騒ぎ出す。
ポルシェ病の発症だ。
そっと寝床を抜け出し、身支度をそこそこに整える。
スカルのプリントの黒いTシャツに、7分丈の黒のコンプレッションパンツ。黒のスニーカー。
まるで今からジョギングでもゆくかの格好だ。
眩しい朝日に眠い眼をこすりつつ、
997のイグニッションを回す。
6秒間、オイル量を確認する儀式を経て、オイルがフルに充填されていることに安堵する。
1ヶ月前に目盛りが2目盛り減少していた。
Mobil1を400ccほど補充したばかりだ。
ブレーキを踏み込んでもう一度イグニッションを捻る。早朝の静寂を突き抜けて、エンジンが咆哮する。ゆっくりとガレージを抜け出し、朝日の中に踊り出る。
コンビニエンス・ストアでブラック・コーヒーとサンドイッチを一切。
赤信号の度に口に放り込みながら、バイパスを抜け、インターを目指す。
途中朝帰りの国産の改造車が絡んでくるが、997は3車線の車間を一気に潜り抜けてゆく。
相手が呆れている間に、次の信号を通り抜けてゆく。
インターから高速道路に入る。この時間はまだ車通りが少ないが、
本州から四国へ向かう家族連れがちらほら見える。
この車の目的地は本州と四国を結ぶ崖っぷちに連なる、いつもの峠道だ。
休日、走りたくなるとこの山に向かう。
車通りも少なく、比較的高速でタイトなコーナーが続く。ポルシェを楽しむには今の俺に取っては一番のコースだ。
出かける前にtwitterとSNSにそれとなくメッセージを流しておいた。気づいた誰かが現れると楽しい。
到着は午前7時。まだひんやりとした空気の残る朝の気配の中、しばし山頂に車を止めて眺める。
モノへの愛着などクソだと思っていたが、この車を所有してからは違う。
自分の身体の延長のように、身体の一部のようこの機械を愛着を持って感じている。
それはナルシズムに似た感覚だ。精神分析的にいうと部分対象関係、フェティシズムの感覚だ。
幼少期に成長の過程で、愛情の欠如から発生する部分に対する愛着。
それは子供がおもちゃに耽溺する感覚だ。
大人になっておもちゃを自分の意志で所有する。それは背徳的な贅沢でもある。
ポルシェに乗ると、自分の身体感覚が延長したかのような感覚に包まれる。
まるでアスリートの身体をまとったような。
これもマチズムへの憧れとも解釈されるのかもしれない。
マチズム、そしてナチズム。ドイツ人には力への独特の感覚がある。
ニーチェ。
機械の力を借りて完全な人間になろうとでもするような。
ポルシェはその快楽を肯定する。
それがこの車の最大の魅力だ。
孤独との戯れ。それも楽しみの一つ。自分と997との1対1の対話。誰もいない峠道を疾走しながら、コーナーの直前でブレーキを踏みながら、997が反応を返す。もっと深く、もっと左右に。もっとアクセルを。自分の呼吸と車の呼吸の計りながら、一番気持ちのよい瞬間を探してゆく。
そして獲物を探しながら待つ。さっきはかなりのスピードで駆け上がっていたGTウイングをつけたFDとすれ違った。奴はこの黒いポルシェをみて闘争心を燃やしてくるだろうか。
峠を駆け下りると、そこにはR33GTRが上がってきている。こちらの姿を認めると同時にこちらを向いたまま停車する。奴は俺の後を追って来るのだろうか。これみよがしに奴の手前でUターンを切り、元来た道をゆっくりと誘うように登ってゆく。
週末ごとに運転の練習をし、腕試しのように挑戦者を待つ。
まるで格闘技を習いたての若者のような青さだ。
その青さと愚かさを俺は楽しむ。
結局GTRは追ってこない。
落胆しつつ、それもどうでもいいことだ。上りを自分なりに限界で楽しむ。
もちろんPSMはオフにしてある。
登り切る。
もう一往復するか。駆け下りる。
その時、まばゆいLEDのフォグランプを照らしながら、
銀色の954とすれ違う。
思わず笑みが溢れる。
勇んで駆けつけてくれたことが伝わってくる。
猛スピードですれ違った後、Uターンをして後を負う。
昨日一緒に夜闇を走るはずだったが、天候不良で中止になっていた。
そのリベンジのようにまた一緒に走ることができた。
山頂でしばし取留めのないポルシェ談義。
かれも重症のポルシェ病者だ。
空冷ポルシェ。
そのオールドスクールな確固たるデザインの力。
溢れる存在感。いつかは空冷と思わせるその魅力。
それぞれの自分のポルシェに対する愛着を確認する。
下りは再び一緒に走る。
バックミラーに映る銀色の空冷。
美しいといえるだろう。
コーナーひとつぶんを挟んで駆け下りてゆく。
下の信号に辿り着いたら別れだ。
また一緒に走る日まで。
Posted at 2012/07/25 02:00:57 | |
トラックバック(0) | 日記