
私の大好きな映画にOO7シリーズがある。「こんなオッサンになれたら」という夢を叶えてくれる。その二作目に「OO7 危機一発」というのがある。
米ソで「レクター」暗号解読機の争奪戦を繰り広げる内容だ。マット・モンローが歌う主題歌も好きだ。
原題は「From Russia With Love」で,後に邦題も「露西亜より愛をこめて」に変わっている。
日本での封切り当時には,「ダブル・オー・セブン」というカッコイイ呼び方は一般的ではなく,私は当初「ぜろ ぜろ ひち」と間抜けた呼び方をしていた。まるで引っ越し屋さんか質屋さんのCMだ。
正しい四文字熟語は「危機一髪」だが,「危機一発」は弾丸をイメージさせる「一発」と掛けて,洒落で付けた当て字だそうだ。
私ならボンド・ガール,それも今ではワシントン条約保護種であり,スッチーを上回る憧れの対象「ロシア女スパイ」との絡みに掛けて,「嬉々一発」とする。
だめ押しにボンド・ガール役のダニエラ・ビアンキは,元ミス・ユニバース,イタリア代表。
この映画以後,意図的か「危機一発」という誤用も,マスメディアで多用されているようだ。
脱線するが,映画において原題と邦題が,関連しないのは,ある程度やむを得ないが,不必要に原題と邦題が,かけ離れているのも困る。
映画好きの異人さんと話す時に,原題を覚えていない作品では,話が噛み合わず苦労する。
例を挙げれば,私の好きな古い作品に,「The night porter」というのがある。主演女優はまだあどけなさの残る,シャーロット・ランプリング。
ある夜,ウィーンのホテルにオペラ指揮者と,若い貴婦人の夫婦がチェックインする。そこで彼女は旧知の男と遭遇する。
男はかつて,強制収容所を支配する側の独軍将校だった。そして彼女はそこに収容されていた。男は戦後,ナチ狩りから逃避すべく,過去を隠し,人目を避けて,ホテルの夜勤従業員として暮らしている。
彼女は収容所での少女時代に,さんざん彼に辱められ,いたぶられた忌まわしい過去を持つ。記憶から消し去りたい存在だ。
二人はトラウマに苛まれながらも,それをかき消すか,懐かしむかの如くに,ドロドロした愛欲をむさぼり,甘美な破滅に安堵を求める。
・・・てな人間心理と男と女の複雑さを描いた,近松に通ずる逸品だが,これの邦題は何と
「愛の嵐」
これでは,昼メロの団地妻,よろめきドラマを連想させる。
いくら想像力を働かせても「The night porter」とは結びつかない。
ちなみに,この映画は実話がベースで,おまけに主演男優のダーク・ボガードは元連合国軍将校。最前線にいた彼は,戦時中,実際に強制収容所を独軍から解放した経験を持つ。
「危機一髪」に話を戻すが,以下は私の身近な最近の出来事。
ある日,車いじりをしようとした。いつもは工具を入れてある屋内ガレージの中でやるのだが,その日は無精して,そのA車の駐車場所でやろうとした。A車の駐車場所とガレージとは少し離れている。
まずリモコンでガレージのシャッターを開け,中に止めてある別のB車を中途半端に移動し,奥の大きな工具箱を移動させた。
リモコンはポケットに入れたままで,開いたシャッターの真下にはB車のルーフがある。
そうしてガレージから離れた場所で,A車をいじっていた。しばらくして,しゃがんだ拍子に,遠くでかすかに聞き覚えのある音がした。最初のうちは空耳だろうと,気にも止めなかったが,はたと凍り付いた。
「やばい! シャッターだ」
あせって辺りを見回し,リモコンを探すが見あたらない。
「ポケットの中だ」
ポケットの中をまさぐるが,すぐには出てこない。
「間に合わない」
私はガレージ目がけて,猛ダッシュした。
ポケットから取り出した,リモコンのボタンを押すが,焦っているためか効かない。
B車のルーフとシャッターとの隙間が10cmを切った。
私はシャッターの下に体を滑り込ませ,肩でシャッターを支え,無理矢理食い止める。
止まった。隙間は2cm。
ぜいぜいと肩で息をし,脂汗が流れるのを感じた。
ここで安心して肩の力を抜けば,押し縮められた状態のシャッターの先端は下がる。B車のルーフに当たるのは必至だ。そんなオチは欲しくない。
支えたままの姿勢でリモコンのボタンを押す。シャッターが上がりきった後,モーターのブレーカーを切った。
いつもは励行している,鉄則を破ったのが原因だった。
リモコンはポケットに入れない。
シャッターの下に車を止めない。
シャッター下に物があるときには,モーターのブレーカーを切る。
何事も「なにか変?」と違和感を感じた時は,即座に徹底的に原因を探る。
経験上,3つ以上のミスと不運が重なると,事故の確立が飛躍的に高まる。念には念を入れての,重要性をあらためて痛感した出来事だった。
私は自分のポカミスが原因で,何らかのダメージに及んだ時には,酷く自己嫌悪に陥る。
他人様のミスはあまり気にならなく,却ってそれを予測して,カバーできなかった自分を責めるほうだ。
危機一発,いや危機一髪。幸運に感謝した。
Posted at 2006/11/09 23:18:50 | |
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