
眩い早朝の陽光を浴びながら、
一台の車が海へ向かっている。
綺麗にボディが虹色に乱反射している。
シルバーのスバル・・。レオーネ。
まだ、新車の匂いが香る車内では、
足をバタバタさせて幼い少年が、
父親にたわいも無い問い掛けをしている。
「ねぇ?車のギアってなんで変えるの?」
少年はいつも、父親の車に乗ると、
シフトノブに置かれたゴツイ左手にそっと自分の手を添えて、
シフトチェンジの感覚を楽しむのが大好きだった。
ただ、何故ギアがあるとか、動かす意味等は、全く解らないのだが・・。
「パパってなんで、スバルの車好きなの?」
そんな質問を少年がすると、父親は決まってこう、答えた。
「スバルはエンジンが他の車と違うんだ。」
「普通の車は、エンジンの中身が縦に動いてるけど、コイツは横に動くんだよ。」
・・・少年には難しくて、その答えの意味は解らないままだった。
少年の父親は、以前からスバル360、初代レオーネと乗っていた。
・・スバリスト。そんな呼称は後に少年は知るのだが・・。
とにかく少年にとっては、スバルが一番身近な車だった。
・・・大好きだった。
ある日の晩・・・少年の父親は、
少年の姉を駅まで迎えに行くと言って出掛けた。
母親はパートでいない。少年は一人で待った・・・。
・・・帰ってこない・・・。
少年の心は、寂しさと言い知れぬ不安に包まていく。
台所の蛇口から「ポチャン」と落ちる水滴の音が怖いので、
TVの音量は自然と大きくなった。
・・・不意に黒電話が、けたたましく鳴る。
父親だと思い少年は電話に出ると・・知らない人だ・・。
「もしもし?・・お父さんが・・・事故でね・・・病院へ・・」
・・・少年は、詳しい話は理解出来なかった・・。
が、父親の危機だと悟る。
・・・そして涙が溢れた・・。
翌朝、ボロボロになったレオーネが家に帰ってきた・・。
父親は、一命を取り留めたそうだ・・。
大好きだった車が、父親を傷付けたと思った・・。
「スバルなんて・・ダイキライだっ・・・!!」
少年はやがて、免許を取った。
父親はあの事故以来、スバルに乗っていない。
少年もスバルだけは乗るまいと心に誓っていた・・。
だが、なんの因果か、少年はスバルに乗った。
「キライ」と思いながらも、最初の愛車はレックスだった。
壊れたので、トヨタの車に2台乗り継いだが・・・。
「チガウ」と感じた。
パワフルで四駆で、ターボ付き。
そして・・・エンジンは唯一無二の個性の持ち主である事。
自らの願望を消去法で導き出したら、自然とインプレッサになった・・。
・・・・そして・・・。
「ねぇ?パパ?なんでスバルが好きなの?」
遠いあの日の自分と同じ様な、質問をしてきた息子が横にいた。
幾多の月日が流れ、少年は父親になった。
あの日の自分とダブらせて苦笑しながら、質問に答える。
「エンジンが他の車と違うんだよ・・。」
自らの答えにまた、苦笑した。
(・・オヤジと一緒かよ・・。)
「まっ、その内、お前も解るヨ♪」
ギアを上げ、アクセルを踏み込むと、
レガシィは軽やかにボクサーサウンドを
蒼い秋空の下へ響かせた・・。
Posted at 2007/10/30 01:01:32 | |
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