私は新しいコンクリートの匂いが大好きです。セメントの匂いなのかもしれませんが、あの独特の匂いがたまらなく好きです。とくに建設中のビルなどでコンクリートを流しているところなど、最高によい匂いがします。石の匂いとも違うし、どの成分があの匂いをつくっているのかわかりません。ずっと嗅いでいたくなる匂いです。だからビルの工事現場が大好き。部外者の私は、もちろん中に入ることはできません。でも近くを通るだけで、コンクリートの匂いがしてくることがあり、そうすると、立ち止まってずっと嗅いでしまいます。ヘンなおばさんが、ビルの工事現場に佇んで、じっとしているのですから、どこから見ても怪しいはず。かなり恥ずかしいことです。「こんなことしていたらイケナイ」と思うのですが、やめられません。工事現場のコンクリートが最高ですが、出来上がったビルでもこの匂いがすることがあります。とくに地下のボイラー室に続く場所などが最高です。コンクリートが剥き出しになっているから。コンクリートが濡れると、より匂いが強くなります。冷たく湿ったコンクリート、最高です。コンクリート打ち放しの家に住んだことはありませんが、もしあの匂いがしたら、毎日フガフガ嗅いでしまうことでしょう。どこへも出かけず、家の中に閉じ篭ってコンクリートの匂いをずっと嗅いでしまいそうです。これはもう病気です。こんなことでは廃人になってしまいます。だから、私はコンクリート打ち放しの家には住めません。私のほかにもあの匂いが好きという人は、たまにいるようです。光に誘われて蛾が集まるように、コンクリート好きは工事現場に集まっていきます。工事現場で何もせず佇んでいる不審者がいたら、コンクリート匂いフェチかもしれません。もし家にコンクリートの小さな塊があったらと思うと、ドキドキします。きっとそこに顔を埋めて、ずっと嗅いでしまいます。そろそろ夕飯の支度しなきゃ…と思いながら、顔を埋めている自分の姿が目に浮かびます。欲望に抗うには、相当強い意志の力が必要です。だからもしコンクリートの塊をくれるという人がいても、貰わないようにしなければなりません。きっとまともな生活ができなくなります。