ノンフィクション(moso)

それまでの静寂を壊してその瞬間はやってきた。

“シグナルオールレッド！スタート！！”


全員が一斉に動き出す。


一気にスタートを決めたかったが、何ということだ、運の悪いことにひとつ前の人がスロースタートだ。

僅かに引っ掛かった為に俺はポジションを失った。

もう少し前に出られればこんな日記は書かずに済んだだろうと思うほど、その一歩は大きかった。

他者との位置関係が悪いまま、もうすぐ最初にして最大の山場が来る。


そう、シケイン。


この混雑の中、不安定な姿勢で飛び込むシケインほど怖いものはない。


もともとスタビリティ・足回り・ボディ剛性に不安が大きいが、今更そんなことを言ってもしょうがない。


俺は全神経を足元に集中させる。

もう少しトレッドが広ければ。。

せめてわずかにトーアウトに振ったことが効を奏せば、と祈る気持ちでシケインに入る。

シケインに入った瞬間、自分が姿勢を崩す、、、

が、それ以上に隣の乱れ方が激しい！

気が付いた時には俺の左サイドにぶつかってきていた。


まさかここでヒットされるとは。こいつもかなりの安定性を欠いた状態だったのか。


そう思う刹那、自分の逃げ場所を探す。

右に一歩。

いや、ほんの10cm。

この幅を使ってかろうじて右側のやつにぶつかることは避けることができた。




次は大きく曲がるコーナーだ。

徐々にGがかかってくる。

シケインほどではないが、油断をすれば容易に飛んでしまう。

少しずつだが確実に姿勢を崩される。


膝から下に神経を集中させながらコーナーを乗りきる。

よし悪くない。


このままいけば、


何とか、


無事に、


次の駅で降りられそうだ。





やっぱり俺にとってつり革は必須だ。。。


今朝もそれを実感した。