
この時期に物知り顔で,いい加減なカキコは甚だ不遜であるが,重々承知の上で書いてみた。自分なりに情報の精査はしたが,所詮素人による聞きかじりの二次情報の寄せ集め。毎度の如く通りすがりのオッサンの蘊蓄・戯言として,受け止めてくだされば幸いだ。
死守すべく決死隊と化した現場スタッフの献身に敬意を表し,ご家族を含め悲壮な心痛を想像すると,胸が締付けられる。
過去に何が起こったか? 今何が起こっているか? これから何が起こり得るか?中立的な情報の質と量が,報道発表だけでは圧倒的に不足していると感じる。また,偶然か意図的か重要な肝心な事項が欠落しているもどかしさに,当初より悶々としていた。
ガキの頃より,これだけはさすがに作ろうとは思わなかったが,核兵器や核エネルギーには興味を持って,自分なりに調べていた。外野の分際だが,まさかこんな形で自分の知識で思案を巡らすとは,夢にも思っていなかった。
ご存知かと思うが,先ずは原子炉の原理と構造のおさらいから。報道にはこれが欠けていて,これ無くしては判断はできない。なお敢えて凄まじくおおまかに,かつ数値等も含め東電と福島第一原子力発電所に特化して省略するので悪しからず。したがってここでの記述は,他の原発や,別方式の原子炉にはあてはまらない。
●原理
○核分裂:
ウラン235元素は中性子が当たると,割れて別の元素に変化する性質を持っている。これを核分裂反応という。そのさいに熱エネルギーと中性子を放出する。ついでに有害な放射線と放射性物質も発生する。別の元素の多くが放射性物質(=放射線を出す元素)である。
○中性子:
鉄砲玉のようなもので,こいつが別のウラン235元素に当たると,当たったウラン235元素は割れて,熱エネルギーと中性子を放出する。
○連鎖反応:
核分裂反応がドミノ倒しに,どんどん続くのが「連鎖反応」で,膨大な熱エネルギーと中性子を放出する。
○臨界質量:
連鎖反応を持続させるには,ある一定量以上のウラン235を集める必要がある。この量を「臨界質量」という。参考例として広島型原爆で12kg,体積にしてゴルフボール12個分(比重20弱)相当。
例えば腰に拳銃をぶら下げたカウボーイが,同じ列車に乗り合わたとする。全員短気ですぐに銃をぶっぱなす。撃たれた奴はやられ際に,必ず銃を2,3発ぶっ放す。がら空きなら弾は外れ,撃ち合いはたまにだが,ぎゅうぎゅう詰めなら、撃った弾は必ず他人に当たり、皆殺しになるまで続く。この時の人数と人口密度が臨界質量にあたる。
○原子炉と原子爆弾:
連鎖反応を意図的に起こさせ,核分裂で発生する膨大な熱を利用したのが、原子炉と原子爆弾。
原子炉と原子爆弾の違いは燃料に占めるウラン235の割合(3%:90%),反応速度(制御下でゆっくり:瞬間で爆発的)で,原子炉用の核燃料をいくら集めても,核兵器レベルの威力の核爆発は起こらず,爆弾にはならない。
●原子炉の構造 (東電・福島第1発電所の場合)
○燃料ペレット:
純度3~5%のウラン235を直径1cm,長さ1cmの円柱形の磁器状に焼き固めたもの。2700度で溶ける。
3号機のみプルトニウム純度2.7~5.3% + ウラン235純度 1.1~1.3%(MOX燃料)
○燃料棒:
外径14ミリ,内径10ミリ,長さ4mの金属パイプに燃料ペレットを350個スプリングで押さえながら詰め込んだもの。パイプの材質はジルコンの合金ジルコニウムで厚みは0.7~0.8ミリ。1200度で急速に酸化し脆くなり溶ける。
○燃料集合体(3号機の例):
支える燃料棒を縦横8本または9本,つまり計60本または74本を4角形に金属板の外皮で束ねたもの。真ん中に芯になる太いパイプが通っている。長さ4m35cm。これが実際に燃料を扱う最小単位となる。燃料集合体は548体で内約1/3の240体がプルトニウム配合のMOX燃料。
○制御棒:
中性子を吸収する材質で作られた長い金属棒。本体部は燃料集合体とほぼ同じ長さで,断面が十字形。
喧嘩の仲裁役みたいなもので,燃料集合体の間にこれが入ると,中性子が吸収され,他の燃料集合体まで飛ばなくなり,連鎖反応が止まる=原子炉の運転停止。
集団で撃ち合いの最中に,当人同士の間に壁を立てると喧嘩が収まるみたいなもの。
燃料集合体の約1/4の本数で97~185本。
通常運転時は燃料集合体の下に全て引き抜かれた状態。停止時は燃料集合体の間に挿入された状態。ハフニウム製で融点は2222度。
○炉心:
燃料集合体と制御棒で構成され,核分裂の連鎖反応を起こす。臨界量を遙かに上回るウランが格納されている。
○圧力容器:
ウラン69~132トンが詰まった燃料集合体400~764体と制御棒が入った容器。エネルギーを発生する炉心が入っており,内部に水が満たされ,沸騰した蒸気を発電用に取り出す。
○一次格納容器:
圧力容器を囲む金属製密閉容器。放射性物質漏れを防ぐ第2の砦。 耐圧は4気圧。
○二次格納容器:
一次格納容器を囲む重量鉄骨・鉄筋コンクリート造りの密閉ビル。放射性物質漏れを防ぐ最後の砦。常時大気圧以下に保たれ,クラック等の破損時も内気は屋外に出ない。
テレビの専門家解説者は「雨風を凌だけのものでペラペラで,別に無くても良い」と論じているが,格納容器の漏れや,使用済み燃料貯蔵プール内の剥き出し燃料棒からの放射性物質,放射線の漏洩を防ぐ最後の砦。
○使用済み燃料貯蔵プール:
二次格納容器の最上階に位置するプール。使用済みまたは点検中の炉の燃料集合体を貯蔵。テレビの解説・説明図からは当初すべて省略されていた。
3号機例で1~6号機の全燃料合計の最大2倍まで貯蔵。燃料間の仕切りはボロン(ホウ素)添加アルミニウム,またはステンレス製ラック。アルミの融点は660度なので水がなくなれば簡単に溶ける。ボロンは中性子を吸収し臨界(連鎖反応)防止用。
縦・横・水深 10mで水量1200~2000トン,燃料棒は百~千トンオーダーの量。炉内の燃料棒より吹きさらしの大量の使用済み燃料のほうが,遙かに深刻で水蒸気とともに放射性物質を放出する。
現在の収容中は燃料集合体数で,1号機:292,2号機:587,3号機:514,4号機:1331(使用済783+使用中548)。燃料棒数ではこれの80倍前後,燃料ペレット数では28000倍前後。
○発電の原理:
圧力容器から発生した加圧蒸気をタービン建屋に導き,タービン(羽根車)に吹き付けて回転させ,発電機を回す。
○一次冷却:
タービンを回した蒸気は海水の中を通るパイプ内で冷やされ,圧力容器に戻る。この蒸気と水は放射性物質を含むため,一生外に出ることはない。
○二次冷却:
二次冷却水として海水を海から吸いこみ,蒸気を冷やした後,海に温排水として捨てる。
福島第一では取水口の位置が水深4m。2.3m以上引き波(津波時の海面低下)では取水不能。
●関連用語
○放射性物質(放射能):
人体に有害な放射線を出す物質。
○防護服:
放射性物質が体に付着や吸いこむのを防ぐべく,フード・手袋・長靴と共に密閉した雨カッパ。
放射線は防げない。作業の効率が抜群に下がる。放射線が強い所では数十秒~数分が限度。数十人の作業員をずらりと並べ「次オマエ,次オマエ」と人海戦術で作業する。作業員はダッシュで作業箇所に行き,瞬間的に作業し,ダッシュで逃げ戻る。
○水素爆発:
燃料棒パイプが1200度以上になると,急速に錆びる(酸化)。回りに水蒸気があるとH2Oである水の酸素が奪われ,結果的に爆発しやすい水素が発生する。水素と空気が混じり火種があると爆発する。
水素が発生したということは,燃料棒パイプが1200度以上になった証拠で,パイプが溶け熱源である燃料ペレットがドロドロになり溶け出ていると類推できる。
○水蒸気爆発:
超高温の物質と水が触れると,急激に水蒸気が発生し爆発的に膨張し,爆薬並に回りを吹っ飛ばす。
○使用済み燃料棒:
ウラン235または(3号機はプルトニウム239も含む)が概ね核分裂し,発電には適さなくなったもの。無害になった訳では決してなく,新たに生成されたプルトニウム239他の核物質を多量に含む。新品より遙かに毒性は強い。パイプ外周にも放射性物質と化した水垢等が付着している。
○崩壊熱:
核物質は少量でも自己分裂を続け,熱と放射線を放出する。
使用済みの燃料にはウランやプルトニウムが核分裂してできた別の核物質も多く含まれ,それも崩壊熱を出す。現在冷却に必死になっているのはこの熱。条件によっては2800度になる。
○水:
燃料棒の溶解防止と中性子の減速・反射(連鎖反応を促進),中性子以外の放射線を遮る。
水があると燃料棒は溶けないが,連鎖反応(再臨界)が起こりやすくなる,なければ燃料棒が溶けるジレンマがある。
・・・というように,思いっ切り省略・簡単にしたつもりだが,やはり結構長くなった。
色々惨事が起こってしまったが,国・企業・チームを含めて,体質・メンバー・態勢・技術・実行力が今回の事故のダメコン(ダメージ・コントロール)に必要とされるレベルに,徐々に近付きつつある。
因みに設計はGE,施工はGE(1,2,6号機),東芝(2,3,5,6号機),日立(4号機)で着工が1967~73年,運転開始が71~79年。
既に40年経っており,設計・建造当時の技術者は全く残っていないだろう。当然ながらマニュアルに従った行動しか取れないメンバー構成と思われるし,平素より逸脱は厳しく諫められていることだろう。設計どおりに動いている間や,設計どおり壊れている間は,マニュアルに瑕疵がない限り何とかなる。
しかし一歩マニュアルを逸脱した事故が起こると,設計者でもない限り怖くて行動が取れなくなる。極限状態でのご苦労が痛いほど分かる。
・・・で私なりの全く公表されていない,肝心かつ解けない疑問は
●スクラム(緊急停止)で本当に制御棒を完全に全数上げられたのか?
どうやって確認したか?
・・・BWR(沸騰水型炉)は制御棒をモーターで上に上げる構造となっている。
停電時には,バックアップの窒素ガス圧で上げる,アクチュエーターが付いているが,震度7が1分間続く最中に100本以上が揃ってうまく上がるか?
ちなみに動力源喪失時には,沸騰水型の場合,制御棒の挿入に関しては,「フェイル・セーフ」ではなく「フェイル・デンジャー」側の動きをする。
因みに発電所の内,原子力の比率が非常に高いフランスと関西電力では,全数が制御棒を上から挿入するPWR(加圧水型)。
●炉心注水の流量と圧力は?
・・・スクラム後に,十分に流量が確保されていれば,短くて2~3時間・1日程度で炉心温度は100度を切る筈。もし流量が十分なのに熱量が大きいなら,臨界したままでは?
●2次冷却水まわりの損傷や,復旧の見込みは全く報道されないがなぜ?
引き波による海面低下の影響を想定しない設計だから?
・・・現在の放射性物質のたれ流しを終焉させるには,絶対必要な冷却水循環系統。
●冷却海水は海に戻している?
●臨時的に一次冷却水のパイプの先を海に漬けて,熱交換の閉ループを作れないか?
●いまさらだが,先ずパワー確保がダメコンの基本。マニュアル逸脱だが,どれか一基だけでも低出力運転できなかったか?
●システム全体で生きている機能,使えない機能(修繕可能/不可能別)の一覧
●検査合格時の審査書類では
「原子炉冷却材喪失」においては、燃料被覆管の温度の最
高値は9×9燃料(A型)で約654℃、9×9燃料(B型)で約638℃、MO
X燃料で約647℃であり「ECCS性能評価指針」に示された制限値1,200℃を下回っている。
と,空炊きになろうが燃料棒が溶ける筈ないが,どうして溶けている?
まして7ヶ月以上冷やした使用済みが溶けているのは???
なお審査書類上は放射性物質による災害は,蒸気噴出時が最悪条件で100ミリ・シーベルトを上回ることはないとのこと。
●再臨界時の対策は着手済み? それとも起こりそうになったら,それから調査・検討する?
●他電力会社,GE,元設計者等も巻き込めないか?
●現地スタッフの,被曝量の貯金は,ほぼもう使い果たしていると思うが,交代キーマン,スタッフ,作業員は確保済み?
・・・これは日本全国の関係者に「義勇軍」として続々招集がかかっている。
勝手なことを述べたが,外部電力の供給と,新設含め二次冷却系,監視・制御系等の緊急部位の暫定的な修復・代替機能の確保が,うまくできるといいのだが・・・
現場の努力とオール・ジャパンの総力で,火急の事態は何とか切り抜けられそうだが,最悪のケースを想定すると,再臨界になる。
中性子を吸収するホウ酸を多量投入しており,臨界量のものがうまく1箇所に集まる確率は低そうだが,「絶対起こりえない5重の砦」がいとも簡単に敗れたので警戒は必要だろう。
1999年には東海村で全く核物理の知識のない作業員が,バケツとひしゃくと洗濯槽ぐらいの大きさの缶のみの道具で,意図せず臨界を起こし即席の原子炉を作り出してしまった。その時でウランは18kg。それに比べ桁違いの集積量で油断はできない。
最悪シナリオは
1.各建家上部の使用済み燃料棒の溶融(既に起こっている)
2.溶けたドロドロの核燃料(スラグ)が溜まる
3.塊が臨界量を越し,連鎖反応が起こり急激に大量の熱・放射線を発生
4.連鎖反応が起こった直後に,爆発的に破裂して回りを吹き飛ばす。水があれば水蒸気爆発で威力は増す。
5.全員撤収,以後放射能汚染で接近不能になる。
6.無人になり圧力格納器内への注水中断。
7.炉内燃料溶融
8.炉内で再臨界し急激に大量の熱・放射線を発生。
9.圧力容器爆発し一次格納容器,建家ごと吹っ飛ばし,燃料含む放射性物質をぶちまける。
これが1~6号機の使用済み燃料プール,運転中であった1~3号機の原子炉で順次起こる。
1箇所が臨界になれば,「刀折れ矢尽きる」で為す術はなくなる。
誘致の利便上,6機が集中しているので連発という意味ではチェルノブイリを上回る。
ただし,発電用の核燃料はウラン235やプルトニウム239の純度が3-5%と低く,再臨界を起こしても塊が一瞬で吹っ飛んで,臨界状態を維持できなく,破壊力は小さい。勘では小型戦闘機の翼に吊り下げる500ー1000ポンド爆弾(250-500kg)程度の威力で魚雷を下回ると思う。
原爆の威力が大きいのは,ウラン235の純度が90%以上で,爆薬で瞬間的に臨界質量を発生させ,ウランの回りには「タンパー」という中性子を反射させる物質で囲み,さらにぶ厚い鋼鉄で囲んである。
これは圧力を高め臨界状態を暫く維持して,より多くの量の核分裂を起こす構造になっている。ちなみに広島型原爆で核分裂したウラン235は1kg。
よく再臨界になれば核爆発が起こると思われているが,全く異なる。
全くの私の勘だが致命的被害としては
●瓦礫とかの飛散 半径50ー100m
●放射線(特に中性子線) 半径50-350m
健康被害としては
●ヨウ素同位体等固形物の散乱 半径10km
●セシウム同位体等水溶物の拡散 半径30km
以後半径30km以内は立入禁止,安全度を見込めば米軍基準の90km(50シーマイル:海里)以内は,居住できなくなると思う。
セシウムは水溶性で水蒸気とともに拡散する。150km程の遠方でも,局所的に高濃度の「ホット・スポット」ができる場合もあるが,首都圏まで被害が及ぶことはないと思う。
本当のところを言うと,現地の本部,各箇所のライブ・カメラ映像・音声や測定値が,インターネット配信されると,「つつみ隠さず」が実現できるのだが,思いっ切り不都合で無理だろう。
私自身は,原発推進/反対のいずれでもなく,エネルギー需要に比べ資源の極端に少ない日本では,これまでは必要悪と認識していた。恩恵だけ享受しながらの否定は,さんざんHしてから「このふしだらなメス豚!」と
罵るようなものだろう。現実的には原発抜きではCO2削減目標実現は語れない。
報道に顔を出す専門家は大学もしくは研究機関に属し,ほぼ全て原子力の開発推進側に属する。当然ながら原子力の安全性を否定すれば,自分の組織や自身の存在を否定することになり,メシの種を失うことに繋がる。
逆に原発反対側の人間は悪戯に不安を煽り,即時全停止の要求と電力状況を考えれば,現実的ではなく極端すぎ,テレビの報道には出せない。
残念ながら日本には,中身を知り尽くした中立的な立場で本音でコメントできる人は僅少かと思う。またいたとしても,テレビには出してもらえないだろう。強いて言えばアメリカの審査期間であるNRC(米原子力規制委員会:Governmental Nuclear Regulatory Commission)のOBあたりでも引っ張って来るぐらいしか思いつかない。
大手マスメディア自体,電力会社は超大口スポンサーゆえ,お客様の悪口や都合の悪いことは言えず,腰が引ける。国営放送とてズバリは報じない。
そのようなしがらみのない海外メディアはズバズバ言うが,実際に起こり得るとはいえ,最悪の事態を強調しすぎるきらいがある。日本と海外の報道の中間辺りが妥当な気がする。
●テレビ出演の専門家の姿勢で当初より気になっていたこと
○炉心の余熱を冷ます
停止後の原子炉の発熱は核燃料の崩壊熱により,高温・大熱量を長期間発するが,「余熱」という表現を多用していた。これでは風呂の残り湯やストーブを消した後の温もりのような錯誤を招き,放置しても大事に至らぬ印象を与える。
○使用済み燃料貯蔵プール:
原子炉建家の断面図で全局おしなべて建屋上部の,使用済み燃料貯蔵プールの存在を省略した図面を使用。1号機,3号機の建家上部が水素爆発後も同様だった。放水がメイン・イベントになってから,始めて記載する
ようになった。
また水が入れば安心という風潮のようだが,実際には燃料貯蔵プールは炉心剥き出しの原子炉そのもので,平時ならば世の中がひっくり返る事態。この状態で「格納容器は健全です」は無意味。
○建家の爆発:
専門家の解説「雨風を凌ぐだけのものでペラペラで,別に無くても良い」は極めてお粗末。
実際には英語名では二次格納容器(Secondary Containment Vessel)で一次格納容器を囲む重量鉄骨・鉄筋コンクリート造りの密閉ビル。
常時大気圧以下に保たれ,一次格納容器の破損時も内気を屋外に出さない構造。使用済み燃料貯蔵プール内の剥き出し燃料棒からの放射性物質,放射線の漏洩を防ぐ最後の砦。
○MOX燃料(プルサーマル燃料):
3号機の燃料は,MOX燃料(ウラニウムとプルトニウムの混合燃料)だが,これについての言及は当初は全くなし。プルトニウムの毒性はウランの2倍で,体内摂取すると極めて危険。ちなみに使用済みウラン燃料にもプルトニウムが多く含まれる。
○燃料棒の冷却
炉心,貯蔵プール共,燃料集合体は縦向けになって水に浸かっている。燃料棒は必ず全部水に浸かる必要があるが,露出している危機について語らない。まるで半身浴のように,下部でも浸かっていれば,全体が冷えるような説明をしている。建家から立ち上る湯煙は,常時水溶性のセシウムも湯気となって放出し続けていることの認識が感じられない。
○X線検診,CTスキャン1回分より少ない・・・等の表現。被曝した累積時間が1時間以内の場合のみこの比較が成り立つ。X線検診などは1発限りに対して,放射性物質が近隣にある場合は連続して被曝するので,累積値は増加しつづける。放射線被害は累積値なので例えば400mSv/h(毎時ミリシーベルト)を延べ18時間浴びると数ヶ月以内に100%確実に死亡する。
○深刻度の説明:
建家爆発後もスリーマイルを下回るレベル4の表現。使用済み核燃料棒の溶融に触れないのは不自然。
使用済み核燃料を吹き上げたのだから,スリーマイルとチェルノブイリの中間であるレベル6が妥当。
○想定を上回る:
「人知を越えた災害,想定を越えた災害」の異常に頻繁な強調
確かに巨大で,一般大衆としては「想定を越えた」災害ではあるが,トラブルが強烈な二次災害を引き起こすものに関しては,「想像しなかった」「都合上想定値を押さえた」のすり替えの免罪符になるべきではないだろう。
これから起こる事柄も含め,今後膨大で長期に渡る補償問題が控えている。
ちなみに「原子力損害の賠償に関する法律」(原賠法)では,原子力事業者は「異常に巨大な天災地変」と「社会的動乱」の結果は免責される。欧米では戦乱のみ免責が多い。
今後は補償限度額を設定してでも,災害時にも責を問うのが,設計・運用・事故対処の緊張を維持する上で必要な気がする。
過去の検査でも,点検・停止中にも関わらず,制御棒全数が抜け臨界中にしばらく気付かなかった,別の事例では点検・停止中も何本か抜けていた・・・等々の歴史がある。
定期検査で発電機をいざ使用しようとしたら,部品の組み付けミスが原因で使用不能だったこともある。予備含めた発電機が,使用不能になる確率は100万分の1とのことで審査合格になっていた。
はたして万全の備えだったと言い切れるかは微妙な所だ。
落ち着いた頃合いで,悪い情報ほど早く上がる体質への転換が期待される。同時に審査・検査機関の中立化も討議されるであろう。原子力安全保安院は経済産業省の下部組織で,原子力開発を推進する側にいる。構成員も農水省出身とかも含まれ,専門家とは限らない。現状は電力会社側の作文の添削と,丸投げ検査に留まっている。
また安全基準の敷居も現状に即さず極めて低いと思う。
例として耐圧規格。
極限状態ではA気圧まであり得る-->安全係数3倍とするとB気圧の耐圧が必要-->設計が大変で高コスト-->上司に相談-->何気圧なら作れる?-->C気圧なら何とか-->C気圧で作れ-->あらゆる状況でも起こり得るのはC気圧の0.9倍が最大との作文とシミュレーションのパラメーターを用意-->耐圧は1/0.9倍であらゆる状況においても,安全基準XX条Y項を満たし安全と判断する。-->審査合格
現実では設計耐圧の倍に達した。
気密審査では窒素ガスを封入後,時間をおいて残圧を測定するが,内緒で減圧分を補充して合格した経緯もある。
別の例では,審査時の解析・シミュレーションでは
「原子炉冷却材喪失」においては、燃料被覆管の温度の最高値は9×9燃料(A型)で約654℃、9×9燃料(B型)で約638℃、MOX燃料で約647℃であり「ECCS性能評価指針」に示された制限値1,200℃を下回っている。
となっているが,使用済み燃料でさえも,いとも簡単に1200度を越し水素が発生し,燃料棒が溶融したと類推される。
建設承認時の最大津波高の想定は4.2m。これは1960年南米チリ沖地震で発生した津波が,三陸海岸に到着時に6mになったのを基準に設定された。チリ沿岸では16mだった。
地球を半周して遙々やって来た津波を「想定される最大の津波」とするのは奇異に感じる。
東北沖を震源とする津波を想定するのが本来の筋だろう。チリ地震を参考にするなら,チリ沿岸で観測された16m高を基準にするのが自然だ。
今更だが,もしそうしていたら,今回も「原子力は絶対安全です」と言い通せただろう。今回の福島第一を襲った津波は痕跡から14m強であった。
二次冷却水である海水の取水口についても,取水口は水深4mで海面が2.3~2.6m低くなれば,取水不能になる設計。津波の引き波については,過去6m低下の実例があるが,設計想定は3.6m。
これがやられると全ての冷却が不能になりカタストロフィー(大惨事)必至なので,マージンはマイナスではなくせめてプラスは欲しいところだ。
安全係数も非常に低い感がする。3倍は欲しいと思うが,致命的箇所でも10~数十%オーダーが多い。それを越えると「想定を越えた」「想像を絶する」という免責になる。
また設計上では大丈夫でも,製作段階において下請けのレベルが深く,末端の作業まで設計レベルが維持されるのは希であるとことが多い。
現在,電力供給に望みを託しているが,配線,スイッチ,コントローラー,モーター,サーボ,センサー,モニター等,構成部品の全てが揃って始めて動く巨大システムゆえ,依然予断は許せない。屋内機器は防水構造ではないため,海水まみれなのが心配だ。
身近に置き換えれば,放水でびしょぬれになった火事の焼け跡で,どれだけの電化製品がまともに動くか想像すればよい。幸運を祈るのみだ。
3月19日現在で4号炉の貯蔵プールは,水で満たされているとのことだが,そもそも満たされていれば水素爆発が起こるわけはなく,にわかには信じられない。燃料棒の溶融と,燃料ペレットの飛散は起こった筈だ。
4号炉の貯蔵量は3号炉より遙かに多く,崩壊熱量も10倍なので不思議だ。
また冷却系も年単位の期間で維持が必要で,垂れ流しではなく海水による本来の二次冷却系の構築が必要だ。
炉心も制御棒が完全に上がっていない場合は,臨界中の疑いも捨てきれない。
現実に160km離れた筑波での14日夜~15日朝の観測データで,半減期8日のヨウ素131に対して半減期2.3時間のヨウ素132の比率が大きく,現在も臨界中の可能性も捨て切れない。
各地での詳細な元素別観測データが一切公開されていないのも,自己判断,自己責任による行動の機会を奪い,海外を含め疑心暗鬼と風評を招き,不安を増大させる結果になっている。
今後日本の原子力ビジネスは難しいだろう。保守・廃炉・廃棄物処理に限定され,研究炉の建設すら住民の同意は望み薄。
開発者達の活躍の場は中国に移されるかも知れない。
近隣の農業・酪農,東北地方・北関東の漁業は実害・風評被害を含め,誠にお気の毒だが,当分の間苦境に立たされる。
スーパーでガイガー・カウンターを手に,買い物をする主婦の出現も不思議ではない。
緊急処置後は100%廃炉確定だが,それとて20年近く循環冷却を要す。解体コストは通常で建築の数倍で,もし放射性物質をぶちまけた場合は天文学的数字となり,鋼鉄,鉛,コンクリートで密閉した「震災メモリアル廃墟」となる。
幸い日本中の関係者が投入され,随分と強力な態勢になり,収束の明かりが見えてきそうだが,現場スタッフのご無事を祈るばかりだ。
最後にこの文章も当然ながら風評の一つに過ぎないことをお断りしておく。