2008年02月14日

引越しの際に昔、書いた
なつかしいモノが見つかりましたので掲載^^
拙文失礼します・・・・
たら汁
ある老人が逝こうとしていた。
頬はやせこけ黒く小さい身体が、老人の苦労を物語っていた。
息子が付き添い、そっと父親に聞いた・・・
「なにか、食べてぇ物ねぇか・・・・」
かぼそく
「オラ、たら汁さ食ぃてぇ・・・」と言った。
その老人は、ここ南米の移民村へ移住した日本人移民第一号で、日本を出る前に東北の故郷で振舞われた、たら汁を思い出したのだった。
息子は、無理と知りつつも、なんとか父親の願いを叶えたいと思い、村人たちに協力を求めた。
村人は、快く引き受けてくれた。
問題は、ジャングルの乾季のこの時期に、材料の代用をどうするかであった。
そこで皆で知恵を出し合うこととした。
まず、味噌が無かった。
マンゴーをすりおろし、見た目だけでも味噌に近づけた。
野菜が無かった。
女たちは、タロイモ、キャッサバ、など煮炊きを工夫し、なんとか大根、人参の食感に近づけた。
白子は、抵抗があったのだが、村長の意見により山羊の脳みそで、代用することとした。
最後の問題は、魚であった。
果たしてこの時期、捕まるのか、あせりがあったが、それも杞憂に終わった。
男たちが、雄たけびを上げながら、2人抱えもある大きな淡水魚を持ってきたのだ。
準備が終わり、なんとか鍋が出来上がったが、村人全員が不安であった。
とても、たら汁といえる物では無いことを皆が知っていたからだ。
村人が見守る中、息子は老人の身体を優しく起こし、ふうふうと碗を冷ましてから、ゆっくりと飲ませた。
「たら汁さ・・・んめぇ・・・・」
老人は、目をとじたたまま、にっこりと笑った。
周りから、歓声が上がった。
皆が口々に
「良かったぁ、良かったなぁ」
とお互いをたたえる中、老人はすでに息子の腕の中で、軽くなっていた・・・・
異変に気づいてか歓声が、ざわめきに変わり、そして嗚咽が漏れはじめた。
その日、ジャングルは雨となった。
現在、
その鍋は、ぶら汁と呼ばれ日系人社会のソウル・フーズとなっている。
Posted at 2008/02/14 20:45:15 | |
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