爽やかな秋風と秋の虫の声が、暑い夏は過ぎ去ってしまったことを教えてくれます。
明け方は、半そで短パンだと肌寒く感じるほど。
それにしても、今年の夏は暑かったですね。
涼しい年の夏は、クーラーをつけるのは蒸し暑くて寝付けない数日だけなこともありますが、
今年は、暑すぎる日中も蒸し暑い夜も、扇風機だけでは熱中症になってしまいそうでした。
暑いと感じたのは気温だけではなく、心も熱くさせたのは高校球児たち。
全力で、笑顔で、仲間を信じて闘い続ける公立高校の野球部員たちが、
あり得ないくらい劇的な逆転劇を演じ、強敵に立ち向かっていく姿は、
わたしたちの心の奥の何か琴線に触れる感動を呼び起こしました。
自分だけでなく秋田の人、全国の人が熱狂したのは何であったのか、
旋風や熱風が、爽やかな涼風に変わった今、改めて考えてみたいと思います。
※わたしは、単なる野球ファンです。厳密に言うと、かつてはコアな、今は時々ファン。
子供のころから兄弟とキャッチボールや三角ベース、夜はナイタ―で巨人戦、
バッティングマシンをネットを張った庭に設置、兄弟は中学高校野球部、
自身は中学ソフトボール部(高校は剣道部)。
野茂選手の大ファン。今は家族4人で庭でキャッチボールやノックをして楽しむ。
■心の底に眠る、高校野球・社会に対する「こうであってほしい」願望と郷愁
【いまどき珍しい農業高校】
【地方の公立高校】
【全員が県内出身、地元中学出身者】
かつて、都会や都市部のある都道府県以外の、地方の甲子園代表校の多くが、
「○○商業」「□□工業」「▽▽高校」という名の公立高校でした。
それが、今は地方でも、全国からスポーツ特待生を集める私立高校が常連校になっています。
田中将大選手が北海道、坂本勇人選手が青森の高校で活躍しながら、本人たちは兵庫県出身で同じリトルリーグでプレーしていた友達同士だったことは、驚愕しました。
隣県出身の息子の友達のお母さんは、
「○○学院が甲子園に出ても、地元の人は誰も応援していない」
と話したことにも、驚きました。
わたし自身も地方の出身なので、もともと地元には私立の高校は少なく、しかも甲子園を目指して生徒を獲得しようとする経営方針の高校もあまりありませんでした。
甲子園を目指す中学生の球児たちは、高校受験できるエリアが決まっていたため、
受験前に転校して、越境してでも公立の強豪校に入ろうとしました。
だから、県外から公立高校に入学する生徒は、少なかったように思われます。
では、なぜ「○○商業」「□□工業」が甲子園出場から遠ざかってしまったのか。
それは、今の高校生が高校卒業後に就職するより進学する志向にあり、高校入学時の成績がふるわない生徒は、商業高校、工業高校共に入学できにくくなっていることが要因の一つ。
中学時代、野球漬けであまり勉強しなかった子もかつては入りやすかった高校が、進学する生徒が増えたためレベルが上がり、成績が優秀な女子の入学が増えたことも理由の一つ。
勉強が得意ではない、むしろ野球ばかりがんばって成績がよくない選手は、
特待生制度があり成績は度外視する私立に入学する傾向もあるようです。
奨学生として学費などの免除をしてもらうなど、野球の技術を磨くことで高校に入れます。
さらに、中学時代、シニアリーグなどで活躍して実力のある球児たちは、強豪校といわれる学校から誘いが来て、優先的に入学することができます。全国から優秀な人材が集まります。
彼らにとっては、甲子園に出ること、そこで活躍することは、自身がプロ野球、大リーグで活躍するための通過点でもあるので、高レベルな選手たちの中で切磋琢磨して、技術を磨き、強健な肉体を作り、次のステップへ進むためにの努力を惜しみません。
そんな志の高い体力も技術も強い精神も持ち合わせている高校球児たちが多く集まる学校は、必然的に、毎年のように予選を勝ち抜き、甲子園に出場することになります。
それは、競争原理が健全に働く日本では、ある意味自然なこと。
プロになりたい志の高い子供たちが、その場を目指すのは、やむを得ないこと。
しかし、それは心の中でも理解しているけれど、どこかで昔懐かしい、地域密着型の地元の高校生たちだけで構成されたチームががんばる姿を応援したいと思っている。
組織的に才能ある選手を集め、科学的現代的な練習でさらに強くなる絶対的な強豪校に対し、
一地方の名もない高校生たちが立ち向かい、臆することなく戦い勝ち続ける。
そんな姿に、昔ながらの高校野球への懐かしさや故郷への郷愁を感じてしまうのが、
日本人なのでしょうか。
わたしはテレビで観戦できなかったのですが、主人は三重県の白山高校にシンパシーを感じて、甲子園出場につながったエピソードを知って感動したことを涙ながらに話してました。
・10年連続初戦敗退
・部員は5人しかいなかった
・広いグラウンドに草が生えていた
・田舎すぎて終電が早くて、短時間しか練習できない
・監督の情熱と短い時間に効果的な練習をする工夫で力をつけた
そんな学校が甲子園に出場するまでのドラマに、応援したくなる気持ちもわかります。
■「全力」で取り組む姿、「笑顔」で闘う仲間たち
金足農業高校の何がいちばんの魅力だといえば、「全力」プレー。
吉田輝星投手という才能豊かな非凡なピッチャーがいたからこその快進撃は、誰もが認めるところ。
その彼の「全力」投球、「全力」疾走、「全力」打撃。
ピンチになればなるほど、球威は増し、バッタバッタと三振を奪う。
「全力」で投げているのに、合間には笑顔をのぞかせ、仲間たちとコンタクトをとる。
欠けてしまった歯を補い力を出させる白いマウスピースが、爽やかに光る。
彼が「全力」で投げられるのは、仲間を信頼し、自身の力をすべ出し切ろうとするから。
その、信頼し合うチームワーク、惜しみなく全力を注ぐ姿に、感動せずにはいられない。
点をとられれば、必ず仲間が点を入れる。
彼らは、バッターボックスに入る時に大声で気合いを入れる。
その声が大きければ大きいほど、「全力」で振り切るバッドはボールを飛ばす。
練習に練習を重ねて磨きあげたバンドは、一塁線、三塁線で見事にとまる。
( もう、ここで負けてしまうかも・・・ )
( この点差は、なかなか追いつけない・・・ )
応援しながらもあきらめかけたとき、信じられないようなホームランが出る。
思いもかけない、2ランスクイズが飛び出す。
こんな奇跡、ミラクル、想像もしない、いや、できない。
名前を聞くだけで勝てそうもないと思ってしまうチームに挑んで、勝ってしまう。
応援している県民の心がひとつになり、感動と興奮を共有する。
子供たちも、お年寄りも、若い人たちも、みんなが心から感激し、喜びを爆発させる。
こんなに一瞬で共感し合い、喜び合える経験は、めったにないこと。
あんまりいいことがなかった県で、久しぶりに訪れた慶事。
それも、若者たちの清々しい爽やかな大活躍。
「金農」出身者は母校を誇らしく思い、地域に住む人たちは自分のことのように喜ぶ。
「ブラスバンド部や控えの選手の宿泊費が足りない」と聞けば、みんなで寄付を届けに行く。
おらが村の一大事。
資金力も豊富で、甲子園までの距離もそんなに遠くない強豪校たちにはない苦労を、
がんばる高校生たちにさせたくない。
勝った翌日には、地元新聞をくまなく読み、コンビニに行ってスポーツ新聞も買う。
テレビのニュースやワイドショーでも、金農扇風をとりあげくれている。
秋田だけでなく、全国でも応援してくれている人がたくさんいることを有難く思う。
たぶん、自分も今秋田に住んでいなくても、きっと、金農を応援していた。
昔ながらの甲子園の想い出、100回大会にふさわしい今時の強豪校との戦い。
わたしたちの誇り、嬉しい気持ちは全て、勝利のあとの「全力校歌」で昇華する。
嬉しそうに、誇らしげに、球場全体にまで届く大声で歌いあげる校歌。
「君が代」を全力で歌う日本代表選手のように、言霊が信じられない力をもたらすのかも。
全国の人にも見せたい、見てほしいと思っていた「全力校歌」が、多くの人の感動と共感をもたらしたことも、嬉しくてたまらないことだった。
野球が好き。
仲間たちが好き。
そんな単純で純粋な思いが、猛練習で培われた自信の上に奇跡的な力となり、
周囲の人たちの共感と感動を呼び、わたしたちの心の中にまで「何か」を呼び起こす。
「全力」で「笑顔」で取り組むことの清々しさ、素晴らしさを教えてもらいました。
■戦術。根性と技術的な鍛練。
わたしたちに懐かしいと思わせたことのもう一つの側面は、昔ながらの戦術。
そう、アレですよ、バンド!
ランナーが一塁に進塁すると、バンド。
とにかく、得点圏にランナーを進める。
打撃が優れているバッターが多く揃うチームでは、あまり見られなくなった戦法。
絶対くるぞ、バンド。
おっ、お見事! 一塁線にきっちり停めて、ランナーは進塁させる。
三塁にランナーが進むと、絶対くるぞ、スクイズ。
おっ、お見事! 三塁線やキャッチャーの捕る位置にきっちり停めて、生還!
ただね。
大事なところで、スリーバンドが失敗してしまったり、スクイズが見抜かれていたり。
監督さん、こだわり過ぎているんじゃない? 固執し過ぎ? 前の監督さんの負の遺産?
バンドをあきらめてパッティングに代えた途端、ヒットが出ることも多かった。
大阪桐蔭との決勝戦では、スクイズは完全に見抜かれていた。
スクイズのサインのあとにバッティングのポーズなんて、バレバレだよ。
西谷監督、笑いを隠さなかったよ。
あのスクイズが成功していたら、流れが変わっていたかも。
それから、吉田君のワイルドピッチで得点を与えてしまった後、監督はタイムを要求した。
伝令の子に、主審にアピールさせようと指示したけど、主審は気づかなかった。
あの時、監督自身がもっと強気にアピールして、タイムをとっていたら・・・。
いくら選手たちが「全力」でがんばっても、監督の指示、サインは試合を大きく動かす。
「日本一の監督」だと選手たちは言っていたけど。
信頼関係があるならそれが一番だけど。
バンドも大切だけど、臨機応変に。
タイムの要求は、もっと自信をもって堂々と。
やっぱり、監督の役割は大切で、責任重大。
あらためて、指導者、責任者にとって大切なことはなにか、考える機会になりました。
それから、これは新聞やテレビから得た情報ですが。
金農の練習は、昔ながらの雪の中を長くつで走りまくる根性論や、
バッティングとバンドが同じくらいの時間をかける伝統的な練習方法だけではないと。
科学的な動画や装置を使っての投球フォームの検証や、
指導者のための指導を、実績のある理論的な指導にたけたベテラン監督から受けるなど、
県をあげて、高校野球の技術向上に取り組んできたことを知りました。
監督やコーチに対する監督指導というのは、絶対に必要だと思われます。
大人になると、自分が経験してきたことに固執するのは、親の子育てでも同じ。
マラソンの瀬古さんは、監督の指示が絶対だったときの感覚が忘れられず、恩師が語った「世界一になれるならオレは土を食べる」を選手の前で実践して、教え子たちをドン引きさせてしまった。
今の時代は、直線指導を受けなくても、本を買わなくても、ネットや動画サイトでいろいろな指導法がUPされているから、その中から適切だと思うものを選択して、学び、身につけることも可能です。
選手だけでなく、監督やコーチなどの指導者も、常にアンテナを高くして、科学的で理にかなった練習方法や技術力を高める方法、身体づくりに必要な食事や休息の仕方など、学んでいかなくてはいけないと思います。
その点、一回戦負けばかりつづいた秋田の高校野球の技術を向上させようとしている県の取り組みが、ようやく実を結んだことにもなり、各方面での働きかけをしてきた人たちのがんばりをわたしたち県民も知ることとなりました。
「根性」「努力」「ひたむきさ」「全力」「優柔」「忍耐」「信頼」
そんな、日本人が大好きな精神力だけでなく、限りある時間の中で何を優先するのか、理論的合理的な練習方法、技術鍛錬も、大切になっていることを感じています。
■まとめ
産業も文化も人口も都会への一極集中、地方の疲弊。
少子高齢化社会、人口減少、若者の県外流出、就職先が少ない・・・。
明るい話題が少ない秋田で若者たちがはつらつと活躍する姿から、元気をもらいました。
いや、明るい話題はあるんです。ほんとは、ささやかな自信や自慢は持っているんです。
学力テストの全国上位の成績、身長や体格の良さ、夏は涼しく冬は・・・。
美味しいお米やお酒や果物・野菜、魚や牡蠣などの海産物、温泉、森林、大自然。
賢くかわいい秋田犬。色白で気立てのいい秋田美人。
ひたむきに全力で頑張る素晴らしい高校生を、応援しつづける素直で優しい心根の県民性。
今年の夏は、わたしたちの心の奥に流れている「日本人のよさ」「日本のよさ」「故郷のよさ」を見直し、自身の生き方を考える機会にもなりました。
わたしがこれからやっていきたいことも、はっきり見えてきました。
子供たちが、自信と誇りを持って、自分自身のためと地域や社会のために、得意なことややりがいがあることを学び、生かしていくこと。
そんな教育の現場や地域社会の環境を整えていくこと。
自分の子供たちを育てながら、友達や地域の子供たちも共に応援していく。
周囲の保護者や地域の人といっしょに、コミュニケーションをとりながらよりよい未来を目指す。
金足農業高校野球部の快進撃は、爽やかな風を秋田や全国に注ぎこみ幸せをもたらしてくれただけでなく、これからの時代を生きていくわたしたちや子供たちにとって大切なことはなにか、示唆してくれました。
なかなか手に入らなかった「金農パンケーキ」を味わいながら、きっと二度とない素晴らしい熱い夏を惜しみ、まだまだ感動に浸っていたいと思います。