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おちゃわん星人のブログ一覧

2013年11月22日 イイね!

居場所

真夜中。
手のひらの上で、安っぽいアパートの鍵を弄びながら、彼は玄関の前に立っていた。昨日もその前の日も同じようにそこに立ち、結局ドアを開けずに立ち去っていた。

今日こそはこのドアを開けよう。
そう決めているのに、そのドアは彼にはひどく重く感じられた。

************************

1年前の冬、二人は出逢った。

彼女はコロコロとよく笑った。
彼の話すどんな話も、楽しそうに笑って聞いてくれた。彼女のいる毎日に彼は自分の存在価値を見出した。何気無い日常が温かな光に満ち、輝いて見えた。
二人が小さなアパートで一緒に暮らし始めるのにさほど時間はかからなかった。


いくつかの季節を越え、恋の始まりのキラキラした時期は過ぎ去った。多くの恋人同士がそうであるように、少しづつ二人で過ごす時間が少なくなっていった。

彼は新しい人間関係や趣味を持つようになった。彼にとって重要だったはずの彼女との時間は、それらに取って代わられた。仕事も決して楽とは言えず、疲れて帰る日も少なくなかった。

ゆっくりと話をすることは、毎日から二日に一回、週に一回となり、月に一回にまで減っていった。

それでも時々思い出したように彼が話し出せば、彼女は出逢った頃と同じように笑ってくれた。
「忙しいんだもん、仕方ないよ。あなたが話したい時に話してくれればいいのよ。」
彼女の笑顔に、彼は愛おしさと罪悪感を感じた。


彼の生活はいよいよ多忙を極めた。

仕事に、交友関係に、趣味にと彼は走り回った。それは彼にとって苦痛ではなかった。世界が自分を必要としてくれているような気がして、嬉々として飛び回り続けた。

時々ふっと、何か大事な忘れ物をしているような不安が胸に忍び寄ったが、彼はそれに気づかないふりをして過ごした。


そして気がつけば、アパートに何ヶ月も帰っていなかった。


ともかく一度帰ろう。様子を見に。
そうさ、「様子を見に」だ。もしアパートががらんどうだったなら、綺麗さっぱり引き払えばいいだけのこと。また元の一人の生活に戻ればいい。

だが玄関の前に立った彼は、ドアを開けることが出来なかった。覚悟しているはずなのに、がらんどうの部屋を見るのが怖かった。彼女がもうそこにいないことが、嫌われたのだと判るのが、怖かった。

「人間なんて勝手なものだな。
忙しいのを理由に彼女を放っておいたのは自分なのに。それでもまだ彼女に好きでいて欲しいなんて。」
自嘲的に笑いながら、彼は自分が彼女をどれほど必要としているかを思い知った。そして心から思った。

「彼女の笑顔が見たい。」


彼はドアに手をかけた。

************************

暗闇に目が慣れるにつれて見えてきた部屋の中は、彼が最後に見たままだった。ここで暮らしたのが、もう何年も前のことであるような懐かしさを覚えながら、彼は暗い部屋の中を静かに進んだ。

彼女はそこにいた。
これもまた、最後に見たのと同じように穏やかに眠っていた。いつもそうしていたように、枕を二つ並べたベッドの左側で…


何も変わってはいなかった。

愛おしさや、申し訳なさや、感激や、自責の念や…そんな色んな気持ちが堰を切ったようにいっぺんに胸に込み上げて来たが、それを表現する言葉が彼にはみつからなかった。それに何より眠っている彼女を起こしたくないと思った。

「ただいま。」

かすれた声でつぶやいて、彼はベッドにそっと潜り込んだ。ベッドの右半分、彼のために空けられたスペースに。

「おかえり。」

目を閉じたまま彼女はそっと微笑んで、冷たい彼の手を握った。

待っていてくれる人のいる幸せと安心感を彼女の温もりと共に感じながら、彼は深い眠りについた。何度も何度も胸の中でつぶやきながら…

ありがとう。ありがとう。


************************


放置しまくったみんカラを、恐る恐る開けてみた今の気持ちを例えようと書き出した妄想が、こんな長編になってしまいました。はは。

お友達の皆さん、ファン登録をして下さっている皆さん。
ごめんなさい。そして本当にありがとう。

「ただいま。」
Posted at 2013/11/22 20:26:41 | コメント(20) | トラックバック(0) | 日記
2013年09月19日 イイね!

まだ逝くわけにはいかない



もうだいぶ日が経ってしまったのだけれど、先々週のいつかの出来事。


朝からずっと雲が上空を覆っていたが、夕方近くになってやっと日が差し始めた。雲の切れ間から光の筋となって太陽が降り注ぐ。
が、何か様子がおかしい。

光の筋が青いのだ。

普通雲の切れ間から差す日の光は、温かな黄味を帯びた白だ。だが、この時の光は青かった。
写真でもわずかに青っぽいのが分かるのではないだろうか?実際に肉眼で見たそれはもっともっと青かった。

画像1


とても美しい。
けれど何だか少し背筋が寒くなるような。この世のものではないような、神秘的な光景だった。


ついにお迎えが来たか。


本当にその光の下へ行ったなら、まるで導かれるように天に昇って行く気がした。昇って行ったその先で、亡くなったおばあちゃんに会える気がした。
そして「それもいいかな」と思えた。


おばあちゃん、待っててね。今そこに行くよ。


ちょっと待った。待て待て。
この格好はないわ。せっかくの神秘的な場面に仕事着はない。出来ればフワッとした真っ白いワンピースがいいよね。でもそんなの持ってないな。
まぁ、カーテンとかシーツとかでもいいや。とにかく白くてヒラヒラする物なら。


そして白い衣をまとい、天に向かって青い光の中をすぅーっと…


ちょっと待った。待て待て待て。
これ、下から見たらパンツ丸見えだよね。でもだからと言って白いヒラヒラした衣装は譲れない。
もういーや。この際視聴者サービスだ。どうせ私は天に召される身。パンツの一つや二つ、見たくば見るがよい。


さぁ、青き天空の使者よ。私をその光に乗せて…


あ、待った。待て待て待て待て。
見えるのはいいとして、白いヒラヒラの中から色物のパンツが見えるのはどうなんだ。なんか台無しよね。今日はどんなんだっけ。
うむ、白でない事は確かだ。

そもそも真っ白いパンツなんて持ってたか。ない。困ったな。こればっかりは他の物で代用も出来ないし。かと言って、穿いてなかったらよけい台無しだ。教育上もよろしくない。
仕方ない。これを機に買うか。
真っ白いパンツも一枚くらい持っててもいいよね。


おばあちゃん、ごめんね。私まだそこには行けない。



青い光はいつの間にか普通の温かな白い光に変わっていた。ほんの数分間の出来事。あれは一体何だったのだろう?

私に純白パンツの購入を固く決意させた、幻想的な数分間だった。

Posted at 2013/09/19 22:26:13 | コメント(9) | トラックバック(0) | 日記
2013年09月16日 イイね!

台風のおもひで



外はすごい嵐だけども、テッコンキンクリートの頑丈な集合住宅はびくともしない。妙に静かな室内から窓の外を眺めながら、子供の頃の事を思い出してます。



私の育った家は、相当古いボロッボロの借家だった。もちろんみごとなまでの木造。台風が来ると家が揺れて、今にもベシャン!と崩れるんじゃないかと思った。で、揺れると同時に家全体が鳴るの。ヒュウーとかゴオーとか…
風の音とは別に家が鳴ってる音がするんです。

古-い木造家屋なんてものは、いくら家中の戸を閉めきったところでもう隙間だらけなんだよね。思うにその隙間から隙間に強風が吹き抜けることによって、家そのものが巨大な管楽器になってたんじゃないかと。

自然の猛威のみが奏でられる楽器…家笛。


そして家笛が鳴る頃にはお兄と私で『隙間探し』が始まる。
家中の、風が入ってくる隙間を探すんですね。みつけると「あった!ここ!ここ!」と相手を呼んで二人でほっぺや手を近づける。で、風が吹き込んでるのを感じると「ね?!」と大満足。

それが、もうおもしろいくらい家中のあちこちにあるの。廊下の戸(もちろんサッシなんかじゃなく木枠にガラスをはめ込んであるヤツ)の隙間はもちろんのこと、壁の板の境目とか、なぜか押し入れの奥とか、なぜか畳の境目とか。

子供らはとても楽しかったワケですが、今思うと両親としては少なからず複雑な気持ちではなかったかと。大人になった今、少し申し訳なく思っています。
子供って残酷ね。



もう一つ思い出すのは雨戸のこと。

雨戸っつっても木製の戸にトタン板貼り付けてあるだけ。台風の時だけこの随分頼りがいのない雨戸が登場します。

そしてご存知の方いますでしょうか?
昔の古い家の雨戸は家の内側の壁に小窓があって、そこから送り出すんですよ。

2205e2ac.jpg

照明なんぞない薄暗い廊下の、しかも年に1、2回しか開けない小窓。
もう、ほとんどインディージョーンズの世界です。中に得体の知れない虫がウジャウジャいたり、古代文明のミイラが出てくるかも。そこに手を突っ込むってこれ並外れた勇気がいるでしょ。
雨戸が登場する度に「お父さんてすごい!」と思ってたよね。


懐かしいなぁ。

両親は10年ほど前に今のマンションに引っ越して、ほどなくこの古い家は取り壊されました。大家さんはウチの両親が出ていくのを待っていたんでしょうね。その場所には現在オサレなアパートが建っており、一度だけ前を通ってみたことがあるんだけども。

なぁーんか涙出たよね。

貧しくても幸せだった幼い日の思い出は、もう写真と記憶の中にしか存在しないんです。他の誰が住んでてもいいから、ずっとあの場所にあの家が建ってて欲しかったな。



やけに静かな部屋の中で、もう二度と聴くことのない家笛の音を思い出しています。
Posted at 2013/09/18 00:01:30 | コメント(6) | トラックバック(0) | 日記
2013年09月10日 イイね!

いや、だめですから。



センターラインのない田舎道をハイゼットで走っていると、前方に自転車に乗ったおじいちゃんが見えた。おじいちゃんは道路の右側を私と同じ方向へ走っていた。

右側通行だ。

が、これくらい別に驚くことではない。田舎のお年寄りはとってもフリーダムなのだ。
車で走ってても、知り合いを見つけると道の真ん中にそのまま停車して
「ほん、ほん!(よう!)なんしとるだ。」
と話し出しちゃう自由さ。
お年寄り is freedam〜 ♪(by 犬井ヒロシ) なのだ。


おまけにこのおじいちゃん、かなりヨロヨロしてることが近づくにつれて分かった。狭い路肩と車道を行ったり来たりしている。プルプル震える手でハンドルを握りしめるその姿とヨロけっぷりは、まるで生まれたての子鹿のような不安定感、危なかしさだ。

「おじいちゃん、もう自転車も引退した方がいいよ」
と言いたいくらいだが、まぁ言ったところでどうせ聞く耳は持たないだろう。お年寄りは年寄り扱いされるのが一番嫌いだし、まぁなにせフリーダムだもの。


まーいいや、こっちが気をつければいいんだから。
(お年寄りにはめっぽう甘いおちゃわん)

と、最徐行で抜きにかかった時。
おじいちゃんは突然私のすぐ前で左へ横断し始めた。
後方確認、一切無し!


うぉっとっと!
おじいちゃん、さすがにそれは危ないんでないかい?
これ私が最徐行でなかったら、今頃アナタ自転車ごとノシイカですよっ。


心臓をドキつかせる私をよそに、おじいちゃんは悠然と横断を続ける。一度も振り返ることなく、限りなく斜めに、緩やかに。

クラクションを鳴らして、ビックリしたおじいちゃんが転んでもいけないので、私はなすすべもなくおじいちゃんの後ろ姿を見守り続けた。おじいちゃんの着ているTシャツの背中には文字が書かれていた。
大きく、躍動感あふれる力強い字で。





画像1


「えぇじゃないか。」




どっと気が抜けた…



※高齢者の交通死亡事故が増えている。毎年たくさんの自転車や徒歩のお年寄りが、車との事故で命を落としている。
気の毒なことだが、この調子ではそれも頷ける。車を運転する私達が細心の注意を払うのはもちろんだが、お年寄りに対しても警察や公安による教室を開くなど、今一度交通安全について注意を促す必要があるのでは…?




Posted at 2013/09/10 20:06:37 | コメント(11) | トラックバック(0) | 日記
2013年09月06日 イイね!

元気になって欲しいから。



背負ってる荷物が重くて辛い時は、誰かに少しだけ持ってもらったらどうでしょう?

一人では重過ぎる荷物も、誰かがほんの少し一緒に背負ってくれるだけで大丈夫かも知れない。ビックリするほど軽く感じられて、またヒョイヒョイって歩き出せるかも知れない。
それは、誰かに「話してみる」…それだけでいいと思うんです。


そっと弱音を吐いちゃったらどうでしょう?


そんな重い荷物は投げ出してしまえ、とは思いません。だって中身が何であれ、あなたにとっては大切な荷物でしょうから。

もうずっとずっと前のこと、私は一番辛い時に誰にも打ち明けられずに自分も荷物も潰れちゃいました。だから今、元気のないあなたの事が放っておけないのです。
どんなに一人で頑張っても、潰れちゃったら誰も幸せに出来ません。自分自身も。きっと頑張り過ぎちゃうあなただから、私は放っておけないのです。


誰かにそっと弱音を吐いちゃったらどうでしょう?


あなたは一人じゃない。
誰も皆、一人で生きてるわけじゃない。
荷物の中身を興味本位でのぞき込むのでなく、
「なんかえらい重そうだなぁ、ちょっと貸してみ。」って。
人の荷物を少しくらい持ったって全然へっちゃらな元気な人、きっとあなたの周りにもいますよ。


今の私もその一人ですよ。
Posted at 2013/09/06 19:01:18 | コメント(7) | トラックバック(0) | 日記

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「@テクニカサニー さん ぐっなーい♪( ´θ`)ノ」
何シテル?   08/30 01:43
おちゃわん星人です。 おちゃわんなので車のことはよくわかりません。見た目の話くらいしか出来ません。「…に似てる」とか、「◯◯っぽい」とか。 でもなん...
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