
先週から今週にかけて、イタリアの南チロル地方へ出張していた。初めての場所なので行き方をいろいろと検討したものの、公共交通機関を使う限りは、どうやっても名古屋を出発した同じ日に目的地に到着することはできず、どこかで一泊する必要があるのが分かった。それなら、ということでミュンヘンを経由地にして、空いた時間でBMW博物館を見学してきた。
BMWは2輪も4輪も手掛けていて、私は両方興味があるところに加えて、今年は創業100周年の年で、記念の特別展示を行っていた。このため、あまりにも見どころが多く、気が済むまで見ていたら、危うく座席を予約していた電車の時間に遅れるところだった。そんな中で、解説に書いてあったことや自分が気づいたことで、特に印象に残っていた点を書き留めておくことにする。
テレスコピックフォーク
BMWのバイクといえば、私の持っているR850Rも含めて、フロントサスはテレレバー式というイメージがあるが、今や世界的に標準となっているテレスコピックフォークは、BMWが世界で初めて採用したものであるとのこと。これは正直言って知らなんだ。
軽量化
レース用のバイクでの話ではあるが、1930年代には既に、楕円断面のテーパーパイプをイナートガス溶接で接合したフレームを使っていたとのこと。他社では、適当に設計して適当に造ったフレームに軽め穴を開けまくっていたはずの時代で、根本的に考え方が違っていたんだろう。また、ホイールリムは航空機用のアルミ合金(AlCuMg4)で、一般的なスチール製と比べて1.2kgも軽量だそうだ。さらに驚くべきは、ニップルも真鍮製でなくてアルミ合金の鍛造品!1輪で100gも減らないものの、回転体なのでこだわった部分であるとのこと。こういった軽量化への熱意は本当にすごい。




これは4輪も同じで、ルマンやミッレミリアに出ていた328ツーリングクーペは、はしご型フレームのサ
イドメンバーが、中央部では高さが大きく、後部では小さくされており、バイクと同様、必要な部分に必要な強度を持たすという考え方で設計されている。これに加えてアルミボディーを採用しているのだからさらにすごい。実際、6気筒2リッターで136PS、車重は760kgで最高速は220km/hというのは、75年以上も前の車のスペックには到底見えない。

BMW801
航空機用の空冷二重星形14気筒エンジンであるが、その機能美というか作り込みのすごさに圧倒された。特に、空冷の冷却フィンがものすごく細かく、こんな物を一体どうやって鋳造したんだろうと不思議でならなかった。ただ、フィンの間隔が厚さと同じくらいしかなく、却って熱気が抜けにくいのでは、という気もする。どなたか伝熱工学に詳しい方がいらっしゃったら、フィンの間隔と放熱効果の関係についてご教示いただければありがたいです。あと、タペットカバーを固定するボルトにワイヤーロックが掛けてあるが、こういった細部まで芸術的ともいえる仕上がりに目が釘付けだった。

強制労働
第2次世界大戦で需要が増加した航空機エンジンを製造するのに、最初は2輪部門や4輪部門から人を集めていたが、後に、ポーランド人やロシア人の捕虜を徴用して働かせており、1944年には社員の半分を占めるまで増えたのこと。自ら認めているとおり、100年の中でいちばんの黒歴史であるのは間違いないだろう。

アルミ鍋
軍需産業であったBMWの工場は敗戦までに壊滅的な被害を受け、ほとんどの設備がだめになったが、かろうじて無事だった鋳造設備と、エンジン用に手配していたアルミニウム材を使って、台所用の鍋や調理器具、ドアの取っ手や窓の金具を作っていたとのこと。日本でも同じような状況があったが、BMWまでもというのは知らなかった。同じ敗戦国ならではの話だと納得した。
週休3日制
何と、1988年には一部の工場で週4日労働制を導入したとのこと。シフトは3組2交替制で、おまけ
に午前5時から午後2時までの早出と午後2時から午後12時までの遅出なので、12時間ずれている場合と比べて、切り替えも各段に楽だろう。ここまで恵まれているケースは世界的に見てもそんなに無いのでは?
エルゴノミクス
エルゴノミクス(人間工学)的な作業環境の取り組みも熱心に行われているのが分かる。年代は分からないが、車両組立ラインでは、車体の高さが変えられるリフターや、豚の丸焼きを作る器具のような車体を回転させる治具が使われていて、しゃがんだり、上を向いたりの状態で作業をしないで済むようになっている。インパネを組み立てている人に至っては椅子に座って作業している。この分野では、椅子に座ったまま車内に乗り込める治具を使っているなど、トヨタの取り組みが有名であるが、BMWもかなり頑張っていると見た。

3シリーズ
BMWの4輪の主力は今も昔も3シリーズだと思うが、前身のマルニイからE90までずらっと並べていて圧巻だった。どのモデルを見ても本当にスタイリッシュにまとめてあり、素晴らしい。あと、マルニイとE90はもちろん似ても似つかないが、1個前のモデル同士を比べると、やっぱりよく似ている。さらに、セダンとクーペでは、リアクオーターウィンドウのラインを後端で持ち上げる処理がずっと受け継がれており、これより前のノイエクラッセから最新のF30まで続いているから、50年以上も変わっていない。キドニーグリルともども、大したものだと思う。

モデル名
1桁目にシリーズ名、後の2桁でエンジン排気量という今のモデル名の付け方は1970年代の5シリーズ(E12)から始まっていて、それ以来の歴代の各車のオーナメントをらせん状に並べていた。ところで、もし将来、電気自動車が主力になったら、どんな表記にするのだろうか?
Dixi
BMWが最初に造った4輪が、生産工場ともども引き継いだオースティンセブンのライセンス生産だったというのは初めて知った。しかし、そこから10年もたたないうちに、328のような素晴らしい車を開発したのだから、本当に大したものだと思った。


イセッタ
BMWイセッタはイタリアのイソ・イセッタのライセンス生産である、というのは有名な話であるが、イ
ソは2ストロークエンジンだったのを、自社のバイク用の4ストローク単気筒エンジンに積み替えた、
いうのは初めて知った。


BMW600
イセッタは日本でも人気があるし、車のイベントで何回も見たことがあるが、600の実物を見たのは初めてだった。余談ながら、去年の東京モーターショーに、D-FACEという、車の前面のドアから乗り降りする超小型モビリティが出展されていて、イセッタに似ているとあちこちで書かれていたが、イセッタは後輪が奥まった位置にあるので、私はむしろ600の方が近いという印象を持った。

クーペとカブリオレ
時代を問わず、BMWのクーペやカブリオレなどのスポーツタイプの恰好よさは突出していると思う。







ただ、乗っている人には申し訳ないが、8シリーズだけ、どうにも微妙な気がした。
ここまで書いてきて、BMWが、なぜこんなに車好きから熱烈な支持を集めているのかがようやく分かったような気がした。それは、ある意味当たり前かもしれないが、昔から、高度な技術に支えられた高度な機能と恰好の良さの両方を一貫して追求しているからではなかろうか。
恰好だけで見かけ倒しなら100年も続くわけがないし、また、中身が良くても恰好がダサければ、試乗するとか以前に、関心すら持ってもらえないだろう。まあ、私も含めた大多数の人類は、想像力よりも視覚の方が発達しているだろうし、人間だって、イケメンや美女がもてはやされるのだから、当たり前といえば当たり前か。
それでも、美女の基準は時代によって変わるともいうし、車でも、最新のi3なんかは、今までの価値観からすると、それほど恰好いいようには見えない。たとえ、低くて長くて広いからほど遠いプロポーションという制約から逃れられないとしても、もっと別な形も可能だったはずと思う。だとすると、BMWの人たちは、恰好よさの基準までも書き換えようとしているのだろうか?かくなる上は、一体どんな未来が待っているのか、できるだけ先まで見届けてみたい。というのが、BMW博物館を見学しての感想の結論である。
Posted at 2016/07/01 20:31:23 | |
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