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2023年04月24日

鳥越隧道・鳥越林道を歩く(1)

2023年4月2日日曜日、三重県熊野市・尾鷲市境にある鳥越隧道とトンネルから尾鷲市賀田町へと続く鳥越林道を歩いてきました。

紀勢道を尾鷲北ICで降りて国道42号を南進。熊野市飛鳥町小又で国道42号から市道小又線を経由して林道浅谷越線へと入り込み、5kmほど走行した所にある広い路肩へと車を駐車します。


場所はこちら。

※地理院地図(電子国土Web)に加筆。

車を駐車した場所からさらに先へと歩いて進みます。


車から100mも進んでいない道路の左側。唐突にトンネルが現れます。


場所はこちら。

※地理院地図(電子国土Web)に加筆。

このトンネル、手前の林道浅谷越線とは段差が付けられていて、車では行き来することができないようにされています。


あらためまして、鳥越隧道です。地形図にしっかりと記載されていながら、ご覧のとおりの廃トンネルです。






坑口から見事な崩れっぷりです。




小又側坑門の扁額です。


アーチ環の石には起工・竣工年月が彫られています。読み取りにくいですが、「起工 昭和八年五月」、「竣工 昭和九年六月」とあります。事前の下調べですでに知っていましたが、戦前に開削されたトンネルです。


そして真向かいの石には、「請負人 津市 平田組」とあります。ネットで社名を検索してみましたがヒットせず、少なくとも「平田組」としては現存していないようです。


ここで鳥越隧道がある「鳥越林道」の建設の経緯について少々記します。内容は「尾鷲市史」からの抜粋です。

鳥越林道が建設された旧南牟婁郡南輪内村(現:尾鷲市賀田町など)は、明治時代に林業が盛んとなりました。高瀬山・茶ノ又方面からの天然林の伐採により、港がある賀田から茶ノ又に至る4.6kmの車道(荷車道。三重県道70号 賀田港中山線の前身。)が明治31年(1898年)に竣工し、天然木が大量に賀田港へ搬出されるようになりました。

そうした中、昭和7年(1932年)に政府の農山漁村振興策の一環として、林道等の開削が大きく取り上げられることになったため(「時局匡救林道助成事業」及び「山村救済林道助成事業」のことか。)、当時の南輪内村村長・賀田区区長は、鳥越峠を越えた西隣にある飛鳥村(現:熊野市飛鳥町)の村長と共同して、飛鳥村小又(現:熊野市飛鳥町小又)~南輪内村賀田間の林道開設を三重県へ強く要望しました。

南輪内村と同様に、隣接する飛鳥村でも林業が盛んに行われていましたが、当時村内を通過していた県道津木本線(後の国道42号)は、尾鷲方面へ向かう矢ノ川峠も木本(現:熊野市)方面へ向かう小坂・評議峠も峠道の整備がまだまだ行き届いておらず、村外へと木材を搬出することに長年苦慮していたと思われます。

そのような状況であったところに、賀田港を持つ南輪内村から共同で林道開設を陳情しようと誘われれば、是非もない話だったでしょう。南輪内村側としても、林道が開削されれば飛鳥村だけでなく、さらに奥地の村々からも賀田港への木材搬出が期待できる目算があったはずです。

この陳情は三重県に取り上げられ、県林務課によって「鳥越林道」が開削される運びとなり、津市の平田組が135,000円で工事を請け負うこととなりました。最大の難関である鳥越隧道は、昭和8年(1933年)5月に起工し、昭和9年(1934年)6月に竣工。鳥越林道は昭和10年(1935年)6月に完成しました。

主要な街道でもない山奥の林道に戦前期のトンネルがあるのは、こんないきさつがあったからなのです。

それでは、トンネル内へと進んでいくことにします。コンクリートで巻き立てられているのはほんのわずかな距離で、すでに素掘りの坑内が見えています。


そのわずかなコンクリート区間も剥落が激しい状態です。


トンネルの真上が凹地なためか、凹んだ山肌に集まった水が浸透してきて、路面に大きな水溜りを作っています。


ちなみに明かりが無いとこんなに暗いです。


素掘りトンネルとは言え、岩盤の荒々しさが剥き出しになっています。




路面は当然のように未舗装。


岩質が変わったためか、壁面が先ほどのゴツゴツした状態ではなく、多少滑らかな仕上げになってきました。


このトンネルの特徴の一つとも言えるトンネル中央部の拡幅部分です。トンネル延長が430mもあるので、すれ違いのために設置されたものでしょう。






壁面に腐食した木が刺さっています。電線でも通していたのでしょうか。


トンネル後半の壁面は、ずっときれいな仕上げになっています。


反対側の坑口が近づくにつれて、坑内がまた濡れてきました。




コンクリートの補修壁があります。


下部には水抜きのためか穴が開けられています。


坑口に向けて側溝も設けられています。


路面に岩盤が剥き出しになっています。昔の車は車高が高いので、この程度なら問題なかったのでしょう。


反対側も坑口付近だけはコンクリートで巻き立てられています。


右側の壁面に埋め込まれている「石工 水浦尋市」の銘板。トンネル工事の監督に当たった方だそうです。


左側は落書きで名前がたくさん彫り込まれています。


賀田側の坑門です。


場所はこちら。トンネル坑道の位置が地形図とずれています。

※地理院地図(電子国土Web)に加筆。

賀田側の坑門はトンネル坑内に対して斜めに設置されています。トンネルの先が急カーブなので、トンネル前の狭いスペースでもスムーズに曲がれるように、トンネル内からカーブを付けて、坑門も斜めに設置したのかもしれません。




賀田側坑門の扁額。


このトンネルに着いた時は、「明日は月曜だし、トンネルだけ見て帰ろうかな。」と思っていましたが、この廃道の風景を見て「もう少しだけ進んでみるか。」という気になってしまいました(笑)。


※(2)へ続く。
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Posted at 2023/04/25 00:27:16

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