昨日は、ももいろクローバーZ主演の映画「幕が上がる」の公開日だった。しばらく前に先行上映で見てはいたが、スクリーンが小さかったのに最後列の席だったので、もっとしっかりと見たいと思っていた。ちょうどこの日は午後に大阪で用事(後述)があったので、名古屋から大阪の間のどこかで午前中に見ることにして、上映している映画館を探した。いくつか候補はあったが、なるべく空いていそうなところを狙って奈良県のTOHOシネマズ橿原を選び、朝ヴィヴィオで刈谷を出発し、名阪国道を西に向かって走った。
9時半頃にイオンモール橿原にある映画館に着き、10時過ぎにスクリーン1で席に着き、10時20分に上映が始まったが、約400人のキャパに対して、お客さんは何と30人くらいしかいなかった。
今回は特大のスクリーンでいちばんいい席だったので、表情までじっくり見ることが出来たが、スクリーンに映るももクロの5人は、普段ステージ上で見せる、「キラキラでギラギラな((c)只野菜摘氏)」姿とは似ても似つかず、普通の高校生になり切っているように見えた。そして、その普通の高校生がエネルギーを注ぐ対象を見つけ、迷いながら仲間といっしょに努力を重ねていくところは、本当に眩しく、羨ましささえも覚えた。この年頃に何かに没頭した人もそうでない人も、必ず伝わってくるものがあるはずで、主演がももクロということに関係なく、とにかくたくさんの人に見てほしいと思った。
出来ることなら高校生の頃の自分にこの映画を見せてやりたかった、とも思ったが、そんなことを言っても始まらないので、主題歌「青春賦」のサビの歌詞「思い出が勇気に変わる ひとり決めた夢を固く握って けしてたどりつけないはるか遠く それでもただひと筋に 僕たちは歩いてゆこう」を心に留めておくことにしよう。こうして書いてみると何とも青臭いが、こういう気持ちはいくつになっても持ち続けたい、と思った。
12時半に映画が終わった後、堺市のHモータースで、車検と整備が完了したばかりのポルシェに乗り換え、大阪・北区のザ・シンフォニーホールを目指した。前述の午後の用事というのは、3時からここで開催される「ザ・シンフォニー特選コンサート Vol.21 小林研一郎 炎のチャイコフスキー!」を聴くことだった。堺の手前での用事に予想外に時間がかかり、近くの時間貸し駐車場にポルシェを置いて、走って会場入りしたのは開演3分前で、本当に危ないところだった。
呼吸を整える間もなく始まった、1曲目のチャイコフスキーのバイオリン協奏曲で真っ先に気づいたのは、指揮者のコバケンこと小林研一郎氏が、楽譜無しで指揮していることだった。こんな長い曲の楽譜を完璧に暗記しているとは、只者ではない!と思い、氏の一挙手一投足に注目し、大阪フィルの演奏に聴き入っていた。コバケン氏はメロディーを存分に歌わせ、ソリストの佐藤久成氏も大阪フィルも、すばらしいテクニックでそれに応えていたのと、弦楽器の優しい響きが印象的で、聞きなれたメロディーが本当に生き生きとして聴こえた。
休憩をはさんで次に演奏されたのは、やはりチャイコフスキーの交響曲第5番で、この曲は、20年以上前から、辛い時や自分がイヤになった時に心を立て直すために聴いてきていて、クラシックのあらゆる曲の中で最も好きでもあり、今回のコンサートのお目当てでもあった。
このチャイ5、以前に、ユーリ・シモノフ指揮、ノーヴァヤ・ロシア交響楽団の演奏を聴いた時は、生の迫力には大いに感銘を受けたものの、全体としては「指揮者もオケも若くて元気があるね」という印象にとどまっていたこともあり、油断していたのがいけなかった。コバケン氏の「炎のチャイコフスキー!」の看板は伊達ではなかった。第1楽章の最初の、重くて暗い「運命の主題」が奏でられたときから、「曲の解釈に共感を覚える」とかのレベルでなく、まるで、チャイコフスキー本人が降臨しているかのような錯覚を覚え、心に真っ直ぐ届くような感覚があり、同時に、今思い出しても正体が分からない、言葉にならない思いが押し寄せてきて、涙が最後まで止まらなかった。こんな経験は初めてのことだった。
本当に、終わるのが怖くなるような濃密な時間だった。第4楽章の終盤の、全休止から主題を力強く演奏する箇所では、チャイコフスキーが「生きていれば、いつか必ずいいことがあるさ」と語りかけてくれたような気がした。この日、これを聴きに来て本当によかった。
チャイ5はすごくたくさんの録音があり、名演ということなら、他にもかなりの数があるのは間違いないだろう。手元にあるCDでも、ウィーン・フィルを限界ギリギリまで追い込んでいるゲルギエフの指揮は胸が熱くなるし、ジョージ・セルとクリーブランド管弦楽団の、どれだけ鍛えたらこんなに迫力がある音でアンサンブルが揃うのか、というような演奏も、鳥肌ものである。スヴェトラーノフとソビエト国立交響楽団の、こいつら本当に人間か、と思うようなもの凄いパワーも、カタルシスをもたらしてくれる。それでもこの日は、チャイコフスキーがこの曲に込めた思いに最も近づきたければ、コバケン氏に限る、と思った。終演後にロビーでCDを売っていて、大阪フィルの盤はなかったが、チェコ・フィルの盤があったので、買い求めた。目の前が霞むと危険なので運転中には聴けないが、心の支えとなる宝物になったのは間違いない。

この日午前中に見た「幕が上がる」、午後に聴いた「チャイ5」、いずれも、大げさでなく、生きていくエネルギーを与えてくれたように思う。辛いことばかりの現実からはどうやっても逃れられないが、「生きていさえすれば、必ず何とかなる」と思えているし、映画からは「今、この場所で全力を尽くせ」というメッセージをもらったように思う。映画「幕が上がる」の制作に携わった全ての方々、コバケンさん、大阪フィルの皆さんには、感謝してもし切れません。本当にありがとうございました!
Posted at 2015/03/01 22:22:22 | |
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MCZ | 日記