2012年05月07日
香山リカのココロの万華鏡:甘え?若年ホームレス 毎日新聞社
路上生活者に雑誌を販売してもらい、仕事を提供して自立を応援する事業「ビッグイシュー」は、いまでは多くの人に知られる存在となった。そのビッグイシュー基金が、このたび「若者ホームレス白書2」をまとめた。その冒頭には、2008年のリーマン・ショック以降、40歳未満の若いホームレスが急増している、という衝撃的な事実が記されている。
「若いのに仕事も家もない人」と聞くと、「やる気がないだけなんでしょう?」と思う人もいるだろう。しかし、白書からは単に「やる気がない」だけではすまされない、彼らの複雑な事情が浮かび上がってくる。
意外に感じるかもしれないが、20代、30代のホームレスの多くは、就業経験どころか正社員の経験も持つ。白書に取り上げられているある若者は、過去に仕事で受けたトラウマがもとになり、働くことが怖くなり、身動きが取れなくなっている。「職場いじめ」を受けたという20代の若者の言葉が痛々しい。「ホームレス状態でいることはもちろんイヤ。でもそれと同じくらいの恐怖が働くことがある」
もちろん、「そんなの、甘えだよ」という声があるのもわかる。しかし、甘えているわけではない。彼らは「困難にぶち当たっても、耐えたりまわりに相談したりすればなんとかなるはずだ」と思えない。自分のことも他人のことも、まったく信頼できないからだ。
白書を読んでいると、彼らがホームレス状態から脱出するためには、仕事や住まい、準備資金などを与えるだけでは不十分だ、ということがわかってくる。彼らにもう一度、世間や他人、そして自分のことを信じる気持ちを持ってもらわなければ、何ごとも始まらないのだ。
では、どうすれば「他人や自分を信頼する気持ち」を回復させられるのか。まず必要なのは、「世の中や人生って悪くないな」と思ってもらうことだ。ビッグイシュー基金でもホームレスの人たちのサッカーチームを作り、いろいろな大会に積極的に参加しているが、そこで「ホッとできる場所があるっていいな」と感じて立ち直りの一歩を歩み出した若者もいる。
白書は言う。「若年ホームレスは特殊な現象ではない」。厳しいこの時代、誰もがいまの職場や地域から「もういらないよ」と言われる危険性と隣り合わせだ。「ああ、ただの甘えでしょ」と思わずに、仕事も住まいも人とのつながりも失った、若年ホームレスの問題や彼らの胸のうちについて考えてみてほしい。
他人事ではなく、明日は我が身となってもおかしくない気がします。
Posted at 2012/05/07 13:04:14 | |
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