真冬の日曜日、よく晴れた昼下がり。
友人のガレージにてとりとめない車の話をしていた。
彼のガレージにはF40を始め、手入れの行き届いた一級品のスーパーカーが整然と並んでいる。
あれやこれや書きたくてうずうずするような天上界びっくり車両も。
……とこれ以上は彼の個人情報に関わるし、ガレージの讃辞で話は終わってしまうだろう。
大切な友人に迷惑がかかってはいけない。この物語のつかみはこれぐらいにして。
「コルさんは何を夢の車と定めますか?」
の質問に、
F40は最高だけど、実際問題高価過ぎて手が出ませんね。
ディーノも好きですけど、良いものは見つけられませんし。
私の場合は吊るしのフェラーリで満足するしかありませんねー。
……ってな話をしたと思う。
それから数日して、古いカーグラフィックをパラパラめくり、「ディーノ246ほど、ワインディングロードを速く安全に飛ばせる車はいない。操縦性、ロードホールディングは文句なく絶品で、しかも視界がサルーン並みによいからだ。ドライビングの楽しさではディーノは73カレラRSに勝るかもしれぬ」と今は亡き小林彰太郎先生の記事を拝見し、ふつふつと何かが込み上げ病気再燃、カーセンサーで検索した。
おおっ!と思い、店に連絡して車を見に行った。
その店は朝練で知り合ったみん友さんが実際に車を買っているし、新車からネオクラシックまで扱うスーパーカーに特化した中古屋だ。シュッとした兄ちゃんが対応し、車の良い所を巧みに述べる。
質問には「古いイタリア車はこんなものです。」とのらりくらり、値段は4000人の諭吉から。
交渉次第ではもう少し安くなりそうだが、車を見て写真を撮り、前途の友人に写真と見積もりを送った。
彼からの返事はこうだった。
「コルさん、ディーノは安いと思っていませんか? ネットで販売しているものは将来転売ほぼ不可能なもので3800から4500、ティーポEとMで将来レストア費用が1000程かかる車両で5000、ミントは6000中盤から7000。初期型ティーポLや206のフルオリジナル、ノンレストアだと青空天井……。先ほど送っていただいた車両はシートベルトの位置がリアバルク壁側から出ています。つまりシートベルトの位置を変えなければならない程の、何かが起こった車両と考えられます。」
……言葉がなかった。
自分は平和なツラしてネギをしこたま背負った
「カモ」そのものであった。
以来、古い車に手を出すのはやめよう。
よくわからん世界に憧れだけで手を出し、有事のトラブルシューティング力もなければネットワークもない。
これは本当に怖い世界だ。
縦目のベンツSLであれほど散財したのに何も学んでいなかった。
そうだった…………。
ディーノは骨董品。
骨董品がスーパー(普通の中古屋さん)に売ってるわけがないのである。
それならと488のマフラーを交換し、チャラチャラ走ることを決断。
またチャレストもコーンズに再度入庫させ、オリジナルに沿って手をつけにくいダッシュボードなど、大物のリフレッシュに取り掛かった。
そんなある日、彼のネットワーク経由で連絡をいただいた。
そのディーノは黄色が眩しいほどの車であった。
しかし当時は何かと入り用で散財しており、お金を工面する自信もなく、ボディは少しレストアが必要になってくる可能性がある、その場合の金額も正直に伝えられたため、あろうことかビビってしまいお断りした。
それからしばらくはその黄色の事が頭から離れず、神様に相談し「もう最後よ!」の返答を得て。彼に連絡した。
「あの後、黄色は某コレクターのガレージに収まりました。しかしすでに1000以上のせて転売されました。悲しい限りです。」
またまた言葉がなかった。
なるほど、これまでベンツやBMWから始まって、ポルシェやフェラーリを何台か購入し、車のことをまあまあ知ったかぶって生きてきた。
それなりの繋がりもでき、中古だって良いものを引いてきたつもりだったが、新車から45年も経った骨董品にはそれなりのネットワークが必要みたいだ。
車の師匠でもある彼に今度は本気で待ちますと連絡した。
しばらくして4台のディーノにつき連絡をいただいた。
1台目はクラシケ取得済み個体のディーノティーポE、書けないけど有名人所有で触れ込みはすごく良い一台。
2台目はフルレストア済みのティーポE、フェラーリジャパンのイベントにも展示された車両。モロコシ名古屋に展示していた黄色をしのぐコンディション。ただし値段もそれなり。
3台目はビシッとした車両だが、お話を聞きに行く時には売れてしまっていた。バイヤーがレストア系なので、巡り巡って正規代理店が売る6000オーバーはこんな車両が化けて生まれてくると。
4台目は中期モデル。スカリエッティにて小型のプレス機と職人が生み出した希少な500台のうち一台。現存250台以下、日本ではラ・フェラーリより少ないと触れ込み。この時点であかんやろな。
当初、いつかチャレストもクラシケを取得したい!と思っていたので、クラシケ取得済み車両をまずお願いした。
だってクラシケってばフェラーリお墨付きで箔がつくし、
何より見栄もハレルわい(ↀДↀ)✧
「コルさん、クラシケビジネスを甘く見ないでください。」
また彼の言葉だ。
ディーノに限らず近年転売目的でクラシケを取得されたちょっと古いフェラーリの多くが、あまり手をかけられずに放置されダメージを受けていると。
例えばディーノの鉄板であるアンサのマフラーすら付いていないのにクラシケ取得車両がある。
ここがこのビジネスの肝。
クラシケの分厚い認定本には多くの注釈がつく。
レ点でチェックされた英語とイタリア語表記。
読めばすぐにわかる。
ここがダメ、車体の強度が云々、ここにクラックが入り、ここはどういったレストアがされてオリジナルと違う等々。
つまりアラを探して未来永劫フェラーリ本社に情報が残るわけで、転売にはクラシケが余計な足かせになる車両も見受けられると。
そのうち空冷ポルシェとかもやるのでないかな?
怖い世の中ですな(TдT)
ちなみに一台クラシケのレ点部分をくまなく読んだが、全くもって「そんな殺生な!」である。
ものすごくお金を払って、自分の車の欠点を製本にして綺麗なクラシケバッジを付けて喜ぶ。
………よくわからなくなってきた。
クラシケバッジを餌に現存する自社の個体に対する精査、それをオーナーのお金でやってしまうスクーデリア・フェラーリの恐ろしさよ。
チャレストのクラシケ取得はやめておこうと思う。
ユーロッパにおける近年のコンクールやオークションでは、クラシケ車両よりも、センス良くレストアされた個体に評価が高いケースが多くなった。
なるほど。
オリジナルにコダワリすぎると、ディーノは45年前のフィアットに華麗なボディをのせた車だから、走ると壊れるし、ガソリンが漏れ怖い思いする。かといってヘンテコなモディファイやレストアがなされると走ってダメ、見てダメ、将来お金がかかってダメ、マニアに見られてダメな四重苦である。
考えれば考えるほど、もうやんぴーである。
ましてやクラシケビジネスの罠もぽっかりと口を開けて待っている………。
無理無理。やってられん。
ディーノの程度については、頂上級の良いものを何人かのスーパーコレクターに見せてもらった時期だったので、それからは何となくディーノを扱う中古屋どの車両を見てもオーラが全然違うし、かわいそうになるのも沢山あった。
ってか、ネット経由で見に行った車両は
どれもこれもなかなかの詐欺まがいの代物だった。
あちこち出かけていると勉強の嫌いな自分でさえ、いろいろ教えていただいた上で、ちょっとだけこだわって見ている点は以下。
ボディは時期によっての生産工程がピニンファリーナによる大型プレス機導入前と後で全然違うのがディーノの特徴である。職人がただ叩き出した206の神がかったボディ、246の初期のLとMのようなスカリエッティの小型プレス機と職人のハンドメイドの両方を駆使して作られたボディ、それがオリジナルでビシッと残っている車両が表に出ることはまずない。
もちろん大型プレス機導入後に2800台以上作られたtipo Eであっても、歴代オーナーの愛情たっぷりな車両は素晴らしい。
こねくり回された車両でも………、例えばアライ板金流の美しいフォルムでレストアがなされていれば、なんの問題もないわけだが。
ディーノはサイドのインテークラインやフェンダーからのサイドラインが美しさの肝と思っているので、そこは譲れない。
エンジンフードのルーバーにはこれまで見てきた沢山の個体でクラックが見受けられた。構造上クラックが入りやすい、その辺りのコンディションはどうか。
エンジンフードに熱膨張による剥離はないか。
ガラス類はフロントに関わらず、そのほとんどがリプロに変えられているが奇跡はあるか。
特に三角窓はクラックが入り、急に落ちるので大体はリプロに替えられている。
フランス製はその国製の車がそうであるように窓のふちに付くプラスチックの加工が苦手なようだ。
よってリプロはドイツ製はものがいいと聞く。
ヘッドライトはキャレロのレンズでメイドインイタリーのオリジナルか。
下の画像みたいにライトの周りに付いているはずの輪っかがないままの車両(白矢印)、この車両は目の内側のラインもおかしいよね(赤矢印)。
………こんなお目目のディーノは遠慮したい。
インジケーターもオリジナルか。
工具はあるか。
アンサマフラーはちゃんと純正品がついているか。
ミラー類はオリジナルか。
クロモドーラのホイルはあるか?
リプロでないオリジナルは奇跡的。
50年近く前のアロイホイル。そうないわな…。
オリジナルにはリムにDinoのロゴがある。
あとセンターキャップは黄色地にブルーの文字でDinoのロゴ。
リプロはみんな黒。
フロント開けて電装部品の対策とスペアタイヤの有無、それとスペアを止める純正のセンターロックがあるか。
リアトランクはひっぺがして
ボトムファイバーの定番のカビの具合。
これは健康面でも譲れませんわね。
内装に移ってダッシュボードは80年代に流行したバックスキンでなく、縦しぼりが入ったオリジナルに準じたものか。
Momoのステアリングは細身のダブルステッチか。
天井は穴の空いた柔らかい風合いのオリジナルに準じた物であるか。
フードのリリースレバーやフェンダーオープナーが折れていないか、よく変えられているのでそのあたりは気になるところ。
……以上、金はないのに多くを語るわけである。
ディーノのオーナーさん達がこのブログを読まれたら、すごい勢いでお叱りを受けそうだが、ちょっと知識をつけた浅い人間はひけらかしたくなるものです。ごめんちゃい。
なんだかんだウンチク垂れても、自分の所にきた車が最高なんですけどね( ・᷄-・᷅ )
まさにどこにでもいる、私は口ばっかな変な奴である。
頭でっかちになればなるほど、理想と現実にギャップが生まれ金銭感覚も危なく狂い始めるのであった。
そんなある日、4台目に紹介していただいたオーナーさんが手放す意思があると連絡あり。
フェラーリ史上にあって、初めてのカジュアルな車であるディーノを片意地はらず楽しんでくれる方にお譲りしたい。とのことであった。
待て待て待て待て待て待て!!!!!
4台目って、希少なSeries 2(ティーポMね。)、職人ハンマーとスカリエッティ物ではないかい?
まあ無理やろ、値段が……
切れ痔になるわ⋆⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝
ここはと前出のお師匠様に試乗と鑑定をお願いした。
結果は
「最高です!」
しかもその後にこちらの予算内でなんとか譲っていただけそうと連絡をいただいた。
まさに自分の力ではなく、虎の威を借る狐。
私の見た目や押しの弱さでは到底無理なお話を
交渉開始からほんの数日でまとめてくださった。
人間、持つべきものは信頼できる人脈であるとつくづく思いました。
初対面の際にあまり良い印象でない人間とは、それでも仲良くなろうと努力はしてみるが、その人間がこちらに対する態度を改めない限り、いくら周りにいい人達がいてもどうにも疎遠になるわけです。
少数精鋭、大事な仲間はこれでよろしいわね。
車の購入は時として人間の本質をつき、大切なことを思い出させてくれるのである。
購入の意思を伝えてふと気がついた。
あっ、お金。どうしよ?
そうだそうだ…………
購入しようと思い立ったが、あまりにもの敷居の高さから
そんな虫のいい話はないだろうねえ。
気にいる車両なんて出ないでしょ?
まあ吊るしのフェラーリでも十分楽しくね?
チャレストもいい感じでクラシックになってきたし。
ツーリングは488でエアコン、オーディオ、ナビ万全で安心安全……
屋根なんて走りながら開けられちゃう!
と自分に言い聞かせてきた頃だった。
まぢかぁ!? ( *¯ 罒¯*)……である。
無い袖は振れない。さてお金の工面をどうしましょう?
まず488を売却しなければ話にならない、
こないだ変えたマフラー代金を振り込んだばかりなのに……。
すったもんだの挙句、
モロコシ屋さんに電話して引き取ってもらうことにした。
そのうち神さんにポルトフィーノでも買うから高くとって!って懇願してね。
約束したから働くぞ!
そんなこんなで頭金揃え、
残金はローンを受け付けてくれる所におでこを擦り付けてお願いした。
それから数ヶ月後のまだ寒い夜半にやってきた。
ではうちのガレージに収まったスーパー可愛い子ちゃんを紹介しよう。

全くデレデレである。ニヤニヤが止まらなく、その日はこのシートで毛布にくるまって本当に寝た。

大切なみん友さんからディーノみたいな物買ったらあかん、
フィアットやぞ!と散々忠告されたけど、自分はこれでアガリ。
ディーノは以前ボロボロだと300万程度で売っていた時期もあり、
確かに「あんなもん」と蔑む人もいますね。
ディーノってもともと日本で言うところのユーノスロードスター(つまり初代ね)の心意気で作った車なので、
当時のオーナーさんやそれこそ世界中のチューニング屋が自己流のいろんなモディファイをし、
気軽にこの可愛いスポーツカーを楽しんできたわけです。
そんなカジュアルな成り立ちだったので、
一定期間が過ぎるとボロボロでいい加減なレストアされた車両だらけになり、
当然値段も落ちるわけですね。
ディーノが300程度で売られていた時代でも、しっかりした車両はポルシェの新車ぐらいはしましたけどねえ。
まあ高い安いなんて、どうでもいいことなんだけどね。
他のディーノオーナーさんのみんカラブログへのコメントにわざわざ
「昔は安かった」とわざわざ書き込んでいる人を見ると、
いったいこいつは何がしたいのだろう???と思ってしまいます。
うちの子のお目目、ちゃんと二重の輪っかがついてるでしょ?でもってさっきの黄色と目から鼻にかけてのラインが全然違うのわかりますかね?

そんなこんなで、もう次に買いたい車はもうないと思われます!
雨天未使用と前のオーナーさんから聞いている。とても大事にされてきたみたい。
生産当時の織物でできたウインドストリップまで残っている状態を見ると納得できる。

待てよ、アガリと言ったけど、チャオイタとか比叡山みたいな遠くに行けるのだろうか?
牽引フックつけといてケンちゃんか親分に引っ張ってもらおうかな。
いっそ、これ載せる積車買おうかなあ〜。
誰かプレゼントしてくれへんやろか。
いやマジで( ・᷄-・᷅ )
おしまい。

しょぼいKEY↓
