私にはちっぽけな目標があった。
自分のお金で、現金で、一番夢であった車を買うこと。
それが、これ、スバルのWRXという。
しかし、生来の出来の悪さか、中々お金は溜まらず、400万を超える金額の買い物が出来なかった。
そんな折、会社の後輩(年も入社も)がこの車を買ったと聞いた。
どうやら裕福な家庭のようで、その金額を「意外と安くて買いやすい」といっていたのが印象的であった。
そのときはよし、自分も頑張ってお金を貯めよう!としか思っていなかった。
それから、色々あってお金はたまらないまま時は過ぎ、乗っている車もガタが目立ち始めた。
そろそろ、と思っても。やはりそれを買うお金はなかった。
当時入れ込んでいた相手にお金を使いすぎたのもあった。
結局はただの「道具」としてしか扱われていなかったが。
むしろ目標の半分強ぐらいか。
夢は、叶わないこともある。
私は他の車を買うことに決めた。
この車はこの車で乗り出してすぐに気に入った。
十分な性能、見た目、経済性。
そう、これで満足できると思っていた。
しばらくすると対抗馬の86と言う車が発売され、この車は比較されて嘲笑の対象になったりもしたが、別段気にしなかった。
また時は流れ。
今日、WRXを買った彼がその車を売ったという話を聞いた。
6000kmも乗っていなかったらしい。
効いたのは彼の口からではなかったが、何故か私の胸の奥は痛くなった。
その場は「そうなんですか、勿体無いですね。」なんて社交辞令を言いながら。
答えは簡単だ。
そう、この感情は嫉妬と、劣等感だ。
方や私の夢である車を気軽に買い、スポーツも出来、結婚したからもういらない(と思われる)と売り払える彼。
方や夢に手が届かず、年上でありながら結婚もできず、趣味も別段出来ず、経済的事情の苦しい私。
それは、WRXとCR-Zのよう。
どちらも方向性が違うだけでいい車なのは間違いない。
しかし、わかりやすい記号性に囚われ、そうでないものは評価できない人は沢山いる。
世間的にどちらが嘲笑されるかは言わずもがなであろう。
私の胸は、苦しかった。
そんな思いを払拭するべく、久しぶりに車に乗った。
車は相変わらず従順で、私の手足となって駆けてくれる。
しかし、私の心は晴れなかった。
冷めてしまったのかもしれない。
この車に。
いいや、そんなことを気にするちっぽけな自分自身に。
車はいつだって正直だ。
なのに私は正直ではいられない。
誤解のないよう言っておくが、私はその彼と話をするのは好きだ。
手の届かない車や、結婚や、子育て、スポーツ。
私の知らない世界の話をしてくれる。私では決して辿り着けない世界の話をしてくれる。
それでも。
私の心は晴れないのだ。
何かと比較され、嘲笑の烙印を押される。
自分は満足しているが、周囲は価値観と競争原理を押し付ける。
そんな過去の思い出がと現実がフラッシュバックし、ダメなのだ。
いったいどうしたらこの感情が消え去るのかは知らない。
しかし現実として格差はあり、私が叶えられないものを彼は多く持っている。
そんな世の中がまた少し嫌になった、今日という日を越える術を、私は知らない。
Posted at 2014/08/07 22:22:34 | |
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