
私の知っている範囲で,市販車そのままで現在V10 F1に最も近い音は「かろーらGT」のだ。馬の存在を脅かす本当に良い音だと思う。
だが辛口に言えば,「かろーらGT」とて,F1の最終コーナーを立ち上がった後のストレートの音まではいかない。
ウォーム・アップとピット・ロードの音は再現・・・と言うとオーナーさんから鉈が飛んで来そうだが。
逆立ちしても今世では所有できない分際での,勿論無理な注文であることは間違いない。今まで音に対しては無頓着なポルAGが,「かろーらGT」では特別な配慮をしたと思われる。あの回転数であの音を実現したのは見事で,価格の1/3は音代に払ってもいいくらいだ。
F1との音の差は何に起因するか? オクターブが違い,根本的には爆発回数の差による。細かく言えばバルブ・タイミング,排気系の取り回しや材質・構造,クランクの違い等々もある。排気系の材質はインコネルで,耐熱性も高く硬質で衝撃波による高調波のレベルも大きい。
V10では16,000回転以上でないとこの音は絶対に出ない。バルブもエア駆動が要求され,勿論市販エンジンの改造では全く持って不可能な回転域である。ちなみに「かろーらGT」はこのクラスとしては異例に高いレブリミットで8,000ちょっとぐらい。
そこで身の回りの入手可能な部材を使って,F1の音を再現法を妄想してみた。
●バイクの4気筒エンジン × 3基
まず高回転エンジンの筆頭では世界に誇る日本製バイク。バイク屋さんの店頭に並んでいるものでも,600cc4気筒なら17,000回転以上は軽く回る。
これを3基接続すれば,迫力は劣るであろうが,近い音になるかも知れない。バイク3台並べて吹かしても無理なので念のため
難点は構成部品が多すぎ,メンテ性とスペースの点でボツ。
●V8 × 3基
7,000回転で爆発回数はV10の16,800回転に相当する。だがスペースの点で現実性に乏しい。
●M5のV10 × 2基 V12 × 2基
セダンとしては異例にいい音で良く回るM5だが,価格とスペースでこれも現実性に乏しい。V12も同様。
●4ローター
そこで急浮上してくるのがロータリーだ。
ルマンで優勝したマツダ787は,少し音質は異なるが,F1 V10に劣らない実に良い高周波音を響かせている。4ローターでレブ・リミットは9,000ぐらい。ペリフェラル・ポートで,市販車のサイド・ポートより衝撃波は大きく,音には泣きが入っている。
ロータリー・エンジンは,その構造ゆえピストンが1回転する間に3回爆発する。実際にはレシプロのクランク軸に相当する,エキセントリック・シャフトで増速されるため,出力軸の1回転につき1気筒の爆発回数は1回だ。
ロータリー・エンジンは2ストローク・エンジン同様に,爆発回数を上回る甲高い排気音がする。憶測だがバルブ構造に起因して,衝撃波による高調波音が出るようだ。
串にあたるエキセントリック・シャフトさえ入手できれば,団子のように気筒数を増やせる。記憶ではニュージーランドの機械工作メーカーから,4ローター用のエキセントリック・シャフトが市販されている。
オーストラリアやニュージーランドでは一時ドラッグ・レーサーの間で作られたようだ。日本でも少数だが製作例はある。
ただし組むこと自体はさほど困難ではないが,実用レベルとなると話は別のようだ。尼さんとも話したことがあるが,ワークス・チームは別として,まともに回る4ローター製作は無理とのこと。「とにかく音だけで良いんだから」と食い下がったが,尼さんが無理と言えば,それは実質不可能を意味する。
私の想像では,ハウジングやピストンは既存の2ローター用の部品流用が前提のため,十分なシャフト径やベアリング径を稼げず,捻れ/振動剛性を確保できないのではと思う。またハウジングとシリンダーをサンドイッチにして,ボルトで組み上げる構造なので,ハウジング全体の剛性や,芯出しというか直線性も出しにくいのかも知れない。
実際787のR26Bエンジンのシリンダーとハウジングには,市販車にはある,位置決め用のピンに相当するカラーは無く,職人が勘で組み立てているそうだ。
そもそも現実的にパワーを稼ぐには,2ローターのターボの方が遙かに有利で,元々振動や爆発間隔によるトルク脈動が少ないロータリーでは,4ローターの存在意義は薄い。
余談だがロータリーはミス・ファイヤに対して非常にシビアだ。即エンジン・ブローに繋がることが多い。セッティング中にお釈迦は日常茶飯事・・・4ローターともなればプラグも8本で,これも多気筒化の足枷となる。なおR26Bは特別でプラグは12本。
●3ローター × 2基
う~~ん困った。となるとロータリー本体のコンパクトさを活かして,3ローターの2基掛けしかない。
9,000回転の4ロータの爆発回数は
(9,000 × 3 × 1/3) × 4 =36,000回/分
7,000回転の3ロータの爆発回数は
(7,000 × 3 × 1/3) × 3 =21,000回/分
つまり2代目コスモの20Bを2基接続すれば,爆発回数は787の4ローターをも上回る。
うまく行けば「低速走行でもF1 V10サウンドを楽しめる!」
これが主目的でありモットーだ。テール・ヘビーでコーナリングは滅茶苦茶,最高速はさほどでもいい。
「飛ばさなくても音だけは楽しめる」
それが望みだ。特殊な部品は使わず比較的安価に。
次はミッドシップに縦置きで並列に3ローター2基を並べられそうな車体の目星だ。
軽トラの荷台になら楽勝なのだが・・・
F1 V10
かろーらGT
787(回転を抑えているが,フル・スロットルでは,もっともっといい音)
4ローター (2ローター用パーツ流用)
3ローター (ペリフェラル・ポート)