シワシワの笑顔
357 :ト書きmkⅡまだまだ :03/02/11 03:46 ID:UvcqY/y4
去年の7月後半に約10日間かけて走った北海道でのお話。
あいにく去年の北海道は7月後半から8月全般にかけて雨が多く、
オイラが上陸していた時期も何時も雨だった。
オイラの相棒はフロントスプリンガーのリア・リジッドと言う
偉いスパルタンな旧車ハーレー。
その旧車っぽい雰囲気を最大限醸し出すために、フロントは
ブッとい16インチのクラシカルなタイヤをフェンダー無しで履いている。
しかし、これがこの雨の多かった北の大地で地獄を見る要素となろうとは・・。
*まぁ、要は、全身ずぶ濡れ、下(路面からの巻上げ)からの泥雨顔面シャワー。
降りが小ぶりでも路面が濡れてりゃ一人土砂降り。
カッパなんて全く無意味。口の中がジャリジャリになりながらも、
独り平日の雨降りで寂しい十勝平野辺りのまっすぐ道をドコドコと走っていた。
時間も夜になろうかと言う時で、左右に鬱蒼と生い茂る森の中で対向車も
ほとんど見ることが出来ない。
孤独という都会じゃ感じ得ない恐怖と戦いでもあった。
その時、「あっ!・・・。ガソリンが・・」
そう、北海道の田舎部は夕方でGSが閉まってしまうことあれほど意識して
注意もしていたのに釧路までの道を急ごうとあわてていたのか忘れてしまっていた。
タンクの容量はたったの3ガロンしか入らない小ぶりのタンク。
それにもう2リットルと入っていない。
燃費は約15キロぐらいなのに目的地の釧路は遥か先。
それどころか地図を見ても街らしい街は、40キロ以上離れている。
健康ランドめぐりの道程だったためキャンプ道具なんて持っていないし、
第一、全く生命反応が感じられないこの十勝の森の中で一晩明かすのは・・・・・恐怖!
途方にくれながら走っているとおいらの相棒の調子がおかしい・・・。
それはキャブがSUのためにむき出しなので雨を吸ってエンジンの燃焼がおかしくなってきたのだ。
ガムテープで補強するも焼け石に水。もう虫の息でショベルヘッドが回っている。
「今日はこんな場所の木の陰で虫に刺されながら、動物に怯えながら夜を迎えるのかな・・・」
とすっかり落ち込みながら走っていると、とうとうエンジンがバスンッと・・・。
止まってしまった・・・。
何も考えられないオイラ。
グレーのなんの遮りの無い気持ち悪いぐらい広い空を見てボーとしていると、
そこへ、何十分かぶりの対向車。それは使い古された軽トラだった。
当然声をかけようと思ったものの都合が良すぎるのが嫌で勇気が出ず、通り過ぎるのを
見送って居るとちょっと先で止まるじゃありませんか!
軽トラの窓から出る顔。黒く日に焼けて皺だらけの小柄なおじさんのそれだった。
首にはタオルを巻き、頭には酪農家が被るような帽子。
ジッとこっちを見ている。ちなみにオイラ、けっしてハーレー乗りにありがちな
ワンパターンなスタイルの者ではないけど、普通に渋谷を歩いているような兄ちゃんな
ルックス。おじさんにとってあまり話しかけ易い相手ではないだろうに・・・。
おじさん「・・・・・どうしたん?」
オイラ「バイクがこの雨で・・・。それより、ガソリンが切れそうで
この先もう進めないかなって思って・・」
おじさん、軽トラから降りてきた。ほんとに小さくやせていた。
俺のバイクを見るや否や、「・・・・古いなぁ・・・。頑張ってるね」
苦笑いのオイラ。おじさん、目を合わせないで話して来る。
おじさん「・・・・・どこまで?」
オイラ「釧路まで・・」
おじさん「!?どれくらい有るか知ってるか?」
オイラ「えぇ、まぁ地図見て大体は・・・」
おじさん「ガソリンどれくらいあれば足りるん?」
オイラ「次の街のGSまで行ければいいんで5リットルぐらいあれば・・」
おじさん「行ってもこの時間やってねぇよ・・」
オイラ「・・・えぇ、そうみたいですね・・・」
おじさん、1分ぐらい沈黙した後、
「ガソリンやんべ。家、ココから5キロぐらい先だけど、付いて来れるか?」
うれしかった。
キックペダルを思いっきり蹴った。
ショベルヘッドが重いフライホイールをまわし始めた。
おじさんが始めて笑った顔を見せた。さらに皺だらけになっていた。
必死に軽トラの後を付いて行くともう、夜の暗闇。真っ暗な道を
オンボロの軽トラのテールランプだけを見ていた。
すると5分もすると到着。
そこは、酪農家の佇まいの家。
でも、ほんと、ボロかった・・。
牛舎には牛は居なく荒れ果てていて、おじさんが入っていった
母屋はこれで厳寒の北海道を越せるのか思えるぐらいの貧しく小さいものだった。
そして、他の家族の息吹は全く感じない。
どうやらおじさん一人で生活をしている様でもあった。
おじさん、家の中に入って暫くでてこない。
この家にガソリン有るのかと思案していると破ったカレンダーの裏の紙に
とある電話番号とやたらと簡略化された手書きの地図を記したものを持って出てきた。
ひらがなだらけの字である。
おじさん「この地図の通り行け。ココにGSがある。当然今の時間は締まっているけど
今から電話して開けてもらうから。ここにはガソリンいっぱい無いから、そこで給油した方がいいさな。」
そして、おじさんは俺に「手を出せ」とジェスチャーした。
手を出すとその上にひな祭りの時に食べるような甘い豆のお菓子の袋を乗せてくれた。
ビニール袋は開いていて明らかに食べかけのものだった。
おじさん「喰え」
うれしかった・・・。
正直、普段とても食べるようなお菓子じゃないししかも湿気たような喰い掛けのもの・・。
この重みを手に感じたときに急に目が潤んできた。恥ずかしいから必死で笑顔を作り続けた。
何とか涙が落ちることは無かったがおじさんも気付いたと思う。
何度も頭を下げて、ありがとうを言っておじさんの家の庭を出た。真っ暗な何もないところで
おじさんの笑顔だけがはっきりと見えた。
あの素朴なおじさんが一生懸命俺に手を振っている。
多分、少しはおじさんも寂しかったのもあったのだろうか。
たった30分ぐらいの交流だったけどお互いの心が通い合った気がした。
俺も後ろを振り返って手を振りながら走った。おじさんの姿が見えなくなるまで・・。
暫くすると前が全く見えない。
暗いからではなくて涙があふれ出て止まらなかった。
助けてもらった感謝の気持ちと、そしてあの貧しいながらも必死に素朴にあんなに
寂しいところで独り暮らしている人がこんなに優しくしてくれた・・・。
そう思うと涙を流さずにいられなかった・・。
このおじさんの紹介してくれたGSに着いて給油した。
俺のはハイオク指定車だけどこのGSにはレギュラーしかない。
それでもうれしくて当然何一つ文句の無い給油だった。
この後、釧路に向う。雨はさらに本降りとなり約100キロの道のりを
ずぶ濡れになりながら必死の思いで、前の車に付いていった。
途中、レギュラーガソリンのせいか、ノッキングがひどく
怖い思いまでしたけどこのときばかりは人の優しさが詰まったガソリンで
走らない俺の大事な相棒を叱咤した。
こんな人との暖かさに触れて北海道の旅を無事に終えることが出来た。
またいつか行く機会があったらあのおじさんの家に寄ってみようかな・・。
あの皺皺の笑顔が忘れられなくてね・・・・・・。
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今日の一台
ロータス51B、このままサーキット走行ができます
ロータスといえばこの動画がシビれるほどカッコいいです(*'-'*)
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海