【2014.1.11 18:00】
まさに紙一重の脱出劇だった。
東京都武蔵野市で昨年12月、女児(7)が車で連れ去られそうになったのを父親が
気付いて逃げ出させ、その後、未成年略取未遂容疑で府中市多摩町、元証券会社
社員、橋本明 容疑者(46)が警視庁に逮捕された。
自宅からは過去の誘拐事件や警察の捜査手法をまとめたメモが見つかるなど、
身代金目的で着々と誘拐計画が進められていたことが発覚。
逮捕された場合の取り調べの受け答えも想定していた。
捜査関係者が「警察への挑戦」と憤る犯罪計画の全容とは。
(宇都宮想)
■父親の怒鳴り声で脱出 逃走車両が逮捕の決め手
「お父さんが事故に遭った。病院に行こう」
JR三鷹駅に近い武蔵野市内の閑静な住宅街。
昨年12月19日午後、自宅に入ろうとした女児に、橋本容疑者がこう声をかけた。
女児の手を引っ張って車に押し込んだが、偶然、仕事を早めに切り上げて
帰宅していた父親が室内から見とがめ、声を張り上げた。
「何をしているんだ。逃げろ!」
父親の怒鳴り声を聞いた女児は慌てて車内から脱出し、橋本容疑者は車で走り去った。
父親からの通報を受け、警視庁武蔵野署は連れ去り未遂事件として捜査を始め、
父親が目撃していた車の割り出しを急いだ。
現場近くには商店街があり、交通量の多い井ノ頭通りもほど近い。
やみくもに逃げ回れば、店舗や路上の防犯カメラに映り込むはずだったが、全く見つからない。
捜査員の間には早い段階で突発的な犯行ではなく、入念に準備された計画的な犯行ではないか
という推測が広がった
捜査員らは犯人が車を処分して証拠隠滅を図ったとみて、周辺の自動車整備
工場などをくまなく探し回った。
そして、12月下旬に父親の目撃情報と似た車を発見。
年末の休みに入っていた経営者に工場を開けてもらい、犯行に使われた車と確認した。
これが決め手となり、12月30日に橋本容疑者が逮捕された。
■過去の事件のメモ発見 組み立て式の小屋も?
橋本容疑者は逮捕直後、「女児を狙い、何度か下見をして連れ去ろうとした」と
計画的な犯行であったことをあっさり認めた。
府中市内の自宅の家宅捜索では「完全犯罪計画」をうかがわせる「物証」が次々と出てきた。
捜査員らの目を引いたのは、過去の誘拐事件や警察の捜査手法をまとめたメモ。
そこでは、昨年11月に大田区田園調布で女子中学生が連れ去られ、約3時間後に
無事保護された誘拐事件についても言及し、「自分ならこんな失敗はしない。
違うやり方でやる」と書かれていた。
他に、スタンガンを用意したり、1億円以上の札束の大きさを計算したりしていた。
橋本容疑者は身代金目的だったことを打ち明け、「数カ月前からバイクや車で、
女児の行動や自宅周辺を下調べしていた」と供述している。
供述によれば、女児が普段、友人と一緒に自宅近くまで下校するため、自宅前で
1人になる瞬間を狙ったほか、女児の帰宅時間には父親が仕事中であることも調べていた
さらに、監禁場所として組み立て式の小屋を建てていたが、連れ去りに失敗した
後に壊したといい、その痕跡も確認された。
捜査幹部は計画の全貌を知って冷や汗を流したといい、「父親がたまたま
帰宅していなければ、連れ去りが成功していた可能性は高い」と語った。
■関西で車を購入、複数のナンバープレート…残る謎
事件の動機は解明されつつあるが、依然として不可解な部分も残る。
まずは、なぜ、女児を狙ったのか。
女児の父親は近所では名の知られた音楽家で、裕福な家庭であったことは想像できる。
ただ、橋本容疑者は少なくとも十数年前から15キロ以上離れた府中市で生活していたと
みられ、父親とは全く面識がないという。
また、犯行に使われた車は1年以上前に関西地方で購入されていた。
当初から犯行に使用しようとしていたとみられるが、なぜ、わざわざ関西だったのか。
さらに、橋本容疑者の供述に基づき、自宅近くの河川敷で複数枚のナンバープレートが
埋められているのが見つかっている。
付け替えながら逃走するためだったとみられるが、入手方法などについては明らかになっていない。
捜査関係者によると、橋本容疑者は大学を卒業後、証券会社で腕を振るったが退職。
退職後は何で生計を立てていたかははっきりしないという。
捜査関係者は最悪の場合を想定し、こうつぶやいた。
「取り調べの様子をみても、とにかく頭が切れるという印象。
身代金の受け渡しについても、われわれを欺く手段を考え抜いて犯行に及んでいたはず。
今後の教訓にするためにも、不可解な部分も全て解き明かさなければいけない」