
いかにも老舗の雰囲気を漂わす暖簾をくぐる
「いらっしゃい」
優しそうなおかみさんの出迎え
昼の混雑時を避けたので先客は3人
もり蕎麦を啜るサラリーマンが二人
もう一人は「板わさ」と「天ぬき」で日本酒を楽しむ、いかにもご隠居然とした老人
「決まってるな」この優雅な遊びを満喫するには、やはりあれくらい人生を経験しなければ
しかし、私もそろそろ一歩踏み出しても良い頃だ
人生の先輩を羨望と敬意を持って見つめる
お品書きに目をやる
やはり定石としては
「板わさ」「天ぬき」か?
しかし、いきなり先輩の足跡をなぞるのも.....
そうだ「出汁巻き」だ
蕎麦屋の上質な出汁を使ってふっくらと丁寧に焼き上げられた出汁巻きが酒に合わないわけがない。
「あともう一品欲しいな」
出汁巻きだけでは少しパンチが足りない
天ぬき?身欠鰊?焼き海苔?
「ん~悩むな」
色々目移りしている私の心を射止めたものは
「鴨南蛮」
鴨とネギをかけ蕎麦用の甘汁で煮たこの料理は「野性味」と「ボリューム」を満たしてくれるはず
ビール、出汁巻き、鴨南蛮を頼みしばらく物思いに耽る
「砂場」とは、かの「太閤豊臣秀吉」が大阪城を築上する際、雇い集めた人足たちの食事として色々な屋台が出店されていた。その中でも素早く提供され、手早く食べる事の出来る蕎麦は人気があったそうな。そして、その蕎麦屋は築上に使う「砂」の前に在ったことから「砂場」と呼ぶようになったそうです
出汁巻きの香ばしい香りが戦国時代にタイムスリップした私を現代に呼び戻します
卵を箸で裂くと
「フルフルッ」と出汁と卵がこれ以上ないくらい絶妙な割合で溶き合わされている
出汁が多ければ弛く
少なければ固い
口のなかでフワッ溶けていきます
次は付け合わせの「大根おろし」を少しのせ出汁巻きを口にいれる
辛めの大根おろしと出汁巻きの仄かな甘さ
「く~っ」
思わず唸りそうになるのを我慢します
出汁巻き卵とビールがあらかた無くなりそうになったとき「鴨南蛮」が運ばれてきます
「日本酒か?」
いやいや昼から日本酒を楽しめるほど私は酒の道に精通していない
ビールをもう一本頼み鴨南蛮を楽しむとしますか
程よく火の通った鴨肉を噛むと「ジュッ」と脂が滲み出し、脂の甘味、肉の歯応え、鴨肉の持つ野趣溢れる味わいが楽しめます。そしてネギのピリッとした辛味で口をさっぱりさせると鴨肉の風味が際立ちます
そして鴨肉と軟骨をミンチにした「鴨肉の丸」がまた楽しい
滑らかなミンチとコリコリした軟骨のハーモニー
練り込まれている生姜がいい隠し味になっています
さて「酒と蕎麦前」堪能しました
お次は主役「蕎麦」でしょう
私はかけ蕎麦の方が好きなのですが、やはり「砂場遊び」の〆は「もり」を手繰るのが粋ってものでしょう
「もり蕎麦一枚。あの、海苔抜きで」
もり蕎麦の「上にのる海苔」は私にはあまり必要ない
ふと視線を感じる
ご隠居が
「お若いの中々やりますね」
といった風にコチラをニコヤかに見ている
白っぽい更科系の蕎麦が運ばれてきます
先ずはつゆに蕎麦を半分ほど付け手繰ります
蕎麦の鮮烈な香りと鰹節の香りが口のなかに広がります
「もう少しつゆをつけるか」
今度は三分の二ほどつゆを付けます
「うどん三本、蕎麦六本」
「てやんでぇ、一本一本チビチビ食っちゃあ明日の朝になっちまう。かといって、バカみたいに口に入れちゃあ味なんかわかるめぇ。うどん三本、蕎麦六本くらいが美味くて粋ってもんよ」昔の人はカッコいい言葉を遺しますね
「ズズッ、ズズズッ」
蕎麦を啜ります
「チュルチュル」ってのはお子さまみたいですな。かといって
「ズルズルズルズルッ」ってのは周りに迷惑だ
「ズズッ、ズズズッ」くらいが丁度周りに迷惑もかけず、蕎麦を啜る醍醐味も味わえる
因みに「麺類を啜る」のは日本人のみらしいですね。欧米人はもとより、アジアの人も麺は上手く啜れないとか
蕎麦がなくなり
砂場遊び「本当の〆」蕎麦湯を頼みます
蕎麦湯を飲まなきゃ
「仏像作って魂入れず」だ
「....ゃくさん、お客さん」
私「?(゚Д゚≡゚Д゚)?」
「コロッケ蕎麦あがりましたよ」
カウンター越しにバイトのお兄さんが今日の昼食「コロッケ蕎麦」を手渡してくれます
まあ現実はこんなもんです
駅の立ち蕎麦...
これはコレで美味いんだけどね(笑)
「露と落ち 露と消えぬる 我が身かな 浪花のことは夢の又夢」秀吉辞世の句

Posted at 2013/07/23 13:12:25 | |
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