2012年04月18日
毎日新聞社
香山リカのココロの万華鏡:演技でも感謝の一言を /東京
何かとあわただしい4月が始まり、診察室でも「落ち着かない」「イライラする」といった声を聞くことが多くなった気がする。「会社や家でキレやすくなった」という人もいる。みんな「これじゃいけない」と思っているが、なかなか気持ちをしずめることができないのだ。
そんなとき、身近にいる誰かから「いつもたいへんでしょう」「たまにはゆっくり休んでね」といったやさしい言葉をかけられたら、どんなにほっとするだろう。張りつめた心がほぐれて、それだけでも疲れが半減する気がするかもしれない。
それなのに、忙しい人のまわりにいるのはたいてい“もっと忙しい人”なので、なかなかねぎらいの声をかけられない。
診察室である女性が、こんな話をしてくれた。多忙な職場で働くその女性は、家に帰ってから急いで食事の支度をする。深夜近くなって帰宅する夫は、帰るなり「なんだ、今日も野菜炒めか。たまにはさっぱりしたものを食わせてくれよ」と料理に不満を述べる。すると女性も思わず、「今朝、ごみ出ししてくれなかったでしょ! あんなに頼んだのに」ととがめてしまう。「本当は“遅くまでおつかれさま”と言いたいし、言ってほしい。でも、言えないんです。相手のミスを指摘し合ってしまうんです……」
疲れていると、どうしても「ありがとう」「おつかれさま」より、「どうしてやってくれないの?」「もっとこうしてよ」と不満や要求を口にしたくなる。これは、どんなに地位の高い人や賢い人でも同じなのだ。でも、そこで「ちょっと待てよ。相手はいまそんな言葉を言ってほしいかな」と立ち止まることは、誰にでもできるはず。
顔を合わせたとたん、「だらしないわね」「こっちだってたいへんなんだ」とチクチクと身近な人を攻撃し合うのはやめて、まずはにっこり笑って「今日も一日おつかれさま」「こちらこそ、いつもありがとう」。「思ってもいないことは言えない」という人もいるかもしれないけれど、たとえ演技だっていいではないか。ねぎらいの言葉をかけるうちに、「そうそう、今日も無事に帰ってきてくれただけでも、ありがたいわね」「この人のこと、大切にしなきゃな」と本当の感謝の思いも生まれてくるというものだ。どうしても伝えたい不満があれば、その後なら相手も素直に「そうだよね」と聞いてくれるはずだ。
まずは、鏡の前で笑顔と「ありがとう」の練習を。最初は“芝居”から始めてもよいのだ。
私も得意の営業スマイルから始めるぞと。
Posted at 2012/04/18 16:33:38 | |
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