今回が「天体撮影入門」の最終回になります。
天体写真の色々から始めて、機材のこと、撮影の準備と撮影の実践とお話しして
きて、今回が画像処理についてです。
惑星撮影と画像処理、パソコンを使った自動化などは別の機会にお話しできれば
と思います。
タイトル画像は、強風の時に撮影を中断して、一人撮影会をしたときのものです。
出発時には晴れていても現地では曇ったり強風が吹いたりと、中々思うように
撮影ができないこともあります。
さて、本題に戻ります。
撮影して持ち帰った画像ファイルを処理して1枚の天体写真へと仕上げます。
惑星などとは処理の方法が違うので、ここでは星雲や銀河などを数枚から数十枚追尾撮影したものを処する方法を
ご紹介します。この画像処理、天体の撮影と同程度に重要だと思っています。
特に、専用のソフトウェアを使い始めてから、そう認識するようになりました。
私は基本的にMacユーザーで、時々Linuxを使う程度です。
ただ、ドームのドライバがWindows用しか無いために、ドームと赤道儀を連動して天体撮影するときはWindowsの
ソフト(Sequence Generator Pro)を使って自動化しています。
今回ご紹介するのはMacOS用のソフトですが、一部、Mac用がないWindows用のソフトも出てきます。
まず、画像処理の流れ(ワークフロー)を簡単に。
私が初心者の頃は、専用のソフトを使っていませんでした。
だいたい次のような手順です。
(1) Lightroomを使ってRAWを現像してTIFFで書き出し。
(2) PhotoshopのレイヤーにTIFFを登録し、星の位置を合わせて加算平均で合成。
(3) 合成したものをTIFFで保存し、PhotoshopかLightroomで調整。
(4) TIFFをLightroomに登録してJPEG書き出しとファイル管理。
撮影時間が長くなると、Photoshopで星の位置を合わせるのに限界が出てきます。
Photoshopでは縦横への平行移動はできますが、最初の写真と最後の写真の間の時間が長くなると視野が少しだけ
回転するので、平行移動だけでは星の位置を合わせることはできなくなります。
それで、天体写真用のソフトを導入しました。
私が使っているのはPixInsightというソフトで、Mac、Windows、Linuxの3種のプラットフォームで動作します。
メニューやマニュアルが英語なのですが、機能が非常に強力なのと、世界中にユーザーがいて新機能もよく追加されます。
国内では「ステライメージ」というソフトを使われている人が多いようです。
こちらはWindows専用で、私は使ったことがありません。
PixInsightは230EUR、ステライメージは30,240円でどちらもお安くはないので、体験版使用の後、購入を決めれば良いでしょう。
専用のソフトは合成だけでなく、以下で述べる画像処理の様々な機能を備えています。
フリーのソフトで合成だけをするならば、Deep Sky Stacker(DSS)が良いでしょう。Windows用だけです。
"Deep Sky Stacker"で検索すると、詳しい使い方を解説したサイトを見つけられます。(日本語のページもあります。)
DSSはRAWをそのまま扱えるので、ダーク減算と合成までこちらでやって、現像から後はPhotoshopやLightroomを使って
も良いでしょう。
PixInsightを使うときの私のワークフローは次の通りです。
導入、フォーカス、ガイド、撮影を自動化するINDIやSequence Generator Proを使う場合は、ファイルフォーマットを
FITSで保存します。RAWと同じくベイヤー配列(RGGB)の画像で、各画素14bit整数ではなく、32bit小数のデータになります。
FITSとはFlexible Image Transport Systemの略で、NASAで保守されているオープンなフォーマットで、天体画像でよく
使われます。RAWの様な画像のデータだけでなく、ヘッダ部分に天体写真独自のデータを保持できる様になっています。
(1) 生データ(FITS)の補正 --- バイアス、ダーク、フラットフレームを使用。
(2) Debayer --- ベイヤー配列の画像から、各画素RGB 32bitの画像へ変換。
(3) 基準となる画像を選択し、他の画像をそれと重ねるために修正。
(4) (3)の複数枚の画像をコンポジット(加算合成)。
ここまでがプリプロセスと言われる段階で、この後が「画像処理」になります。
(5) かぶり補正。(光害などで画像の明るさ・色合いが一様でないのを補正)
(6) カラーバランス。
(7) Deconvolution --- 星がぼやけて広がるのを引き締める。
(8) ストレッチ --- 明るさとコントラストを調整。
(9) ノイズ・リダクション。
(10) 色合い、彩度を調整。
(11) TIFFで書き出す。
(12) LightroomにTIFFを登録し、微調整後、JPEGで書き出し。
PixInsightには多種多様なプロセスが組み込まれていて、ノイズ・リダクションだけでも6種類ありますし、
他のプロセスの組み合わせでもノイズ低減処理が可能です。
PixInsightは天体写真だけでなく、下の画像のような星野写真にも使えます。
また、下の写真のようにネット上にあるデータベースを参照して、写真に天体のカタログ名を入れることもできます。
これは前に上げたおとめ座銀河団の写真です。(M87銀河が見えますね。)
最初に書いたPhotoshopを使う合成に限界を感じた時は、DSSを試して、それでも満足できない時は、専用のソフトに
チャレンジしてください。世界中の天体写真家の大多数はPixInsightを使っています。
天体撮影は機材を揃えるだけでも大変ですが、観望地まで行って設置して撮影を始めて、夜通し氷点下の中で過ごすことも
あります。タイトル画像のように、撮影の準備を終えた後や撮影中に天候が急変して撮影ができなくなることもあります。
そんな時は夜景を楽しんだり、早く帰る時は遠回りしてドライブを楽しむなど、別の楽しみを見つけるようにしています。
テキストが多くてわかりにくかったかもしれませんが、このブログのシリーズで天体撮影の実際が伝われば幸いです。
最後に、お気に入りの一枚を。D810Aのファーストライト(2015年5月)で撮った天の川と愛車のツーショットです。