
ウオーターインジェクションというモディファイ手法があります。
もともとはWRCカーでも使われていた技術で、スバルもGDBのラリーカーで使用していました。その後レギュレーションで禁止されるので、技術開発自体が止まってしまうのですが。
週末に競技系ショップで尋ねてみました。
私 「水とメタノールをインマニに噴射するチューニングありますよね」
店 「あるねー」
私 「あれって、メタノールは単純に凍結防止の役割ですか?」
店 「そうですね。でもメタノール入れた方がパワー出ますよ」
私 「大阪だから、まず凍結の心配ないんで、水だけで運用できますかね?」
店 「大丈夫だろうねー」
私 「実は5万以下でシステム一式個人輸入できるんですけど、現車あわせと一緒にウォーターインジェクションのセッティングもできませんか?」
店 「んーやってる所少ないから、ノウハウが無いね。国内じゃ難しいんじゃないかな」
(遠まわしなお断り)
との事でした。
日本じゃ全く行われていないモディファイのようです。
みんカラでも検索してみましたが、やってる方が全然見つかりません。
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私は主にUS、UKのスバル用改造パーツ販売サイトを巡回しているので、そこで目にする部品がどうしても気になります。
そうした部品の一つが、このウォーターインジェクションでした。
有名なのは、
AEM製の水/メタノール噴射キットか、UKの
Aquamistの水/メタノール噴射キットです。安全装置の出来の良さから、スバルコミュニティではAquarium製の方が人気が高いようです。
値段はAEMが3万3000円、Aquamistが7万円です。
取り付け工賃込みで考えても、前置きインタークーラーにするか、ウォーターインジェクションにするかといった選択肢に上げられるモディファイ手法の一つだと思います。
NASIOCにもこの改造の専用カテゴリのフォーラムが設けられています。この事からも、WRX STI用の改造手段として、ポピュラーな物である事が想像できます。
構造は簡単です。
夏場にホームセンターでも売っていましたが、水をドライミストにして噴射するノズルがあります。あれを使って、スロットルボディの前に割り込む形で吸入空気にドライミスト状になった水とメタノールの混合液を噴射します。
水は燃焼室で気化する時に爆発的に体積が増えますし、さらにそこで理科で習ったように気化熱を奪うので、エンジンの冷却ができます。通常、高回転で燃料を濃くしてガソリン冷却しますが、水が気化熱を奪うので、このガソリン冷却分のガソリンを薄くできます。また、メタノールが混合気に入るので、ガスのオクタン値が上がったのと同じ状態になり、点火タイミングも進められますし、ノック耐性が上がるので、タービンのブーストも大きく上げられます。
2.5LのEJ257で、パワー上昇は(安全マージンを大きく取って)およそ30馬力、トルクは10kは上がるとされているので、前置きインタークーラーと、コストと性能で似たラインに来ています。
タンクはAEMのこのセットでおよそ4L。
このWRX STIでの取り付け例では、ボンネット開けたらすぐに給水口にアクセスできるように、また水が冷却できるようにフレッシュエアの入るフォグランプ裏に設置されています。すぐ横にポンプも設置されています。
水+メタノールの混合比率ですが、50/50が良いとされていますが、実際は60/40が多く使われています。これは、無水メタノールを薬局なんかで購入して蒸留水と混合するとすごく高いというのが原因です。実は、水とメタノールの混合液というのは、凍らない水として、フロントガラスのウオッシャー液として売られています。
これが水60/メタノール40ほどでものすごく安価で簡単に入手できるので、これが流用されています。
ちなみに4Lタンクの持ちですが、ガソリン2回満タンにする度に1回補充ほどの使用量だそうです。値段は大阪のコストコで8Lが898円。ガソリン50L毎に250円という所ですね。安いです。
とても理にかなった冷却手法で、なぜUSでだけ人気で日本では行われないのか?と思って調べていたのですが……
Perrinのこのブログに、このウォーターインジェクションシステムを積んだWRX STIでのトラブル事例が出ています。
このケースでは、Jeff Perrinの奥さんが、PerrinのモディファイされたWRX STIをドライブしていた時の事が書かれています。
ガソリンスタンドで給油後、エンジンがかからなくなったと。クランクが回りすらしていないと連絡が入ったのです。
この車に詰まれたウォーターインジェクションシステムは、キーがACCにあると水噴射をスタートするものだったのですが(以前のPerrinのシステム)、奥さん、給油中にエンジンを切ったのですが、オーディオを聞くためにキーでACCをONにして給油していたのです。そのため、燃焼室内に水が噴射され続け、プラグが塗れてしまっていたのでした。
Jeff Perrinはその場で全てのプラグを外し、500CCもの水を排出してエンジンをかけたのです。
もう一つ、Jeff Perrinのブログで面白い記事があります。
WRX STIで
ウォーターインジェクションはインタークーラーの代わりになるか?という物です。
インタークーラーを完全に取り外し、入り口と出口の配管をストレートパイプで繋いであります。これで吸気は一切冷却されなくなります。その代わり、この配管に水の噴射ノズルが取り付けてあります。水/メタノールの割合は50/50でテストです。
ブーストが、インタークーラー無しの方が高ブーストがかかっています。さらに6800rpmまでほとんどブーストの落ち込みがありません。中間域で安定して1.4かかり、もっとも落ち込んだ6800rpmでも1.2かかっています。(EJ257です)
ところがトルクは大きく落ち込んでいます。
これは、点火タイミングが全く進められなかったからです。
インタークーラーが無くなる事で上昇した吸気温度が、水/メタノール噴射装置では下げきれず、点火を遅らせざるを得なくなり、それがこの大きなトルクの落ち込みになったのです。パワーも330馬力出ていた物が、280馬力に落ち込んでいます。ハイブーストにも関わらず、パワーもトルクもまるでダメです。
このテストでは、吸気の温度が外気よりも90度~110度Cも高くなっていたそうです。
インタークーラー有りでは+15度C程度ですから、この吸気温度の上昇が、ハイブーストで得られたはずのパワーを帳消しにしています。
市販車で吸気の冷却手段としてインタークーラーが採用された理由が良く分かりますね。
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高い方のAquamistのインジェクションシステムは良く出来ていまして、安全装置が何段にも掛かっています。特に良いと思ったのは制御システムで、まず室内から動作の状況と水の残量を参照できます。これで水が突然切れる事は無くなりますね。
さらに、ブーストを監視して、規定ブースト圧から噴射を始める事ができます。正圧になり、さらに規定圧を超えるまで水が出ないので、上記Jeff Perrinのような事故は防げますね。ただ、低回転やパーシャル域でのトルクは狙えなくなります。
全開時のパフォーマンスを狙うなら、こういう制御は安心で嬉しいですね。
問題は、このシステムとセットでのECUセッティングや、ウォーターインジェクションシステムの細かい設定をやってくれるショップが日本には少なそうという事。もしかすると存在しないかも……。
基本、ノッキングを防止するためのシステムなので、安くて安全なシステムだと思うんですけどね。なぜ日本でのみ普及しなかったんでしょうか?
★追記
インタークーラーのコアに水噴射して、そこで気化熱で吸気温度下げる方がシステム安価で安全なので、似たようなシステムだけどこっちが採用されたってのはありそうですね。コントロールシステムが圧倒的に安価でしょうし。