5年ほど前バイクごと谷に落ちた
440 :774RR :02/11/01 03:29 ID:RQTiKIxY
5年ほど前のこと。
林道ツーリングを初めたばかりの私は、初心者のくせに
「いけいけどんどん」てな感じで、コースの難しさも考えず
ダート路を走り回っていた。
とある夏、私は仙台付近の山岳路へソロツーリングに出かけた。
それほどハードな道ではなかった。
この程度なら都内でもありそうだったし、もっとハードな山道を
いくつも越えたことがあった。
その道は、行き止まりだった。
仕方なく、引き返した下りカーブでのこと。
一瞬の油断と傲慢が、私とマシンを谷へ突き落とした。
「谷ィ落っこちてoffライダーは一人前」と言われる。
しかしそれは、落っこちてもちゃんと対策がとれてからの話。
初心者のくせにソロで出かけた私には、技術も経験も装備も
ない私には、なにもすることができなかった。
なんとか体と荷物だけは、林道まで引き上げることができた。
しかし愛馬は、もうどうしようもない。
悲しかった。このまま相棒を谷へおいたまま、東京へ帰るのかと
思うとつらかった。
しかも実にくだらないことに、ぼんやりしているうちに腹だけは減った。
今考えても本当に自分は馬鹿かと思う。
コッフェルを出し、飯を炊き、馬鹿みたいに食っていた。
ぼんやりとへたり込んでいてから、半日ほどが過ぎた頃。
日は陰り始めていた。
全く交通のない林道に、どういう訳かユニック(クレーンを装備した
トラック)がやってきた。
私は両手をぶんぶん振って、道をふさぎ、
「止まれー、止まって、ください!」
と叫んでいた。
それは、いずれこの道を改良することになっていた、土木会社の車だった。
本格的な工事を始める前に、調査のため訪れたという。
ドライバーと助手に話すと、「ああ、いいよ」と簡単に引き上げを請け合ってくれた。
クレーンの先のカギを握って、私は谷に降り、愛馬にそれを固定しようとした。
しかし、中年のドライバーは、若い(あんちゃんと言っていい歳の)助手に、
「おまえ、固定やれ。」と言った。
あんちゃん(感謝を込めてあえてこう言わせていただきます)は、「シロートには無理」と
言いながら、絶妙のバランスをとるように、我が愛馬にロープを巻き付け、クレーンの
カギにセットした。
あっという間にセローは引き上げられた。
「どうか、お名前と会社名を。改めてご挨拶とお礼に伺いたいのです」と
何度も言う私。
不機嫌ともとれる顔をしたまま、どうしてもそれを何度も固辞する二人。
「東北人はわかりにくい」といわれるが、そんなことはない。
彼らはただ、奥ゆかしいだけなのだ。
「気をつけて」とだけ言い残し、彼らは去っていった。
マシンには何ら故障もなく、私にも何らケガもなかった。
だが、意気消沈した私は、その足で家へ帰るべく、東北道に乗った。
数時間後、一人暮らしの、家へ帰った。
そこで、もっと驚くべきことがあった。
留守電のランプが点滅していた。
メッセージを再生した。
それは、上京してから、私を実の息子のようにかわいがってくれた、
さるバイク乗りが、病でなくなったとの、奥さんからの知らせだった。
本当にかわいがってくれた人だった。
右も左もわからない、ガキでおのぼりさんの私に、バイクを始めいろいろなこと、
男として、大人としてしなくてはいけないことを教えてくれた、真の江戸っ子だった。
尊敬できるおじさん、先輩、そしてとても及ばない、ライダーだった。
丁度、私が谷に落っこちる直前、亡くなったという。
私は、何の宗教も信じていない。
今でも。
しかしこのことばかりは、例外。
「俺、今度あの世に行ン。葬儀、来てくんねェ。
シま(ひま)ねェかも知れねぇけど。頼むよ。
ついでに、ユニック呼ンどいたン。」
…ということだったと思う。
谷に落っこちていなかったら、私は恩人の葬儀にでられなかった。
落っこちたままだったら、私は恩人の葬儀にでられなかった。
仙台の親方、あんちゃん、本当にありがとうございます。
何度お願いしても、がんとして会社や名前をお教えくださらなかった、心優しきお二人。
今ここで、場所を変えてお礼言うことしかできません。
田舎からでてきた若造を、かわいがり、バイクを教えてくれたおじさん。
教えてくださったこと、数々のご愛顧、
本当にありがとうございます。
最後に、馬鹿な私を助けてくださって、本当にありがとうございました。
どうか、安らかに息うてください。
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海