【朝日新聞 2016年05月12日08時00分】
東京都内で、乳児をおんぶした母親の自転車と乗用車が衝突し、乳児が死亡する事故が起きた。
便利だが、一歩間違えば命の危険も伴う自転車。子連れで乗る時、何に気をつければいいのだろうか。
東京都国分寺市の住宅街を貫く片側1車線の幹線道路。
バスやトラックが行き交う場所で、6日午前10時ごろ、事故は起きた。
警視庁小金井署によると、近くに住む母親(33)が7カ月の男児を背負い、自転車で
横断歩道のないところを横断中に、狛江市の介護職員女性(25)の乗用車と衝突。
男児は背中からは落ちなかったが、母親が倒れた際、頭を打ちつけたとみられる。
ヘルメットはしていなかった。
自転車に大きな損傷はなく、母親も軽傷という。
署は、乗用車の女性を自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致傷)の疑いで現行犯逮捕。
東京地検立川支部は8日、処分保留で釈放した。
事故を巡り、ネット上では「赤ちゃんをおんぶして自転車に乗るのは非常識」といった批判も。
だが、署は「男児を背負って自転車を運転していたことに法的な問題はない」とする。
乗車人員などの規則は都道府県によって違うが、都道路交通規則は、16歳以上がバンドなどで
6歳未満の幼児を背負って乗ることを認めている。
都市部では、移動に欠かせない自転車。どうやって安全に乗るのか、親たちの悩みは尽きない。
現場近くで、1歳7カ月の長男を抱っこして保育園から帰る途中だった薬剤師の女性(31)は
「ひとごととは思えない」と話す。
事故当日、友人たちとLINE(ライン)で「怖いね」「母親の後悔を思うと胸が痛い」と
やり取りしたという。
長男が生後半年になった頃から自転車に同乗を始めた。
車はあるが、ペーパードライバーで運転には不安がある。
かかりつけの小児科は自宅から徒歩約20分。自転車なら10分だ。
「熱を出すとぐずってベビーカーも嫌がる。後ろは見えなくて不安なので、抱っこで
乗ったこともある」
妊娠8カ月の今は自転車を控えているが、「ヘルメットやチャイルドシートは、1歳以上推奨ばかり。
他に安全な方法があればいいけど、2人目が生まれたらどうしたら……」と悩む。
同乗中の子どもが犠牲になる事故は、過去にも起きている。川崎市では2013年、転倒した
自転車の後部座席から女児(当時5)が投げ出され、トラックにひかれて亡くなった。
警察庁によると、昨年までの10年間に同乗中の事故で亡くなった6歳未満の幼児は7人。
昨年1年間では823人がけがをした。
国民生活センターと消費者庁が収集した62件の事故情報では、約8割が頭や顔に
けがをし、34%はヘルメットをつけていなかった。
走行中以外にも、「自転車の向きを変えようとしてハンドルを取られた」といった
ケースがあったという。
ブリヂストンサイクル(埼玉県上尾市)によると、幼児2人を乗せた場合の全重量は100キロ超。
発進時や低速走行時、ハンドルが振れやすくなる。
安全を保つためには、電動自転車の場合、おんぶではなくチャイルドシートを使う
▽子どもを乗せる前に安全な場所で練習する
▽かかとの低い靴をはく、などがポイント。
自転車を選ぶ際は、一般社団法人自転車協会が発行する「BAAマーク」が目安になるという。
自転車協会の手引では、幼児のヘルメット着用を推奨する一方、1歳未満はヘルメットの
首への負担が大きくなることがあるため、同乗はやめるよう呼びかける。
協会の担当者は「自転車は命を預ける乗り物。子どもを乗せる前に、ルールも学び直してほしい」と話す。
(根津弥、伊藤和也、仲村和代)
■同乗の幼児が亡くなった自転車事故(事故発生直後の朝日新聞記事をもとに作成)
2003年1月 岡山県玉野市の県道で、後部荷台に男児(6)を乗せた母親の自転車と乗用車が衝突。
男児が死亡
2004年5月 大阪市平野区の国道で、幼児2人を乗せた母親の自転車と横を走っていたバスが接触。
後部に乗っていた女児(5)が死亡
2006年10月 大阪府茨木市の踏切で、幼児2人を乗せた母親の自転車が転倒。
補助いすに乗った女児(2)が死亡
2013年2月 川崎市の市道で、幼児2人を乗せた母親の自転車が転倒。
後部に乗っていた女児(5)がトラックにひかれ死亡