夢に、去年亡くなったおばあちゃん(母方)が出てきた。
旅行に行くような格好で、実家の玄関に現れたのだ。
しかし夢の中の僕は気付いていた。
足元を見ると、病院スリッパのようなものを履いていた。
もう亡くなったはず・・・と思いながら、でも幽霊だろうとなんだろうと元気そうな姿を見せてくれたことに感激していた。おばあちゃんはひょこひょこと、いつもの歩き方で居間へと向かう。夢の中の僕は後ろ姿を見ながらついていった。
僕は、「おばあちゃん、来てくれたのはうれしいけど、でも、
もう死んでるねんで・・・」と心の中で言っていた。居間の端に座ったおばあちゃん。
横から、
「成仏できんのやろなあ」と誰かの声がしたところで目が覚めた。
今日はU14を廃車にする日だ。
仕事は有休を取った。
U14を買って半年後くらいで、おばあちゃんとは別れて住むようになったが、遠く名古屋転勤になった後、U14でおばあちゃんを2度、旅行に連れて行ったことがある。
そのとき、「ゆうちゃん、こんな立派んなって、こんな立派な車で旅行に連れて行ってもらえるなんて、
極楽やなあ」と、言っていたのを思い出した。僕は「なんぼでも行けるで、
車やったら大阪近いし」、と言っていた。
それから2年。僕は東京転勤になり、遠く離れてしまった。
その半年後、ガンを患い入院したおばあちゃんを見舞いに行った。
もちろんU14で、何度も。
そして「
また元気なったら、一緒に車で旅行に行こな」と励ました。
でもそれが叶うことはついに無かった。
寝室から雨上がりの曇り空を見上げてそんなことを思い出していた。
僕は涙ながらに、空に向かって伝えた。
「おばあちゃん、U14を迎えに来てくれたんやね。ありがとう。一緒に旅行行きたかったんやね。」と・・・。
あまりにも泣いていたので嫁が心配して見に来たのは、言うまでもない・・・
泣いても泣いても最後の日。
車検切れのため洗車場にはもう行けないので、洗車シートで磨いた。
GWから続くラストランで、まめに洗車はしていたものの雨や虫つきなどで汚れていた。
窓やボディをみがきながら、無数についた傷や凹みを、うろ覚えながらいつ頃つけた物だったっけと思い出していた。先週施した死に化粧ーエアータッチスプレーをしたところーは、雨で流れることなく、そのままの色で残っていた。マスキングが不十分だったので、黒いところにかすかに付着した塗料があった。磨いても塗料は取れなかった。もし次車で塗装することがあったら、マスキングには一層気をつけなくては、と思った。
U14は最後まで勉強させてくれた。
お昼になったので嫁と自転車で昼飯を食べに行った。そこへ納車のほうから電話があった。
「14時半頃になります」とのこと。
廃車の担当からの電話はまだなかった。
期待はしてなかったが、次車とU14を並べることができるかもしれない。
昼を食べて帰宅途中にユニクロに寄ったが、そこでいきなり大雨になった。ざあっと降って、数分後には晴れた。
今の雨でおばあちゃんが降りてきたのかな、と思った。
家に戻ったところで、電話が鳴った。
さっきとは違う番号。廃車担当からだった。もう隣町まで来ているとのこと。
ああ、並べるのはやっぱり無理だったか。
それもいい、と思った。
実のところ、迷っていたのだ。新旧並ぶ姿が
果たして直視できるのか。今の自分は完全にブルーバード一筋だ。それは、
新しく家族となる車にとってあまりにも失礼極まりないのではないか、と。だから、並べられないならそれはそれで、気持ちの面も含めた完全な切替ができると思った。
ほどなく、積載車がやってきた。
覚悟を決めて、部屋を出た。
嫁も一緒に出て、ついてきた。
淡々と作業が進む。
「書類は全て送られていますよね」と聞かれ、「あ、車検証送ってないです。取ってきます」と言っていったん部屋に戻った。
見つからなければいいのに、と一瞬思ったがすぐ見つかった。
動揺を隠せないまままた車のところへ戻った。
嫁が話を聞いてくれていた。
「忘れ物はありませんね」「それではここにサインを」一瞬、目が泳いだ。
直視できない現実がそこにあった。
気持ちを振り切るようにしたが、その書類の内容を一切読むことができず、ただサインをした。
「では始めます。キーをお持ちですか」
「はい」キーを渡した。9年間、
乗らない日でもポケットに入っていたキーだ。
廃車業者はすばやくU14に乗り込み、エンジンをかけた。
車検切れの日のかかり渋りが嘘のように、一発始動した。
僕はカメラを構えた。すると業者のもう一人が、「写真ですか」と言った。そこで陽の当たる場所に止めてもらい、何度かシャッターを切った。
しかしすぐにいたたまれなくなった。
「もういいです」と僕は言った。
積載車の後部へ、ゆっくりと僕のU14が向かっていく。
動画で撮影しながら、その光景を見ていた。
一眼レフのモニターの中で、積載車のスロープを
自ら上がるU14。
ブレーキランプが消え、荷台が地上と水平になるまで、
数秒間。
「では」「お願いします」U14を載せた積載車が動き出した。
ゆっくりと去って行く。なんとも言葉の発しようがない複雑な気分の中、小さくなっていくU14を見つめていた。やがて姿が見えなくなった。
「行っちゃった、ね」嫁がつぶやいた。
「ん。」声が詰まり、何も言えなかった。
雨上がりの空を見上げ、
おばあちゃんにお礼を言った。
部屋には戻らず、嫁とコンビニへ歩いた。のどが渇いた。
そこへ電話がかかってきた。納車担当だった。
「近くまで来ました」その30秒後、姿を見せた。
たった
5分のニアミスで、新旧の愛車が肩を並べることはなかった。
すぐに気持ちの切り替えをしろ、とブルが教えてくれたのかもしれない。
これからは、このクルマが家族になるんだ、と気持ちを引き締めた。
Posted at 2010/06/10 00:05:56 | |
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