
海上から花火を見終わった後,帰路についた。
集結していた数十隻の船は四散して,それぞれの母港目指して航行している。
真っ暗な海上に小さな赤や緑の航海灯が揺れている。距離を置いて,前後に数隻の僚艇の航海灯が見える。
20人ほどの乗員はデッキの上から,夜景を楽しんでいた。
その時,右後方から大型艇が速度を上げて接近して来た。
当船とコースが同じなので,母港も同じ,サイズからして知り合いの船だろう。
30mほど右後方に付いたその船は,速度を緩めると,等距離を保って同航する。突然サーチライトがこちらの船に向けて照射された。知り合いに違いない。
右舷側を照射ビームが船首から船尾の間を左右し,ゆっくりと舐めるように照らす。満載したお嬢様方の品定めしているようだ。
こちらからは幻惑されて,相手の船の様子はまるで見えない。眩しい探照灯の光の塊が視認できるだけだ。
それにしても,しつこく照らしている。よほど気に入られたようだ。
私は船尾から振り向きざまに大声で叫んだ。
「どうだ,羨ましいだろ~~~!」
聞こえている筈だが,返答はない。浴衣姿を含め,お嬢満載で華やかなこちらに比べ,あちらは体育会系のノリの船なので,殆ど男ばかりの筈だ。
「そんなに欲しけりゃ,分けてやろうか~!」
まだ港までは距離がある。実際,洋上で食料や乗員が往き来することは,よくある。
相手の船は探照灯のビームを当てたまま,今度は左後方に移動した。そして今度は,左舷側に並んだお嬢様方をゆっくりと舐めるように照らし始めた。
普段からの遊び仲間とはゆえ,お嬢様方に対して,失礼になる。ちょっと,やりすぎだ。
「こっち側にも綺麗どころが並んでるだろ~~!」
相変わらず相手からは反応がない。
「そんなに羨ましいか~~!」
私は勝ち誇ったように叫んだ。
あちらがそこまで熱心なら,こっちもその熱意に応えなくてはならない。もっとサービスをと。
そこで更なる期待に応えるべく,突き出したおケツを,左舷側にずらりと並べて,披露しようかと画策した。スポット・ライトに浮かび上がる白い柔肌,それもオッサン達の。
その後に,回れ右すれば,ネルソン提督時代の木造砲艦よろしく,舷砲がずらりと並ぶことになる。
お嬢達を鑑賞した後の締めくくりとして,最高のデザートになる筈だ。実行する前に,そうこう思案を巡らしていると,探照灯が消えた。
相手船は速度を上げ,左舷側を追い越して行く。
月明りに船首の文字がうっすらと照らし出された。
「PCxxx」
そして灰色の船体に描かれた文字,
「海上保安庁」
取り締まりの一環として,搭乗人数を数えていたようだ。
「出ケツ大サービス」をやらなくて,良かった。
Posted at 2006/11/04 01:16:00 | |
世の中いろいろ | その他