「メルセデス・ベンツ A180 ブルーエフィシエンシー スポーツ」(FF・右H・7AT)
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2013年1月17日、日本での販売が開始された新型「Aクラス」。顧客の“若返り”を目指しているが……。その実力を確かめた。
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・エクステリア
・インテリア
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・第一印象
先代までの「Aクラス」を振り返ってみると、正直なところ、“欲しい”と思わせてくれるクルマとは言い難かった。先代モデルは、“サンドイッチコンセプト”(二重構造のフロアと小型のエンジン(前方に58°傾斜)とトランスミッションで構成され、正面衝突時にパワートレインがボディ下部に滑り込み、室内への侵入を抑制することで衝突安全性を高める。また、サイドメンバーが高いことから、乗車位置も高くなり、側面衝突時の直接の衝撃を和らげる。)が採用され、扱いやすいサイズで安全性も高いことが魅力だった。個人的な偏見かもしれないが、“裕福な家庭の奥様のためのクルマ”というイメージしかなかった。
ところが、2012年3月のジュネーブショーで正式発表された新型「Aクラス」は、ワタクシのイメージを打ち破るものだった。全長×全幅×全高=4290×1780×1435mm、ホイールベース=2700mmとなり、「フォルクスワーゲン・ゴルフ」を筆頭に「BMW 1シリーズ」や「レクサス CT200h」、「アウディ A3」とライバルが多いCセグメントに遅ればせながら参戦することとなった。ワイド&ローなプロポーションに先代の面影は無く、“サンドイッチコンセプト”も、その幕を一旦閉じることとなった。継承されたのはグレード表記くらいではないだろうか?
ここまで変わってしまうと、フルモデルチェンジというよりは、某メーカーの言葉を借りると“リボーン”と言っても過言ではないかもしれない。営業の方に話を伺うと、全くの別物として世に送り出すことへの戸惑いではなく、販売への期待や熱意を感じさせられた。
ところで、新型「Aクラス」は、2012年4月に発売された「Bクラス」と共有する部分が多い。シャシーをはじめ、トランスミッション(7段デュアルクラッチ・トランスミッション)や、グレードによってはエンジン(1.6リッター直4DOHC直噴ターボ)にまで及ぶ。
両車を比較すると、フロントマスクやボディーサイドのキャラクターラインなど、所々に共通する意匠が見受けられる。ただし、一番の違いはキャラクターの違いだろう。新型「Aクラス」の全高は1435mmと「Bクラス」より105mmも低く、そのおかげもあって、“スポーティーな「Aクラス」”と“実用的な「Bクラス」”という印象を受ける。
そして、激戦区であるCセグメントの競合車と比べ、一目置きたいのがインテリアだ。“メーター”や“エアコンの吹き出し口”のデザインは、「SLS AMG」など同社のスポーツモデルで採用されたデザインに似ている。また、赤ステッチが施されたシートやステアリング、カーボン調のインパネが、走りへの期待を高める。このような細かな演出も、「Bクラス」との違いを表現し、中身が同じで箱だけが違うわけではないことが伝わる。
あえて不満を述べるならば、“純正ナビゲーション”だろう。ポータブルナビゲーションのような“後付け感”が漂っている。
・走行感想
運転席に座ると、シートの出来に驚かされた。ヘッドレストの傾斜やサイドサポートがドライバーの気を引き締めさせつつも、気疲れさせない姿勢に導いてくれる。また、運転に必要な情報を最小限の視線移動で把握できるようにメーター類が配置されている。さらに、Aピラーが低く寝かされているので、クルマに乗ってからも「Aクラス」のキャラクターが損なわれることは無い。ちなみに、ドアミラーも大きく、右ハンドルのクルマでネックとなる左後方を確認しやすい。しかし、オプションで用意される“ナイトパッケージ”に施されるプライバシーガラスが思った以上に暗く、後方確認の際に不便を感じた。
ステアリングは、教習所で学ぶ持ち方(時計で例えるならば“10時10分”)を理想とした構造なのだろう、街乗りでは“9時15分”の持ち方がクセの筆者は違和感を拭えなかったのだが、持ち方を変えると、しっくりと手になじみ、かえって運転がラクになった。
クルマを動かしてみると、どうもギクシャクする……。アクセルを若干踏みこむと、ドンッと勢いがある発進をするのだ。確認してみると“ECO”のスイッチが点灯していた。エコカーをはじめ、多くのクルマに搭載されている“エネルギー効率を上げるためのモード”なのだが、「本当に必要なのか?」という疑問を感じずにはいられない。営業の方(ベンツに限らず)に話を聞いても、返ってくる答えは……。ちなみに、試乗車の燃費は約16km/リッター、競合車と比べると、若干劣る数値だ。
ECOモードを解除すると、クルマはスムーズに動き出した。搭載される1.6リッター直4DOHC直噴ターボ(122ps)は、1250rpm~4000rpmの範囲で最大トルク(200Nm)を発生させ、2000rpmあたりで7G-DCTがスムーズにシフトアップを行う。試乗コースは40~50km/h巡航がメイン、やや勾配がある坂を上る場面もあったが、力不足な印象はない。しかし、アクセルペダル(吊り下げ式)の踏みごたえが軽く、細かなアクセルワークが難しい。慣れるまでは、コーナーからの立ち上がり加速がワンテンポ遅れてしまった。
パワートレインやプラットフォームなどを「Bクラス」と共有すると記した。人によっては「外観だけが違うのでは?」と思う方もいるだろう。しかし、試乗車の「A180 ブルーエフィシエンシー スポーツ」のサスペンションは、スポーティーなチューニングが施されている。ちなみに、今後の発売が予定されている「A250 シュポルト」には、さらにスポーティーな“AMGスポーツサスペンション”が与えられる。
低めの車高のコンパクトなボディに、低回転から力を発揮するパワートレインとスポーティーな足回り、軽快なステアリングフィールがマッチし、クルマがキビキビと動く。シートのサポート性も一助となり、ドライバーは姿勢を崩すことなく、クルマの一挙手一投足を楽しめた。
・総括
新型「Aクラス」は、クルマを構成する要素に“無駄”がなく、クルマのキャラクターを表すために必要な最低限のものが最大限に高められていた。外見や中身そして走りが上手くまとまっている。
現代に限らず、若者は、限られた中で“無駄”を出さずに、最大のパフォーマンスを得られるように工夫している。
そう考えると、新型「Aクラス」は、まさに若者向け。エントリーグレードで284万円だが、それに見合うだけのパフォーマンスを得られるはずだ。ひょっとしたら、完成されすぎていて、個性を演出する“ゆとり”がない……と思うユーザーもいるかもしれない。
(文&写真 K-ON@0823)
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(あとがき)
さて、デビューしたばかりの新型「Aクラス」の試乗レポートということですが、お楽しみいただけましたでしょうか?
“若者のクルマ離れ”ばかりが取り上げられるが、自動車業界にとって“ユーザーの高齢化”も悩みの種のようです。
だから、“メルセデス・ベンツ コネクション”や“オリジナルアニメ”を用いたプロモーションを通して、若者がメルセデス・ベンツに対して親しみを持てるきっかけづくりが行われました。
クルマに興味が無い人が、クルマに触れるのは、せいぜい移動のときくらい。ディーラーに行ったことが無い若者も少なくないでしょう。しかも、ディーラーによっては雰囲気が重い……
今後、他の自動車メーカーでも同様の動きがあることを期待する次第であります。
ご意見・ご感想ありましたらコメントの方へ。
最後に、今回のレポートを書く上で、お世話になった方には感謝の言葉しかありません。ありがとうございましたm(__)m
Posted at 2013/01/25 23:59:32 | |
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試乗レポート | クルマ