□今回の経緯
VW's Emissions Cheating Found by Curious Clean-Air Group - Bloomberg Business
詳しくはこのサイトに書いてあります。英語、音声自動再生あり
1. 環境NPO、ICCTがディーゼル車の公道での環境性能をチェックするためにVW パサートとBMW X5をテスト
2. パサートが公道テストでNOxを大量にばらまくという結果が出る
3. ICCTはよりちゃんとした設備を持ったウエストバージニア大学に調査を依頼
4. ICCTがウエストバージニア大学に依頼した精密調査の結果、VW ジェッタが公道走行時に基準値の15倍から35倍のNOxを出すという事実が発覚し、その結果が公表される
5. CARB(カルフォルニア州環境当局)とEPAがこの結果を問題視しVWにリコール命令を出す
6. VWは2014年12月に50万台を回収し「ソフトウェアパッチを充てることで問題を解決した」と当局に報告したが、CARBは7か月もの調査を行ってもソフトウェアパッチの効果を確認できなかった
7. 同時にCARBとEPAはVWの2016年モデルの認証を進めていたが、VWの行った「改善」の効果が確認できない為、2016年モデルの販売に向けた型式認証を下すことは出来ないとVWに通告。VWは明確な説明を行わない限り2016年から対象モデルを販売できないことになった
ざっとした経緯はこんな感じ。
アメリカでは車の販売開始後も排ガスのチェックが行われ、公式試験の測定値との差が大きすぎるとリコール命令が出されます。70年代から行われている制度です。
今回のVW・アウディ車(対象者はジェッタ、ゴルフ、ビートル、パサート、そしてアウディA3となっています)については、排気ガス測定試験走行を検出し、その状況下だけで排気ガスを大幅に減らすようにエンジン制御を変えるようになっていたとのことです。
□何が問題なの?
測定試験の時だけ作動させ実際の走行では無効化する装置のことをDefeat Device: 無効化装置と呼びます。VWこのDefeat Deviceを使用していたことが問題となっています。
このような装置の使用は排気ガス測定試験のルールで禁止されています。欧州や日本ではややこれに関するルールが緩いのですが、それでもDefeat Deviceを使用することは自動車エンジニアとして、自動車メーカーとしてやってはいけないことです。
そもそも排気ガス規制の主旨は大気汚染の防止にあります。大気汚染を防止するにはリアルワールドでの実走行でも排気ガス測定試験と同じレベルでクリーンである必要があります。Defeat Deviceが使用されると、見た目はクリーンだけど中身は汚い車が多く走るようになってしまい、大気汚染が進んでしまいます。
大気汚染は非常に深刻な問題です。大気汚染は私たちの命にかかわるレベルの問題であることを認識しないといけません。イギリスのロンドン市ではLow Emission Car Onlyの看板があり、カメラで厳しくチェックされ規定を超える車を識別すると1日当たり200ポンドの罰金を取られます。
またDefeat Deviceの使用は必死になって環境問題に取り組む他のエンジニアに対して非常にアンフェアな行為です。特にアメリカはリアルワールドとフェアネスを重視します。今回の件は最悪刑事罰の対象となる可能性もあります。
□なぜDefeat Deviceを使ったのか
基本的にエンジン単体で見た場合、燃費、出力、排ガスのクリーン度はトレードオフの関係にあります。
出力を維持したまま燃費を向上させ排ガスのクリーン度を高めるにはトレードオフポイントを高めるしかありません。これには時間とコストがかかります。
ユーザーからの要求で出力を落とすわけにはいかない。しかし燃費、排ガスのクリーン度は引き上げなければいけない。そこでDefeat Deviceは悪魔のささやきのようなものです。低コストで見た目だけはクリーンで低燃費でユーザーにとっては楽しい車の誕生です。
これは個人の推測ですが、東芝の時のように言葉による縛りがあったのではないかと思います。クリーンディーゼルを売りにする欧州車という言葉が縛りを生みエンジニアを、メーカーをDefeat Deviceに走らせたのではないかと思います。
またアメリカと欧州ではディーゼル車に対する規制に大きな差がありました。はっきりと言いますが欧州のディーゼル車に対する排ガス規制は非常に緩かったと言わざるをえません。
欧州ではユーロ6と呼ばれる新しい排ガス規制が始まっていますが、クリーンディーゼルをうたっているにも関わらず実走行での排ガスのクリーン度がユーロ5よりも悪化しているという結果が出ています。排ガス規制が強化されているにもかかわらず大気汚染問題の解決が進まないのも、こういった実走行での排ガスクリーン度が悪い車が原因なのではないかと指摘されています。
ユーロ6で規制を強化するとなったとき、国に泣きついて規制決定を先延ばしさせたのはドイツの高級車メーカーです。そのぬるま湯につかりながらクリーンディーゼルをうたってきた甘えのツケが回ってきたのではないかと思っています。
VW社は以前にも直噴ターボエンジンについてPM2.5の排出量が試験時と実走行で大きな差があると指摘されていました。結論を出すには詳細な調査結果を待たなければいけませんが、徹底した調査をしてほしいところです。
□これからの排ガス規制
正直言いますと日本の排ガス規制値もアメリカに比べるとかなり緩いものです。それと比べると日本車の排ガスのクリーン度は非常に優秀で、メーカーの努力がどれほどのものかよくわかります。そんな日本も実走行に近づける新試験法WLTPの採用が決まり、かなり厳しい制度になることが決まっています。
欧州では車載ポータブル計測システムを搭載した実走行での排気エミッション試験が義務となりました。
ディーゼルエンジンへの規制も今までのようにガソリン車と比べると非常に緩い規制ではなくなりつつあります。
リアルワールドの排ガスクリーン度、燃費については欧米では環境NGOなどの第三者機関が行っています。残念ながら日本にはこのような第三者機関はありませんが、調査には計測装置やシャシーダイナモなど高価な設備が必要であり難しい部分もあると思います。
いくつかニュースサイトの記事やブログを徘徊しましたが、三菱のリコール隠しを引き合いに出して大気汚染は命にかかわらないからなどという間違った認識をいくつか見つけました。大気汚染は命にかかわる問題です。何年も何十年も人体に悪影響を及ぼします。次の世代、そのまた次の世代へと大きな負の遺産を残してしまう重大な問題ですし、最悪取り返しのつかない状況になってしまう危険性をはらんでいます。
また、アメリカの規制が厳しいから仕方がない、アメリカの一部地域で売られている質の悪い軽油が原因だなんて記事も見受けられました。何を言っているのかわかりません。規制を通せないのなら売らなければいいんです。実際、マツダはスカイアクティブDをアメリカで販売していません。このようなことを理由にDefeat Deviceを使っていたのだとしたら、VW社にはこれからかなり厳しい罰が待っているでしょう。
今回のような不正が二度と起こらないような仕組みづくりが必要なのではないかと思います。試験で優秀なのは当たり前。リアルワールドでもクリーンな車が増えていくことを願います。
Posted at 2015/09/26 10:28:55 | |
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