怪奇月蝕

くつした家のベランダに、折り畳み椅子をせっちんぐし、エアコンの室外機をテーブルに、ビール飲みながら三脚立ていた。


遠くでは暴走族のコールが聴こえる。
踏切の遮断機、車のエンジン音。
色々な音が耳に響いてくる。
いつもの日常の中、鈴虫の音色が心を落ち着かせてくれる。

雲が切れるその瞬間まで、待とうと心に決めていた。
ぬるいビールを喉に流し込み、タバコを吹かす。

嗚呼、もう秋なんだなぁ。

そんな時にアイツがやってきた。

露出した肌に感じる、アイツの唇。
耳元で囁くアイツの声。

オイオイ、まだ居たんかよ。
もうてっきり、逝ってるもんだと思ってたぜ。

アイツの唇が、俺を狙う。
これはヤバい。

俺はとっさに部屋に逃げ込んだ。
しかし、アイツは追ってきた。
耳元に響くアイツの声。

逃げ場がなくなった俺はもう、最後の手段に出た。

螺旋状に形成された、グリーンな奴。
胸ポケットからライターをとりだし、そいつに火を付けた。

月は雲に隠れていた。

そして、アイツの声は聞こえなくなった。


秋の夜長。
三年越しの夜。
今宵の月は、如何なものか。

俺はその全貌を見ることなく、アイツの毒牙にヤられてしまった。
まぁ、買い置きの解毒剤があったから生き延びることができた。



皆も気を付けてほしい。
アイツはまだまだ生きていやがる。
10月だからって油断しちゃならねぇ。

月はまだ、雲に隠れていた。