
NISSANグロリアは、セドリックの姉妹車として、長年に渡り、TOYOTAのクラウンをライバルとする上級セダンであった。6代目グロリアは、先代のいかついグリルから、直線を基調としたスッキリとしたデザインに変更されて1979年に登場した。
1980年、同期就職したM氏は、その6代目グロリアを購入した。
若いのに、地味な車だねと最初はコバカにしていたのだが、この車、実はオジサングルマを装った、市販後間もない日本初のターボ搭載車だったのである。
この頃のターボ車は、ターボが効きはじめる時に、フィーンというタービン音がよく聞こえた。
音があってから、加速するまでに多少のタイムラグがあるのだが、むしろそれは、これから始まる楽しい時間を告げる合図のようで、魅力的にすら感じたものである。
未体験、ターボの衝撃と形容しても良いワープ感、それまでのクルマにはない、異次元のスピード感覚を体験してしまった我々は、彼のグロリアに乗り込むと、いつも「踏め〜っ!」とアクセルのべた踏みを催促した。彼はこのバカな野郎どもの要求に応え、結果として、自身を含めたわれわれ全員がその快感に溺れ、スピード中毒患者になってしまったのである。
今にして思えば、日本初の市販ターボ車を選択した彼は、当時、どの車が速いのかをちゃんと見極めていたのである。
その後、国産車には次々とターボ搭載車が現れ、どんどんと高性能化が進んでいくことになる。
私がすっかり、スピード中毒患者になってから買ったクルマが、コロナGT-TRである。
これは1800ccツインカム16バルブターボという当時としては、「これでもか」的に高性能化を図ったエンジを持つクルマであり、いつでもどこでも床がぶち抜けるほどにアクセルベタ踏みをして、スピードの快感に酔い痴れたものである。
M氏とは仕事で、いっしょに数々の修羅場をくぐってきた。
友人と言うよりは、共に戦った戦友といった方が合っているような気がする。
また、ゴルフ仲間として33年間の長きにわたって付き合いをづづけてきた。
まあ、何も話さなくても、お互いに腹の中はわかっているつもりではある。
今年に入って、栄養不良気味に痩せてきた彼が、ゴルフの時にふらついているのを見るに見かねて、「飲み過ぎなんじゃないの?」と言ってみたりはしていたのだが、「肝障害が出たから、6月のゴルフはお休みする」との連絡の後、先日突然に、「手術できそうもない膵癌だから、悪いけど7月、8月のゴルフに行けそうもない。」と電話があった。
いきなり、余命数ヶ月と言われたわけだが、今後この過酷な現実にどう対処すべきか、多少なりとも困惑した。
残された時間に、彼はいろいろな人に会いたいだろうか?それとも、会いたくないのだろうか?
自分が同じ立場だったら、どう思うだろうか?
面会したとして、確実に死を迎える友人を目の前にして、何を話したらいいものだろう?
会いに行くとは、それはもはや、お見舞いではなく、今生の別れを告げに行く事になってしまうのではないか。
イロイロなことを考えてみたが、いずれにしても、この残酷な現実に向きあわなければならない。
数日後、勇気を出して、こちらから電話をしてみた。
彼は、達観したのか、比較的元気な様子で、
まあ、仕方ないさ、お見舞い?面倒だからいいよ。
だめになるまで、家にいるよ。
もし入院したら、退院できなくなるだろ〜。。
いよいよ、しんどくなったら、入院でもするから。
その時は、連絡するよ。
じゃ、そんなふうで・・・。
と、普段通りの口調だった。
あまりにも、あっさりと、客観的に自分の最終スケジュールを示してみせ、しばらくは死にそうもない様子であった。
私も、かける言葉も無かったが、先に逝ってしばらく待ってろよ。と言う以外なかった。
あの世で、ちゃんと真面目にゴルフの練習しておくように、ここ2〜3年は、私が勝ちっぱなしなんだから。と普通に話して電話を切ったのである。
人の命は儚いものである。
私をスピード中毒にした張本人は、もうすぐ死んじまうけど、自分の寿命を知った時、決して、哀れんでもらったり、悲しんでもらったり、気を使ってもらったり、そんなことを彼は望んでいるわけではなかった。
いつも通りに、何事もなかったように接することを、望んでいたのである。
ゴルフのメンバーが、一人欠けてホント困った話です。
この程度の事にして、アッサリといなくなるつもりなのでしょう。
私も先が見えたら、かくありたいものです。。

昨年8月26日、茨城県の石岡GCで彼と一緒に見上げた空です。
追記
その後、私は6月30日にご自宅を訪問。
CA19-9 4000以上、T.Bil 24mg/dl・・・・。
痛みもないし食べられるとのことで、「食えているうちは死なないさ」と冗談を言って別れました。
平成25年7月6日(土曜日)関東甲信越梅雨明け。
M氏は、ご家族に見守られながら、ご自宅で息を引き取りました。享年59歳。 合掌。。
Posted at 2013/06/19 23:35:46 | |
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