
巷には「XX商法」なるものが蔓延っている。
バブル期には「原野商法」、伝統的な長寿命もので「霊感商法」、そして世界制覇を成し得た日本企業が誇るものには、皆様ご存じの「プリンター商法」なるものがある。
ここ数日は日本全国の「おとーちゃん」方は、「クソー。また詰まりやがった」「ずれた」で年賀ハガキをパーにしたり、突然の「インク切れ」で車を飛ばし家電量販店のはしごへ・・・と、さぞかし腹わたを煮えくり返しながら、苦行にいそしんでいらっしゃることだと思う。
インク売り場には、端が霞んで見えるほどの膨大な種類のインクが。それでも少しでも旧型や、マイナー機種になれば、適合品に遭遇するのはUFO探しに近い確立となる。やっと見つけて大量に買い込んでも、何割かは使用不可・・・なんて。
例に漏れず、私もその一人。大のプリンター嫌いだが、年末はやむを得ず使用する。
家庭においては、以前まではインク・ジェット型をかなりの台数を買い換えたが、ノズルの掃除ばかりでインクを消費し、残量十分でも少し使わないと固まり、イザという時のためのスペアも固まっていた・・・馬鹿高いインク・セットを凄まじい数を消費してきた。
おまけにプリンター本体ROMに、自爆カウンターがあり、あるオン・オフ回数や枚数に達すると、それ以後使えなくなるようにできている。
本体を安価にする代わりに、意図的に本体価格を上回るインク価格や、自爆機能にほとほと嫌気がさして、年賀状専用ながらも、数年前からカラー・レーザーに換えていた。
「やっぱりレーザーはええわ」
と満足していた。
時々2~3枚一度に吸い込んで、1割程度は年賀状をパーにしてくれるものの、インク・ジェット式のストレスに比べれば、遙かにマシだった。
・・・が、ついに私も「プリンター商法」の洗礼を受けることになった。
「トナー交換」メッセージ出現。
「ん? まだカタログ値のA4印刷可能枚数の、3割程度しか印刷していないのに・・・」
印刷は専らハガキなので、A4の4倍以上の枚数はプリントできる筈だ。しかもベタの面積も意図的に抑えている。
しかも4色全部で警告が出ており、解せない。カタログでは個別に交換可能で経済的と謳っていた。
慌ててトナーの価格を調べると、4色揃えると、本体が値下がりした現在では、同じプリンターの新品がなんと、2台も買える。勿論それにはトナーが付属している。
ネットで探すも、国内はどこも強気価格だ。リサイクル・トナーであれプリンター価格を上回る。
USでは、運送費と関税の都合上、日本国内価格とは異なる。早い話が毎度の内外価格差、圧倒的に安い。純正で日本価格の4割、リサイクルで2割程度だ。送料を含めても十分メリットがあるが、いかんせん時期が悪い。クリスマス休暇に突入してしまう。
USやEU圏では、12月に入ると国全体がソワソワして、クリスマスの準備が最優先となり、まともに仕事しないので、年内入手は絶望的だ。
あと40枚ほど刷れれば良いので、何とかならないものかと、悪戦苦闘が始まった。
コピー機では定番の技、トナーを振って再装着するが、受け付けてくれない。
トナーを外してよく見ると、残量は十分にある。
「さては自爆機能があるな」
と、リセット法をググッてみた。
分かったことは、トナーのカッセット内にカム・ギヤ(通称 トナー リセット・ギヤ、フラッグ・ギヤ)があり、その位置で寿命を関知しているとのこと。裏技として、それを新品位置にずらせば再使用可能。
私の例(HL-3040CN、トナー: TN-290)を、物理的にリセットするには
1.トナー・カートリッジ横のネジ2本を緩める
2.プラスチックのロック爪を解除し、カバーを外す。
3.右端のギヤを一旦抜き、反時計回りにずらし、バネが掛かる場所を新品位置(右端の溝)にする。
4.カバーを付ける
尚このギヤの回転方向は時計回りで、使用中位置まで回ると、それ以上は回転しない。歯車の歯は360度全周ではなく、一部分にしか刻んでいない。
・・・で、バラしてみたが、そのカム・ギヤがない!
プリンター付属のトナーには、それが省かれていたのだ。つまり、非公開のこの裏技を使うにも、必ず1度は本体価格の2倍するトナーを購入しなければならない。
「売り上げ3倍増秘技」が経営戦略として、漏れなく付いて来るのだ。
何だか1台売れる度に
「また一匹マヌケが釣れた」
と、ニヤついている姿が目に浮かんで来るような気がする。
メーカーにとって「日本のお客様は神様」。日本人は「最先端技術の結晶。厳格な品質管理の恩賜」として、素直に高い授業料を払ってくれるが、それに反して欧米のオッちゃんは黙っていない筈だ。「ダーティー・プレーには毅然と戦う」ヤンキー気質。やはりあった。
このカム・ギヤと補充用トナー粉が、ちゃんと売っている。ギヤは0.4$から。通称は「Toner Reset / Flag gear」。トナー リセット/フラッグ ギヤ 以外に、日本では通称としてスターター・ギアとも呼ばれることもある。
今回はギヤだけが欲しいが、間に合わない。国内でも通販であるが、弱みにつけ込んだ価格でUSの10倍ほどで送料も馬鹿高い。
・・・で何とか自力で切り抜けるしかない。
トナー・カートリッジをよく見ると、透明の小さな丸窓が両端に付いている。特許情報を調べると、カートリッジ内に掻き混ぜる回転羽根があって、それが掻き上げたトナー粉が光を遮断し、その遮断時間で、残量関知しているらしい。
プリンター本体側にも、LEDとフォト・トランジスターらしき受光素子がある。
カムに付いている円盤の円周上に半円形の切り欠き(光を透過するスリット)が2箇所ある。
この切り欠き位置は、透明の小さな丸窓と一致しており、カムが回転すると、丸窓を塞ぎ、一定時間遮光するような構造となっている。
歯車の歯は360度全周ではなく、一部分にしか刻んでいないので、使用中位置まで回ると、それ以上は回転しない。
この機構とトナー側のカムを利用して、
1.トナー新品購入時にはカムが新品=透過位置にある。
2.ウォーム・アップ運転でトナーのローラーが回転すると、カムが回転し、光学的に一瞬小窓を塞ぐ。
3.さらにカムが回転し、使用中=透過位置に移動する。
4.プリンター本体は遮光された時間により、トナーが新品に交換されたと関知する。想像だがこの遮光時間で、トナー・カセットが標準容量か大容量かの判断もしているのではと思う。
5.プリンター本体ROM内の印刷カウンターがリセットされ、ゼロとなる。
6.印刷の度にプリンター本体ROM内の、トナー/容量別印刷カウンターが加算され、警告規定枚数に達すると、「間もなくトナー交換」=残量少警告を表示する。
7.交換規定枚数に達すると、印刷不可になる。新品に交換しない限り、以後絶対に動かない。この枚数は内規で決めた数値で公開していない。私の場合は「間もなくトナー交換」メッセージは新品時から出ていた。警告というより「早くスペアを買わないと、酷い目に遭わすぞ」といった脅迫に近い。
昔のモデルでは「GO」ボタンを押せば、印刷品質は自己責任として、強制印刷できたが、それも「改善」され、無効になっている。
こうなったら知恵比べ。意地でも動かしてやる。
・・・ならばと、丸窓をテープで塞ぎ新品を装ったが、騙せなかった。
ウォーム・アップ時にカムによる遮光時間や透過光量の変化率の推移でも計って、新品判断をしているようだ。
次に考えるのは、本体側のカウンター・リセット。色々試したが、工場出荷状態に戻すための、公開リセット法ではクリアできなかった。
必ず「隠しコマンド」がある筈。ネット上では旧モデル用のが何種類かあったが、全て無効。コロコロ変えているようだ。意地でも見つけ出してやる・・・
トナー残量管理は、殆ど規定枚数で行っており、その値はカタログ上の印刷可能枚数より遙かに少ないようだ。枚数制限で使用不可になっても、黒トナーでビジネス文書主体を例にすれば、概ねトナーは半分から2/3程度残っているそうだ。
仮に1ページにシアン青単色で「.」1個だけを印刷しようが、規定枚数で3色とも「ハイ、それまで~~よ~~」となる。オッサンにとっては「ふざけやがって。ふざけやがって。ふざけやがって。こんちくしょ~~。泣~けて来ぅ~るぅ♪」なのだが。
いくらケチッて「トナー節約モード」にしようが、殆ど関係ない。そんな素人の浅はかさをあざ笑うかのように、ちゃんと自爆機能が備わっているのだ。日本の大手メーカー技術者は、とても
ずる賢い。
勿論印刷内容によりトナー消費量は激変するので、カタログ値=参考値であることは、重々承知だが、それを免罪符に「やりたい放題」をしているような気がする。
なお、規定枚数以下でも、物理的な残量が不足した場合にも、警告および交換メッセージは表示され、印刷不可となる。本来はこっちだけで管理すべきだが、「高度な経営判断」が加味されているらしい。
おまけを言えば、カラー・モードの場合、黒部分の印刷には黒トナーを使わず、わざわざ3色のトナーを重ね刷りしているのも、全く解せない。これも売り上げ3倍増に貢献する。技術的には色ズレとトナー浪費を招く、デメリットのみの動きだ。
他メーカー、他機種を含めたレーザー・プリンターの一般論だが、こんな苦情に対応して、割り増し価格で「大容量買い得」タイプも販売されている。ただし一部には、物理的なトナー量は同じままで、自爆カウンターのみを「増量」したものもある。
こうなってくると戦略の域を通り越して、「やってしまった」領域に入ってしまったと思えてくる。
インク・ジェットの場合、「インク補充=お客様の誤った使用法」対策に、カートリッジ本体にもCPUが搭載され、それとプリンター本体が、電波で通信して残量管理と再使用不能の制御をする凝ったのまである。特許は勿論のことだが、経団連の重鎮が発行する「社長賞」の類も取っていそうだ。
そんなことにコストを掛けた使い捨て消耗品を、ユーザーは決して望まない。
同じ頭を使うなら、消費者が気持ちよく財布の口を開けることに、使って欲しいとつくづく思う。
インクの残量が1/3程度で使用不可とするものも多く、またインクの高額さ非難対策に、純正廉価版のインク・カートリッジを併売するモデルもあるが、こちらは高額版との価格差以上にインク量を減らしており、殆どはノズル清掃で消費し、印刷可能枚数は極端に少なく、結果的に「安物買いの銭失い」のお仕置きを受けることになる。
エコを推進するためとの謳い文句で、メーカーは使用済みのトナーやインクのカートリッジを回収して、善人振りを発揮しているが、主目的は別な気がしてならない。
悪あがきを続けること一晩、正確に言えば熟考と夢がごっちゃになった翌朝、結論として、目的達成した。
例のカム・ギヤを追加することなく、ソフト的に行った。
なお、この操作をすれば、カム・ギヤを内蔵したトナー・カートリッジでも、わざわざカートリッジを分解して、カム位置を新品位置にまでずらす作業は全く不要になると思われる。
ネット上ではカム位置が「使用中」位置になれば、トナーが使えなくなる旨の記述が全てだが、それは誤解ではないかと思う。このカムは新品時に本体内の印刷枚数カウンターをリセットするトリガー(きっかけ)のみに使われており、一度でもトナーを装着しウォームアップ運転すれば、カムは直ちに移動するからである。
人様の商売の邪魔はしたくないので、以下にコソッとヒントを解りにくく少しだけ、私の備忘録として記す。海の向こうでも悩んでいる方が多いので、気障ったらしいが「Japanglish」 で。
ファームのバージョンアップ時には、技術者の良心として、この機能を殺さないことをお願い致します。
Toner reset for HL-3040CN or HL-3070CW by software operations.
(No Toner Reset / Flag gear will be needed)
Operation_________________________Message
========================================================
1. Cancel (If tryed to print. Caution! Unprinted data will be lost.)
2. Open the Top (upper) cover.
___________________カバーが開いています。トップカバーを閉じてください
___________________Cover is opend. Close the Top cover
3. Press and hold CANCEL and SECURE PRINT at the same time.
___________________K.TNR-STD (cf. Black, Standard capacity)
___________________↑↓デセンタク&OKボタン
___________________The Toner menu
4. OK
___________________OK?
5. OK
___________________ウケツケマシタ (Accepted)
6. Down
___________________K.TNR-STR (cf. Black, High capacity?)
7. OK
___________________OK?
8. OK
___________________ウケツケマシタ (Accepted)
9. Down
Do the same operations(7 to 9) for
C.TNR-STD (Cyan)
C.TNR-STR
M.TNR-STD (Magenta)
M.TNR-STR
Y.TNR-STD (Yellow)
Y.TNR-STR
until K.TNR-STD will be displayed.
10. Back
11. Close the Top (upper) cover.
12. Have a can of beer and scream "I got it !"
蛇足:
これを逆手に取って、品のない「プリンター商法」をしようと思えば、トナーはプリンタ価格の2倍なので、
1.新品プリンターを購入
2.未使用トナーのみを売却
3.新品プリンターを2台購入
4.未使用トナーのみを2セット売却
5.新品プリンターを4台購入
6.未使用トナーのみを4セット売却
これを繰り返せば倍々ゲームが成り立ってしまう。
現状がまともな状態ではないのが、お分かり戴けるかと思う。あるいは、消耗品の交換を諦め、消費者が全て新品プリンターを使い捨てと割り切り、産業廃棄物の山を築くこともあり得る。
メーカーの見解では、日本人には持ち物に愛着を覚え大事にし、まだまだ使える物を捨てるのは、勿体なく忍びないという意識が強いため、たとえ消耗品が異常に高額でも、予想以上に素直に買ってくれるそうだ。日本人の美徳を押さえた戦略とのことだ。
また顧客の囲い込み戦略として、法人や官庁相手のルートセールス主体の販売店には、メーカーは無償で本体を卸しているケースもある。販売店はそれにリサイクル・トナーの束を付け、破格の好条件を提示すると、客は飛びついてくれる。消耗品と保守契約料で一気に初期投資を回収し、以後は継続的な固定収入が望める。
歪んだビジネス・モデルは、いずれ真っ当な第三者の出現で崩壊するかもだ。
本来の機能や目的以外の馬鹿げた対抗策に、お互いエネルギーや資金を投入するのは避けたいものだ。同じ知恵を絞るなら、双方が納得できる、未来に向けてのことに活かして欲しい。
近い将来、「EV商法」なる言葉が出てこないことを祈る。
実は現状もこれに近いが、3年目の車検時にバッテリー交換より、買い換えた方が・・・てな。
ちなみに、法改正により給電ステーションの有償化が認可されると、ある試算では、走行可能距離をガソリン換算にすると450¥/L程度になるかもと聞いたことがある。ガソリン車で10Lで行ける距離は、EVで給電ステーションで充電するなら4,500円かかる。もちろん家庭で充電するなら遙かに安価。
まぁ、おうちで呑むよりお外のほうがや、おうちでカーチャンとより、お外でオネータンとのほうが馬鹿高く・・・。そんな例を考えれば納得できるかも。