2007年03月12日
またまた間が空いてしまいましたが……いよいよオチの回です。(^^;;;
さて、アレスとの秘め事のまっ最中にふん縛られ、仲間の神さまや女神さまたちの前で大恥をかかされる羽目になったアプロディテ。
実家に返されたら返されたで、父親たるゼウスからもお小言を頂戴いたしました。
「このわしの顔に泥を塗り居って!」
カミガミと……いえ、ガミガミと、雷を落とされたのでございます。
しゅんとして、その場は引き下がったアプロディテ。
しかし、しばらくすると、ふと気がついたのでした。
「ちょっと待ちなさいよ。そもそもはあのバカ親爺が、あのぶ男の鍛冶屋なんかを酔っぱらってぶん投げちゃったのが悪いんじゃない!」
そうです。
そもそものことの起こり……というか責任者は、大神ゼウスその人であるはずなのでした。
それなのに割りを引いたのはアプロディテだったのです。
その不満とうっぷんの晴らそうと、ちょいと浮気したら、こっぴどく大恥をかかされる羽目となりました。
いや、それは仕方のないことにせよ、ことの起こりのゼウスからまで叱られるとは!
「……だんだん、腹立ってきたわ」
かくてアプロディテは一念発起し、父親たるゼウスに、何と超強力なる「呪い」をかけてしまったのでございます。
「え~い! 我が父にして神々の王たるゼウスよ!
わたくしの百倍! 千倍! いえ万倍!
浮気の虫に取りつかれよ!
およそ神たるものとも思われぬほどの卑しさにて
卑しい女どもを相手に、卑しい行為にふけりまくるがよい!
え~い! 呪われよ! 呪われよ! 呪われよ~っ!」
まあ要するに、「浮気性になれ!」という呪いだったわけです。
のどかな呪いというか、アホな呪いというか、滅茶苦茶な呪いというか……
しかしとにかく、この呪いは見事に功を奏しました。
もともと素質があったのか、それともアプロディテの一念が神々の王たるものの権威をも打ち破ったのか……
ともかく、それ以降、大神ゼウスは人が(神が?)変わったかのように好色無類となり、淫蕩放蕩の限りを尽くすようになってしまったのでした。
ある時は黄金の雨となってダナエの上に降りそそぎ、
またあるときは猛々しい雄牛と化してエウロパをかっさらい、
しかしてまたあるときは、白鳥の姿でレダの上に覆いかぶさり
時には「その夫の姿」に化けてまで、貞淑な人妻アルクメネを……
などなど。
いちいち列記していては、とてもスペースが足りぬほどのありさまでした。
しかしこうなると、気の毒なのはその妻であるヘラです。
夫がいきなり、どうしようもないほどの浮気者に豹変してしまったのですから。
これでは普通の女性でも怒りまくることでしょうが、彼女はもともと、ひどい焼き餅焼きの気質だったのですから、もうたまりません。
「あなたっ! 何ですか! その妙に可愛らしいメス牛はっ!」
「あなた? 昨夜はおかしな格好をなさって、どこにお行きで?」
「何だかやけに、その人間女の産む子なんぞに気を配っておられますわね」
などなど、ギリシャ神話を彩る逸話の数々は、こうして生まれることとなったわけでございます。
めでたし、めでたし。(どこが?)
Posted at 2007/03/12 10:26:29 | |
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ギリシア神話 | その他
2007年02月27日
え~、予め不定期連載とお断りしましたように……
ちょいとばかし間があいちまいましたが……
まあ、そこはご愛敬と言うことで……今日は「その九」です。(^^;;;
さて、さすがは俊足いだてん走りの、神々の伝令神ことヘルメスです。
たちまちオリンポスの12柱の神々の間をかけずり回って、全員をその場へと呼び寄せてまいりました。
参考までに、ここにその面々を列記してみますれば……
ゼウス……………神々の王にして天空神・最高神、そして雷神たる大神
ヘラ………………ゼウスの妻にして神々の女王。婚姻の女神
アテナ……………戦争の知略と、知恵と工芸、そして学芸の女神
アポロン…………弓術・医療・芸術・光明・予言・音楽の男神
アプロディテ……愛と美の女神。エロスの母
アレス……………戦争の災厄を司る男神
アルテミス………アポロの妹で、弓術・狩猟・清浄の女神
デメテル…………農耕・大地の女神
ヘーパイストス…火山・鍛冶の男神
ヘルメス…………伝令・商業・泥棒・旅行の守護神。のち錬金術の神。
ポセイドン………海・泉・地震・馬・塩の男神、ゼウスの弟
ヘスティア………かまどの女神
……と言うような顔ぶれとなります。
(ヘスティアの代わりに酒の神ディオニュソスが入る場合もありますが、まあここではこういうことで)
これら12柱の神々のうち、ヘーパイストスはこの館の主ですし、アプロディテとアレスはベッドにからみ取られておりまして、ヘルメスは他の皆さんを呼びに行った訳ですから、残りの8名が、「何だ何だ、何がどうした?」とばかりに、ぞろぞろと呼び集められてきたという次第でございます。
かくて、アレスとアプロディテのふたりは、その痴態を、仲間の前に総ざらしさせられることと相成ったのでございました。
「う、むう……」
「おや……」
「あら……」
「まあ……」
眼前に展開される光景に、神々は皆、困ったような顔となりました。
実のところ、おかしくておかしくて仕方がなかったのですが、しかし仮にも神々である立場上、あまり品もなく馬鹿笑いするわけにも行きません。その上、事情が事情ですから、そもそものことの起こりたる大神ゼウスの目の前で、あまりあからさまに吹き出すわけにも行かなかったのでした。
もっとも、この時アポロンは、ヘルメスに次のようなことを言ったと伝えられております。
「おい、ヘルメス」
「何ですかな? アポロンどの?」
「お前は確か……かねてより、一度はこのアプロディテと……こうなってみたいとか何とか、言ってたじゃないか。どうだ、何なら今……ちょいとアレスと代わってもらっちゃ?」
「あ、いえいえ……」
ヘルメスはぶるぶるとかぶりを振り、こう答えたそうです。
「入りたいのはやまやまなれど、出るに出られぬざまになるってのは、ちと困りますな。何せわたしのは……アレスどののモノほどには、頑丈でもたくましくもございませんし……」と。
それを聞いたとたん、他の神さまたちがいっせいに、どっと吹き出しました。
それまで必死で、何とか辛抱していたのが、とうとう堪えきれなくなってしまったのでした。
「……」
神々の笑いさざめきの中、独り大神ゼウスだけは、苦虫を百ダースほどもまとめて噛みつぶしたような顔をしておりました。
「さて」
ヘーパイストスは、その前におごそかに進み出ると、うやうやしくこうべを垂れて申し述べたのです。
「大神ゼウスさま、あなたさまより拝領いたしましたる花嫁……あなたさまの愛する娘は、これこの通りの、ひどい“ふしだら娘”にございます」
「……」
眼前にこのような歴然とした、明々白々たる証拠が「ごろり」と転がっていては、いかな神々の父、大神ゼウスであろうと、ひと言の反論のしようもありません。
「……う、うむ」
と、渋い顔で頷くばかりでございました。
「されば、ここに“のし”を付けて、お返し申し上げます。どうぞお引き取り下さいますよう」
「ああ、わかった。わかった……どうも重ね重ね、迷惑をかけたな」
ゼウスとしては、それ以上はぐうの音も出ぬ思いでした。
他の神々の前で、いやというほどに赤恥をさらす結果となり、大神としての面目も、もうすっかり丸つぶれです。
そそくさとアプロディテらのいましめを解いてやると、娘とふたり、ほうほうの体にて、すごすごと退散してゆくしかなかったのでした。
一方のアレスもまた、大急ぎで衣を身にまとい、他の神々の大笑いの声を背に、いずこともなく立ち去ってゆきました。
その後、彼がどうなったのかは、まったく伝わっておりません。
よほど恥ずかしかったのでしょうか?
実のところ、戦の災厄の神さまという割りには、彼にまつわるエピソードは、この一件だけなのです。
かくて、アプロディテの浮気騒動は、12柱の神々の大笑いの中、いちおうの決着を見たのでしたが……
これで終わりにはならなかったからこそ、まだまだ先があるのでございます……
Posted at 2007/02/27 17:12:00 | |
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ギリシア神話 | その他
2007年02月19日
さて、ヘーパイストスの企みや、怪しげなる罠の存在なんぞには、まるで気もつかず、すっかりアツアツにのぼせきってしまっているアプロディテとアレスの両名。
いつものように身体をからませ、どさりとベッドに倒れ込むや、くんずほぐれつの痴態を、誰はばかることもなく繰り広げはじめたのでした。
ばちーん!
とたんに、仕掛けが作動いたしました。
「ぐうっ!」
「きゃあっ!」
何が起きたのかも判らぬまま、そのままの姿で、がんじがらめに絡め取られ、身動きも出来なくなってしまったふたり。
さては……と、ようやくにして感づいたのでしたが、既にあとの祭りでした。
そのようすを、じっと見つめるふたつのまなこがありました。
「寝取られ夫」のヘーパイストスです。
「……」
してやったり! と思いつつ、その顔は晴れません。
「あのアマ……あんなに幸せそうな顔しやがって……」
今しがたの情景を思い出すにつれ、自分の前ではつゆ見せたこともなかった、あの妻の媚態の艶やかなる美しさに、やはり複雑な思いにならざるを得なかったのでした。
「俺の前では、一度もあんな顔はしてくれなかった……」
渋い表情をしつつ、きっと天を見あげ、何やら探しはじめます。
「……」
いったいぜんたいヘーパイストスは、このようなときに、何をやっているのでしょうか?
実は、ある神さまを捜していたのです。
いつもこの時刻になると、このあたりの空の上を通りがかるはずでしたので。
「おお! いたいた! お~い! ヘルメス殿~っ!」
呼び止められたのは、いだてん走りで有名な、伝令の神さまヘルメスでした。
はて? と首を傾げる仕草などしつつ、愛用の有翼靴をひょいひょいとはためかせて、こちらに駆けよってきました。
「何ですかな? ヘーパイストス殿? あなたがわたしにご用とは、これは実にお珍しいことですな」
ヘルメスがいぶかしげな顔をしたのも無理ありません。
そもそもヘルメスは神々の伝令役ではありますが、もともとは「旅人」・「泥棒」・「商業」・「羊飼い」の守護神であり、武器や防具とはあまり縁がなかったので、鍛冶屋の神たるヘーパイストスとも、自然と疎遠になりがちだったのです。
また、ヘルメスはなかなかの好青年タイプでもありましたので、美人の妻を持つヘーパイストスの方で妙に警戒しており、これまではあまり家には近づけないようにしていたようだったのです。
(泥棒の神なんぞに、女房を寝取られちゃかなわんわい)
とでも思っているのが見え見えだったのでした。
(ちっ、ケチな亭主だ……ちょいとくらい俺にも分けてくれたって、別に減るもんでもあるまいに)
などと思いつつも、
(まあ、それでもいちおうは大神ゼウスの命による正式の亭主さんなんだから、仕方もねえか)
と諦めていたヘルメスでしたので、今日のこのなりゆきには、実際にかなり驚いていたのです。
しかも、ヘーパイストスの表情をよく見てみれば、何とも妙な具合に薄ら笑いなど浮かべて居るではありませんか。
いささか不気味なほどに、愛想良く。
(このおかしなおっさんが、こんな風に笑っている日にゃ……ほとんど妖怪もどきだよなぁ……いったいぜんたい、どうしちまったってんだ? 気色悪い一つ目どもや、百本腕どもとばかりつき合ってたから、ついにドタマに来ちまったかな?)
ますます怪しみつつ、うながされるがまま、ひょいと室内を覗きこんでみたヘルメス。
目の前に展開される光景に、思わず息を呑み、絶句いたしました。
「あ、いや……こ、これはまた……その、どうも……何とも、はや……」
ヘルメスでなくとも、言葉に困ることでしょう。
仮にもご亭主さんじきじきのお声掛かりにて、その妻の密通現場なんぞを、こうもあからさまに見せつけられては。
目を白黒とさせるヘルメスに、ヘーパイストスは言いました。
「まっことお手数とは存じますが……ヘルメス殿。どうかひとっ走り、オリンポスまでご足労いただき、他の皆さまを呼んできてはいただけまいか?」
「他の皆さま、とおっしゃると……つまり我ら12柱の神々の、残りの面々を? すべて?」
「さよう」
こくりと頷きつつ、ヘーパイストスは念を押しました。
「既にここにおられる方々は別といたしまして……他の皆さまは全員。特に大神ゼウスさまをお忘れなきよう、お頼み申しましたぞ。しかと」
「う……わ、わかった。し、しかと承った。で、では……ひとまずはこれにて……ごめん!」
かくてヘルメスは、仰天しつつ、オリンポスの頂へと駆け戻っていったのでございました。
というところで、お話は次回へと続きます……
Posted at 2007/02/19 15:05:26 | |
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ギリシア神話 | その他
2007年02月17日
さて、「ぐぬぬぬ」と歯ぎしりしつつ、いったんは引き下がったヘーパイストス。
力ずくでは勝てないアレスをへこませるにはどうすれば……と、日夜思案する日々を過ごしました。
そしてある日、ついに名案を思いついたのです。
「よし! これだ! これなら一石二鳥だし、手も汚さずにすむ!」
むっふっふ……
とほくそ笑んだヘーパイストス、おもむろに愛用の工具を取り出すと、弟子たち(一つ目巨人のキュクロプスとか、百腕魔神のヘカトンケイルとか、そういう不気味な連中ばかりです)とともに、何やら「ふしぎなしろもの」を制作しはじめました。
トンテンカンテン トンテンカン
秘密の材料 取りそろえ
秘伝の処方で 組みつけて
秘術をつくして こしらえりゃ
トンテンカンテン 仕上がって
今に見ておれ あのふたり
恨みはらさで おくべきか
人を小馬鹿に したむくい
骨身に染みて 思い知れ
トンテンカンと 思い知れ
……などと歌ったかどうかは知りませぬが、とにかく鍛冶屋の神さまとしての本領を発揮し、たちまちのうちに、「魔法の金網」を創りあげたのでした。
この「魔法の金網」、もちろんただの網ではありません。
目にも見えず、また、触っても気がつかぬほどに軽くてしなやか。
それでいて、その強度は抜群。
まことに頑丈そのもので、いったんこいつに絡みつかれ、くるみ込まれてしまうと、たとえ神々の力をもってしても、絶対に脱出することは出来なくなる……という品でした。
(このような魔法の品の制作にかけては、キュプロクスやヘカトンケイルらの独壇場だったようです)
「ふふふ……ようし、見ておれよ……」
ニンマリとしつつ、ヘーパイストスはそのご自慢の「魔法の網」を、アプロディテのベッドにしかけたのでした。
二人分の体重がかかった時に、初めて魔法が作動するように細工して。
それからおもむろに、
「ちょっと用事が出来たので、しばらく留守にするから……よろしく頼むぞ」
などと言い残し、いかにもそれらしく旅支度などして、いそいそと出かけて行きました。
もちろん、これは擬態。
遠出をしたふりをして、適当なところでとって返し、姿を隠してようすを窺っていたのです。
さて、そんなことになっていようなどとは、つゆ知らぬアプロディテ。
じゃまな亭主が都合良く留守をしてくれたということで、それを幸いと、さっそくアレスを呼び込みました。
「さあ、アレスさま……うちのあの貧相な人三化七(にんさんばけしち)めは、どこかへ行ってしまいましたわよ。さ、今のうちに……しっぽりと」
さて、何やら大ごとになってまいりましたが……
いかなる顛末(てんまつ)と相成りますことやら???
というところで、お話はまたまた、次回へと続きます。
Posted at 2007/02/17 12:55:44 | |
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ギリシア神話 | その他
2007年02月16日
さて、戦バカなアレスどのに、冷たくあしらわれてしまったアプロディテ。
「愛と美の女神」の面目にかけて、この難攻不落の堅い城壁を打ち砕こうと決意いたしました。
「この手だけは……使いたくなかったんだけど」
と、彼女が用いることにした非常手段。
それは、他ならぬ息子エロスの所有する魔法のアイテム、「黄金の矢」でした。
そうです。
いわゆるキューピッドの「愛の矢」というやつですね。
(エロスのラテン名はアモルですが、別名をクビドとも申しまして、それを英語読みするとキューピッドとなるのです)
ご存じない方のために、あえて説明申し上げますと……この黄金の矢、男と女にそれぞれ一本ずつ射かけてやりますと、矢の当たったものどうしは、たちまち熱烈なる恋に落ち、どうにもならなくなる……という、まことけっこうな品物なのでした。
(矢が当たってから最初に見たものに恋をする……というような風に調整することもできるようですが、基本的には二本セットで使うものであるようです。また、「黄金の矢lとはあべこべの作用をする「鉛の矢」というやつもあるのですが、このお話には関係ないので、とりあえずお忘れ下さい)
え? 何ですって?
そんなの「ずる」じゃないか、ですって?
しっ! そんなこと言ってはいけません。
アプロディテの呪いを受けて、一生涯、好きな相手からは相手にもされず、嫌で嫌でたまらない奴からはしつこくまとわりつかれる……というような、実に恐ろしい運命に陥る羽目になってしまいますよ。
「愛の女神」さまは、決して怒らせてはいけないのです。
まして、その愛を拒むだなどと!
さて、アプロディテは息子の元を訪ねると、おもむろに命じました。
「少しの間、その弓矢をわたくしにお貸しなさい」
エロスは戸惑い、そしてためらいました。
性愛の神さまだけに、母の意図がしっかりと酌み取れたからです。
「しかし母上……仮にも美と愛の女神ともあろう母上が……このような下世話な品の手助けなどを借りずとも……」
「おだまりっ!」
痛いところを突かれ、アプロディテはさっと柳眉を逆立てました。
「お前は、息子の分際で! 実の母の命に背こうというのですか!」
「い、いえっ! け、決してそのような!」
かくてエロスの諫言は、母親の権威の前に、もろくも一蹴されてしまいました。
「わかればよろしい」
……という次第にて、エロスの弓矢一式をせしめたアプロディテ、密かにアレスの先回りをして、じっと待ち伏せすると、隙を見ておもむろに「黄金の矢」を射かけたのでございました。
ぷすり!
と、見事に命中するのを確認した上で、もう一本の矢を自らの胸元に、えいやとばかりに突き立てます。
ぐさり!
これでは、いかな朴念仁のアレスも、ひとたまりもありません。
たちまち激しい恋の虜となり、もはやメロメロ。
アプロディテの館に入り浸りとなり、膠(にかわ)か漆(うるし)か、チーズかバターか、というありさまにて、日がな一日べたべた、べた……という体たらくにされてしまったのでございます。
してやったり! とにこにこ顔のアプロディテ。
あ、いや、めでたし、めでたし!
……の訳がありませんね。
これでは、ヘーパイストスの立つ瀬がありません。
生まれつきの小男で容姿不端麗、そしてゼウスのせいで跛足にされ……と、ただでさえ三重苦の状態だったところへ、更に追い討ちかけるがごとく「寝取られ男」という、まこと不名誉なる称号までもが追加されることになったのですから。
これでは泣き面に蜂、傷口に塩というやつです。
「うぬれ! この淫婦姦夫めら! そこへなおれ! 二つに重ねてたたっ斬り、ずったずたのナマスに刻んでくりょうわ!」
とばかりに怒り狂いまして、だだっと現場に乗り込もうといたしました。
しかし……何とも相手が悪い。
あろうことか、荒ぶる軍神のアレスが相手では、とても勝ち目などあるはずもございません。首尾良く淫婦姦夫を討ち果たし、「二つに重ねて四つにする」はおろか、あわれ返り討ちの憂き目に遭って、自分の方が八つ裂きにされてしまいかねません。
「ぐぬぬぬ! ぬう……うう……うぬれぇ……」
かくて、無念のほぞを噛みつつ、ヘーパイストスはいったん、その場からすごすごと引き下がることにしたのでした。
というところで、お話はまたまた、次回へと続きます……
Posted at 2007/02/16 11:08:12 | |
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