【朝日新聞 荻原千明、中島嘉克 2016年4月5日15時59分】
駐車禁止の場所にも車を止められるように障害者に交付される「駐車禁止除外標章」。
大阪府警が大阪・梅田で取り締まったところ、4割近くが不正に使われている実態が浮かび上がった。
多くは障害者の家族によるもので、府警は対策を強化している。
大阪・梅田の新御堂筋。
2月下旬、チケット制のパーキングに止めた車を府警の警察官が1台1台チェックしていた。
ダッシュボード上に「歩行困難者使用中」と書いた標章があると連絡先を調べて電話をかけたり、
戻ってきた運転手に話を聴いたりする。一帯のパーキング・チケットで実施した集中取り締まりだ。
標章があれば60分300円のチケットを買わずに時間制限なく止められる。
この日、標章を置いていた26台のうち14台(54%)は交付された本人が自宅にいるなどし、
不正使用だと確認された。
ワゴン車に戻ってきた男性を警察官3人が囲んだ。男性に障害はない。
「標章は弟のもの。弟を送った後、自分の用事で使ってしまった」と言い、駐車違反の
青切符(交通反則切符)を交付された。
府警は昨年11月以降に集中取り締まりを5回実施。
標章を置いていた計126台のうち47台(37%)に青切符を交付した。
多くが家族による不正使用だった。
別の日、記者が同じ場所で取材していると、男性(44)が標章を置いてワゴン車から降りてきた。
標章は寝たきりの60代の父親のもの。「父を病院に送り迎えするため」などとして交付を受けたが、
この日は1人で買い物に来たという。
「梅田は駐車料金が高い。標章があればタダ。みんなやってるんじゃないですか」と言って立ち去った。
不正使用はパーキング・チケットで目立つという。
府警幹部は「パーキング・チケットは短時間に限り、多くの人が譲り合って使うのが本来のルール。
不正に占拠すれば正当に止めようとしている人が困る」。
府警は大阪市中心部の複数のエリアで今後も取り締まりを続ける方針だ。
ある幹部は「不正使用が蔓延すれば、制度を見直そうという声が上がり、本当に必要な人が
困ることになりかねない」と懸念する。
大阪府の場合、標章は府道路交通規則にもとづき交付される。障害者本人が乗っていなければ
駐車違反で取り締まりを受けるが、不正使用自体に罰則はない。だが、常習の場合は逮捕した
ケースもある。
府警は昨年6月、大阪市中央区の勤務先近くの路上を駐車場代わりにしたとして会社役員の
男性(66)を自動車保管場所法違反容疑で逮捕。
男性は罰金20万円の略式命令を受けた。車を通勤で使っていたという。
府警によると一昨年10月ごろ、「路上にいつも止まっている車がある」という手紙が南署に届いた。
捜査員が確認すると、車内に男性の母親(当時88)の標章があった。
母親は昨年4月に死亡したが、男性はその後も標章を置いて路上駐車を続けていた。
府の規則では、本人が死亡するなどして標章が不要になった場合は「速やかに返納しなければ
ならない」とされている。
男性は取材に対し、「車高が高くて契約している立体駐車場に入らず、標章が便利だと
思ってしまった。逮捕されると思わなかった」と話した。
大阪市身体障害者団体協議会の手嶋勇一会長(74)は取り締まり強化を歓迎する。
自身も病気で左腕を失って標章を持っているが、「もっと必要な人がいる」と使用を控えている。
「標章に対して世間の目が過度に厳しくなれば、一番困るのは障害者。不正に使っている人は
そのことに思いをはせてほしい」と話す。
◇駐車禁止除外標章
大阪府の場合、下肢不自由(1~4級)や聴覚障害(2、3級)、重度の知的障害などがある人が運転したり
同乗したりしている車に掲げれば、標識などで駐車が禁止されている場所で規制対象から除外される。
府警によると、本人や家族が警察署に身体障害者手帳などを持参して申請する。有効期限は3年間。
警察庁によると全都道府県に同様の制度があり、2014年末で55万5046枚が交付されている。