流れ流れて その1
流れ流れて その9 ヴァン・リー !?
「ディーゼル,コンパクト,ナビ付き」
「特にナビは絶対ね」
「明朝は早く出発したいので,今日の内に手続きは済ましておくね」
私にしては珍しく前日にキッチリと準備を済ました。人間,馴れないことをすると,なにかが狂うことが多い。私の場合はドンデン返しを食らうことがよくある。
地方空港に隣接するレンタカー屋の事務所で,さっさと手続きを済ました。店を出ると夕暮れに店のネオン看板が浮かんでいる。
表の看板に書かれた閉店時刻まで優に3時間はあるが,客足が途絶えると店仕舞いを始める。ずらりと並んだ他のレンタカー屋も同様だ。
古都にあり小規模な空港ではあるが,そこはさすが欧州,近隣国への国際便も多く,いつも重宝している。
余談だがここの空港内にある航空会社のカウンターのオネータン,私の知る限り,ロシアを除く欧州随一の美貌だ。
ちと古いが初期の「バービー人形」を思い出させる,冷たく近寄りがたいほどの美しさだ。いつかメシでもと思ってはいるが,私にとってはここはいつも中継地点につき短い滞在のみで,なかなか時間が取れず悲しい。
・・・まあ,突撃しても,撃沈確実だろうが。
なおレンタカー屋のおば様は,ブスッとした愛想なし。
翌朝素早くホテルのチェックアウトを済ませ,開店前のレンタカー屋に行く。
開店時間になったが,まだおば様は来ない。
30分ほど遅れて開店。
「手続きは全て済ましているので,さっさとキーをくれ」
と言っても,
「仕事を始める準備をするから待っとれ」
とつれない返事と共に奥に消える。やがて奥からコーヒーの匂いが漂ってくる。勿論,客に出すコーヒーではない。
この国では「融通を効かしてテキパキ」や「お客様は神様」,「お客様をお待たせしては・・・」という言葉とは無縁だ。
やっとキーを受取り,200mほど離れたビル内の駐車場でご対面。
スペイン版フィアットである「セアト」だった。少し厭な予感が頭をよぎる。
ざっと外観の傷を確かめ,早速乗り込み,先ずはナビの行き先セットを・・・
と思うが,1DINのCDラジオのみでモニター画面がない。
「インダッシュとは,小洒落たマネを」
と全てのボタンを押すが出てこない。いや,コンソールやダッシュボードのあちこちを探すが,モニターが入りそうな空間すら見あたらない。
CDラジオにはナビ用らしき「NAV」ボタンがあり,小さな液晶パネルに,「行き先入れて」と表示はされているが・・・
気軽に「BITTE」と言われても,文字入力すらボタンとダイヤルの組み合わせのカラクリで大変だ。勿論マニュアルはない。
苦労して文字を打ち,驚くべき場所からモニターが出現か,はたまた前面ウィンドーにヘッドアップ・ディスプレーが映し出される驚異に淡い期待を込めて,エンター!
「ん??? なんじゃこりゃ!」
小さな液晶の端に「↑」マークが。
「やられた~~」
随分昔の記憶が蘇った。どうやらGPS方式のカーナビが出現する以前である1990年前後に,ヨーロッパの市街地向けに開発された方式のようだ。
発信器が設置された交差点に差し掛かると,矢印が←↑→と変化し,進行方向を指し示す方式だ。矢印のみが頼りで,地図は表示されない。
当時としてはシンプルで優れたインフラではあったが,大まかな地理が頭に入っている現地人ならともかく,「ガイコクジン」の私にとっては全く役立たない。道順はおろか現在地すらも判らず「ロスト・ポジション」・・・「ここはどこ?」になるのは確実だ。
ここまでの格闘ですでに1時間経過。ついに断念し事務所に戻る。
「あんなナビは役立たない」
「ナビはナビだ」
「検索しても行き先すらヒットしない。現代的なナビ付きの車に変えてくれ」
「ない! それより1時間も何をしていた? お前はアホか?」
ムカッと来るが,これぐらいのことで引き下がっては,ここでは生きていけない。
「ポータブル・ナビは?」
「予約していないから貸せない」
ここの会社はポータブル・ナビは無料サービスの筈だが,石頭で融通が効かない。
「そこの引き出しの中にあるだろ。金を払うから」
・・・押し問答の末,やっとしぶしぶナビを渡してくれた。
「料金は?」
「無料サービスだ」
サッサと渡してくれれば,お互い気持ち良いと思うのだが。
ナビをセットし,いざ出発。アウトバーンの入り口は目の前にあるが,右折禁止や一方通行規制で,本来はえらい遠回りをさせられる・・・のだが,見渡す限り通行車がいないのを確認の上,こそっと乗り入れる。
途中数多くの風力発電の羽根を通り過ごしながら,順調に走り,難なく目的地の博物館へ。
「オッ,駐車場も空いてる。しかも間近のが。ヨシヨシ」
「色々あったが,終わりよければ全て良し。これから後は念願の・・・」
足早に海に浮かんだお目当てのUボート「Type U-XXI」にワクワクしながら向かう。
「ガ~~ン!」
愕然とした。
乗り込めない。春まで休園なのだった。
この国らしく,真面目にご丁寧にも,わざわざ桟橋までもが撤去されている。残された橋桁が恨めしい。
リベンジしようにも,その頃は遠い別の国にいる。
やむなく博物館の屋内展示のみで我慢することに。
やはりこれからは,私らしく土壇場で直前の支度を心掛けよう。
参考情報:
Uボート Type U-XXI
1945年製で完成はしたが,実戦配備前に敗戦。
とても大戦中の物とは信じられない。まるでタイムマシーンで未来から送り込まれたかのような先進的な設計で,戦後の潜水艦はこれを手本として発達した。技術力の卓越さを見せつけてくれる。
横山光輝氏の漫画「サブマリン707」とも外観が似ている。
なお魚雷発射管のカバーは展示用に撤去されている。
下左の写真は映画「U571」に出てくる「エニグマ」暗号機の本物。
Posted at 2011/03/24 22:14:28 | |
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