
ついに重い腰を上げてヘッドを開けた。
遡ること数ヶ月前,ラジエターのアッパー側プラスチック・パイプ部が見事に割れ交換した。その後もストップ&ゴーの低速時のみに起こる,原因不明の水温上昇に悩まされていた。
冷却系全てをチェックしたが,おかしい箇所はない。ただ元々困難であったエア抜きが,度を越して吹き返しが激しかった。残るはヘッド・ガスケットの吹き抜け。だがその場合は,一般的には冷却水にオイルが混じる筈だが,その兆候は全くない。
ガスケット交換のみならば,サクサク進めば一日で終わる。若い頃は他車種ではあるが,出先で一晩で交換した経験もある。
嘗ては家族旅行にも大活躍してくれたが,めっきり出番の減った車で,取り掛かる前は手抜きで最小限の作業で済ますつもりであったが,やはり悲しいかな「ギジュチュシャ魂」がもたげ,いざ,やりだすと凝ってしまう。周りを含めてカーボン・スラッジ・オイル汚れとの壮絶な戦い,バルブ摺り合わせ,そして面の修正が9割がたの時間を占めた。
ここまでバラすなら,この先のことも考えると,いっそのことモーターに換装も考えた程である。
このエンジンでは平面度の基準精度は20ミクロンと手厳しい。
なお第二次大戦中からこの社の製品は1ミクロンの精度で作られていた。
ちなみにこれを厳格に守るには,通常の自動車整備用ストレートエッジでは役不足である。ミクロンにして精度1桁台3ミクロン程度の60cm級のものが要る。皮肉だが物差しの価格だけで,ディーラーでヘッドのオーバーホールができる。ただし新品のガスケットはどう見ても,ミクロンにして2桁後半・・・0.Xmm程度の精度しか出ていなく理解に苦しむ。高精度を追求するなら,本来ならシステムとしても追求すべき筈である。
本当のことを言うと,いくら高精度に仕上げたヘッドでも,組み上げてもう一度外すだけで精度は落ちる。当然ながら温度変化だけでも,うねうねとなる。厳密に言うなら温度XX度で精度XXという指定も必要になる。
・・・ということで自分のずぼらさを棚に上げて,屁理屈こねて精度追求は程々で誤魔化した。
脱線するが,超一級の気合いの入った和鉋では,オングストローム・オーダーの精度を出せる。写真の鉋はあくまでもネタとしての登場で,よい子の皆様は真似をしないでいただきたい。
鑿(ノミ)は髭が剃れる程度に研ぎ上げているが,勿論これも面研には使用厳禁。ただしアルミもサクサク削れるので力加減に気を遣うが,ガスケット剥がし,カーボン落としには威力を発揮する。
・・・で,結局のところガスケットは予想以上にマシな状態だった。ついでに冷却系全てを交換したが,依然解決には至らず万策尽き,「己の未熟さ」を恨みながらため息混じりに組上がったエンジンルームを呆然と眺めていた。
「ん?」「何か変」
何とラジエターのアッパーとロワーのホースが逆に繋がっている!!!
全ての不思議な現象の説明が付く,全く持って恥ずかしい限りの凡ミス。
以前に時間が全く取れない時に,時差惚けの朦朧状態で,出発時刻の迫りに焦りながら,深夜の突貫工事でラジエターを取り替えた時に間違えていたのである。逆でも綺麗に収まる,のたくり回ったホースも罪作りだ。
実はこの車,一時買替えも検討したが,娘のこの一言で考え直した経緯がある。勿論悲しいかな,財布の都合も,これといって欲しいのがないというやせ我慢もある
「えぇ~。なくなっちゃうの。寂しいな,気に入っていたのに」
物心ついたころから家族同様に慣れ親しんだ娘の心情としては理解できる。
「自分でも全てを弄れる最後の世代の車,もうしばらく置いておくか」と発起し,電気系,燃料系,冷却系のほぼ全てを予防的延命措置として一新したが,最近帰省した娘の言葉,
「そんなに手が掛かるなら買替えたら? お金がないなら私が買ってあげようか?」
女心は移ろいやすい。なお娘は物の値段には疎い。
余談ながら同車種の24を持っていた友人に会った折に尋ねた。
「さすがにもうないでしょ?」
「あるよ」
「え~~!」
「カブリオレも」
「え~~! え~~~~っ!」
ヘッド弄りのお好きな御仁には,空冷ドカッティをお勧めする。高度な機構にも拘わらず,僅か4個のナットを緩めるだけでヘッドが外れる。カエルの912も楽だ。
この車,購入時には24にするか12にするかで悩んだが,お使い用途が大半,低速トルクに勝る12バルブを選択した。12本でさえうんざりした摺り合わせ,24本ともなると考えるだけでもゾッとする。
「24でなく12で良かった」
Posted at 2010/06/05 10:05:32 | |
おか | その他