専業主婦の「特典」は、国策
厚生労働省の統計などによれば、今、「共働き世帯」は1077万世帯で、男性雇用者と無職の妻からなる「専業主婦世帯」は720万世帯(いずれも2014年)となっています。
ちなみに、35年前の1980年の共働き世帯は614万世帯で、専業主婦世帯は1114万世帯でした。1990年代半ばを境に、両者の数は入れ替わっています。
このように現在の主流は共稼ぎ世帯ですが、専業主婦世帯が占める割合は世界的に見ればかなり高いです。それはなぜでしょうか。
その大きな理由は、専業主婦に「特典」があるということです。
例えば、勤労者の妻は、第3号被保険者として自分で厚生年金や基礎年金の保険料を払わなくても老後に厚生年金が支給されます。そして、妻が家計を助けるためにパートで働くときも収入が一定の「基準」をオーバーしなければその特典は維持されます。だから、専業主婦やパートの主婦が相対的に多くなるのでしょう。
では、こうした主婦厚遇の仕組みが導入されたのはなぜでしょうか。それは、ひと言で言えば、戦後の日本の「国」としての大方針(グランドデザイン)の一環だったからです。
敗戦後、時の宰相・吉田茂は、復興へのグランドデザインを描きました。その見取り図は極めてシンプルで、「アメリカに追いつけ、追い越せ」というキャッチアップモデルでした。そのために、まず「電力・鉄鋼」分野を復興したあと、最終的にはアメリカの経済をけん引しているGEやGMのような「電気・電子・自動車」産業を育てれば、国も国民も豊かになる。日本経済に拡大の循環リズムをつくることができる。吉田茂はそう考えたのです。
その後のわが国の高度成長や所得倍増計画などは、すべてこのグランドデザインの延長線上にあったといってもいいでしょう。
このグランドデザインが、専業主婦の優遇に結びつきます。
「保険料払わなくても、年金もらえる」
アメリカという「富士山」に一直線で登るため、言い換えれば最短ルートでアメリカに追いつき追い越すためには、まず工場で働く労働者を確保しなければなりません。地方の第1次産業従事者(主に男性)を都市に移動させ、第2次産業の労働力を確保したのです。その象徴が、いわゆる集団就職でした。
あらゆる工場(第2次産業)の理想は、24時間休まずに稼働し続けることです。富士山に早く登ろうとすれば、徹夜で歩き続けることです。従って自ずと長時間労働が好まれることになります。しかも工場労働は、筋力に優る男性に向いた仕事です。こうしてわが国の男性は、とにかく長時間働くようになりました。
もっともその分は、給与に反映されたので、「やりがい」もあったはずです。ただ、1日中働き詰めですから、クタクタになります。すると、どうしても夜遅くに家に帰れば、「飯、風呂、寝る」になってしまう。そこで妻は自宅に待機し、馬車馬のように働く夫の後方支援をしたほうがよいということで、家事や育児・介護を全面的に担当するようになったのです。
こうした「性別分業」は戦後のグランドデザインこうした「性別分業」は戦後のグランドデザインにマッチした極めて効率的な仕組みでした。そこで、この仕組みにインセンティブを与えようと考え出されたのが、「配偶者控除」(税金軽減)や前出の「第3号被保険者」といった専業主婦優遇策です。この仕組みが完成すると、女性たちはこう感じるようになりました。
「年金保険料を払わなくても年金がもらえるなら、家で子供を育てているほうがトクかもしれない」
合理的な考え方です。誰も専業主婦への特典を変だとは思わなかったのです。
しかし、この仕組みがうまくワークするためにはいくつかの条件がありました。
戦後40年間の経済成長率は実質で約7%。10年の区切りで経済規模が2倍になったのです。50兆、100兆、200兆、400兆といった具合に。それに比例して所得も10年で倍々ゲームのように増えていきました。
企業は成長し、家計は潤いました。みんなが力を合わせて国も“富士山頂”へ一直線にひた走った結果、全員がハッピーになれたのです。それが高度成長の時代でした。しかし、この夢のような高度成長が実現したのは……。
(1)冷戦構造(アメリカは、不沈空母としての日本を庇護)
(2)キャッチアップモデル
(3)人口の増加
という3つの前提条件が整っていたからでした。ひるがえって今はどうでしょう。この3つの条件はすべてなくなってしまいました。80年代後半にアメリカに(一時ですが)追いついてしまった日本は、今や少子高齢化や財政再建など課題先進国となってしまったのです。
「専業主婦」制度はもう無理
この3年間の経済成長率はたったわずかの0.5%程度です。これでは給与はほとんど上がらないし、景気がよくなったという実感も持ちづらいのではないでしょうか。
経済協力開発機構(OECD)調べの先進国の1991年と2014年の賃金ランキングを見ると、1991年に9位(3万6152ドル)だった日本は2014年には何と19位(3万5672ドル)にまで急降下しました。注目ポイントは、1991年の上位20カ国の中で25年後に賃金が下がったのは「日本だけ」という事実です。
アメリカは4万3508ドル(4位)
→5万7139ドル(2位)
ドイツ3万5781ドル(10位)
→4万3872ドル(12位)
フランス3万1893(14位)
→4万0828ドル(15位)
イギリス3万1554(15位)
→4万1859ドル(13位)
韓国2万4308ドル(20位)
→3万6653ドル(17位)
日本は、成長率や賃金から見ればは「豊かな先進国」から脱落しつつあるのかもしれません。以前は、妻が働かなくても、収入が増えたからそれでよかった。でも、それは今や望みにくい。「専業主婦世帯」という制度が成り立たなくなってきているのです。
だから、冒頭で触れたように「共働き世帯」が今主流となっているのです。
さて、主婦が働かなければ世帯収入が伸びない時代。政府はもっと女性に働いてもらおうと例の「特典」をなくしはじめる動きに出ています。
この背景には、少子高齢化による人口の減少という大問題があります。もはや、女性に働いてもらわなければ、労働力が確保できなくなったのです。産業構造も第3次産業が主流となり、第2次産業のように筋力が重視される時代は過去のものとなりました。
プレジデントオンライン
Posted at 2016/06/30 21:04:55 | |
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