2012年06月07日
三枝さんの「充電」 香山リカのココロの万華鏡
香山リカのココロの万華鏡:三枝さんの「充電」
ある新聞に連載されていた桂三枝師匠の自叙伝を、楽しみに読んでいた。ずっと第一線で活躍しているイメージの三枝さんだが、40代で「自律神経失調症」と診断され、レギュラー番組をいくつも降板したことがあったと知って驚いた。「どうき・息切れがして視野も狭くなる。心配ごとがあると、そればかりが頭を占拠してしまう」と相当につらい状況だったようだ。
その当時は「レギュラー番組が減ると、そのまま芸能人人生が終わるようで、焦りもあった」という三枝さんだが、今では「むしろよかった」と振り返る。働きづめの状態から解放され、これまでできなかったことにも手を伸ばす「充電期間」になったからだ。
絵を描いてみたりソフトボールチームの監督を引き受けたり、と三枝さんの「充電期間」はなかなかパワフルに見えるが、それでもその間はやはり「仕事ができない」という不安もあっただろう。しかし、そこであわてずにじっくりと好きなことに取り組んでいるうちに、症状も次第に治まってきたようだ。そして、結果的にはいろいろなことを気ままに行ったおかげで、「人生の引き出しの数と幅がぐっと広がり、芸の基礎体力が養われた」とのこと。もっとも理想的な療養生活と言えるだろう。
ただ、強調しておきたいのは、そうやってプラスに振り返ることができるようになるまでには、相当の時間がかかることだ。三枝さんの場合は「10年もすると、意欲や気力が高まってくるのを覚えた」と述べている。
「えっ、10年! 私はそんなに『充電期間』を取ることはできない」と思う人もいるだろうが、10年間、ずっと仕事をせずに休みなさい、というわけではない。調子を崩しても、半年から1、2年で通常の仕事や家庭生活に復帰できる人も少なくない。その場合でも、すぐに全力で走り出せばまた倒れてしまうことになる。「そうか、あの三枝さんも10年かかったんだ」と自分に言い聞かせ、少なくとも5年は「心の充電期間」と考えて少しペースダウンしたり、趣味や休養に時間を割いたりしてみてはどうだろう。
もちろん、なかなか思うように回復せずにあせっている人も同じように、「三枝さんでも10年」と自分に言い聞かせることをおすすめしたい。私もすでに診察室で何度も「ほら、あの三枝さんも」と記事を見せながら、患者さんに説明している。庶民の味方の師匠なら、「いつもそればっかり言われたら、困りますわ」と言いながらも、笑って許してくれることだろう。
あのような芸能界の大御所でも、みえないところでご苦労をされていたのですね。
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Posted at
2012/06/07 17:11:15
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